遷延性意識障害
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遷延性意識障害
概要
診療科神経学
分類および外部参照情報
ICD-9-CM780.03
Patient UK遷延性意識障害
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遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)とは、重度の昏睡状態を指す症状。植物状態(しょくぶつじょうたい)、通称ベジといわれる状態のこと。持続的意識障害、持続的植物状態(: persistent vegetative state)ともいわれる。
定義

日本脳神経外科学会による定義(1976年)
自力移動が不可能である。

自力摂食が不可能である。

糞・
尿失禁がある。

声を出しても意味のある発語が全く不可能である。

簡単な命令には辛うじて応じることもできるが、ほとんど意思疎通は不可能である。

眼球は動いていても認識することはできない。

以上6項目が、治療にもかかわらず3か月以上続いた場合を「遷延性意識障害」とみなす。
原因

大脳の全面的または大部分または広範囲が壊死または損傷することにより発症する。主要な原因は下記の種類である。

事故その他の頭部外傷による脳挫傷、びまん性軸索損傷。

脳梗塞脳出血クモ膜下出血

心筋梗塞などの心臓疾患、胸部への衝撃、毒物摂取、窒息・酸欠などによる心肺停止による血流・酸素供給の一時的な途絶、5分以上の場合は可能性が高くなる。

脳腫瘍

脳炎髄膜炎

植物状態と脳死の差異

「植物状態」は、一般的にはの広範囲が活動できない状態にあるが、辛うじて生命維持に必要な脳幹部分は生きている状態のこと。植物状態では自発呼吸があり、脳波も見られる。遷延性意識障害になった後に、意識が回復した事例は多数報告されている(下記の回復の可能性の節、日本の治療施設と回復実績の節を参照)。

一方脳死は生命維持に必要不可欠な脳幹機能が不可逆的に損傷している状態のこと。脳死の場合は意識は回復せず、しばらくすると心拍や呼吸も停止して死に至る[1]。ただ、自発呼吸や脳波が確認される場合がある。その場合は一概に脳死と断定することはできない。
意識とコミュニケーション

英ケンブリッジ大のエードリアン・オーウェン博士によると、正常な意識があり、脳スキャナーによって思考の伝達が可能な植物状態の患者もいる[2][3]。ただし、この場合でも今のところ、こちらが出す質問に「はい/いいえ」と回答してもらうのが限界であり、複雑な会話はできない。
回復の可能性

遷延性意識障害になった後の意識の回復症例は、下記の治療施設と回復実績の節に記載されているように、臨床の現場から多数報告されている。回復の可能性は、植物状態になった原因により、一般的には、頭部外傷>脳卒中>低酸素脳症であり、患者の年齢的には年齢が若いほど高くなる傾向がある。回復の程度は、最小意識状態高次脳機能障害知的障害、発症前と同等の健常者状態など多様である。

有名人の事例として、F1レーサーであったミハエル・シューマッハは2013年12月29日に、スキー中の事故で脳を損傷し、意識が回復せず遷延性意識障害状態になったが、事故から5か月と18日(169日)後の2014年6月9日に意識を回復してリハビリ病院に転院してリハビリを開始し、事故から8か月と11日(254日)後の2014年9月9日に退院して自宅に戻り在宅療養・リハビリに移った[4]

2014年11月?12月の時点で、シューマッハの主治医、家族、マネージャーは、シューマッハの回復状況に関する報道で、シューマッハの主治医であるジェラール・サイヤンはFIAの広報担当者を通じAFP通信に対して、マネージャーであるザビーネ・ケームはドイツの新聞ビルトに対して、サイヤン、ケーム、シューマッハの妻であるコリーナらによる公式発表などの一次情報の出典がない伝聞による情報・報道は信ぴょう性がないと述べている[5][6]。ケームは2014年11月23日時点で、ドイツのテレビ放送RTLに対して、シューマッハの状態は「ケガの深刻さに合った進歩」をしているが、事故前の健常者だった状態に回復する可能性や、回復にかかる時間は、現時点では断言できない、どの程度まで回復するにしても、長い時間がかかり、困難な過程になると予想されると述べた[7][8]
治療施設と回復実績
自動車事故対策機構の業務提携病院

交通事故の場合には被害者が脳に激しい衝撃を受けて遷延性意識障害になる例が多いことから、事故被害者の支援業務を行う独立行政法人自動車事故対策機構 (NASVA)では、交通事故による遷延性意識障害者を、植物状態からの回復を目指した治療・看護を行なう専門の療護センター(病院)を、千葉県千葉市、宮城県仙台市、岡山県岡山市、岐阜県美濃加茂市、北海道札幌市、福岡県久留米市、大阪府泉大津市、前記の全国7か所の病院と業務提携して設置・運営している[9][10]

1984年2月に最初の病棟が開設されて以来、2016年12月31日までの33年間に、下記の8病院290床合計で、累計で1,415人の患者を受け入れ、累計で1,171人の退院者のうち、372人(31.8%)が遷延性意識障害から回復して退院、701人(59.9%)は遷延性意識障害が回復せずに退院、98人(8.4%)は死亡による退院が報告されている(回復退院率・非回復退院率・死亡退院率は小数第2位で四捨五入して小数第1位で表記しているので、全体の合計が100.0にならない場合がある。)[11]

千葉県千葉市にある医療法人社団誠馨会の千葉療護センターは、1984年2月の開設、80床[12]

宮城県仙台市にある一般財団法人広南会の東北療護センターは、1989年8月の開設、50床[13]

岡山県岡山市北区にある社会福祉法人恩賜財団済生会支部岡山県済生会の岡山療護センターは、1994年6月の開設、50床[14]

岐阜県美濃加茂市にある社会医療法人厚生会の中部療護センターは、2001年7月の開設、50床[15]

北海道札幌市にある社会医療法人医仁会の中村記念病院は、2007年12月の開設、12床[16]

福岡県久留米市にある社会医療法人雪聖母会の聖マリア病院は、2007年12月の開設、20床[17]

大阪府泉大津市にある泉大津市立病院は、2013年1月の開設、16床[18]

神奈川県茅ヶ崎市にある湘南東部総合病院は、2013年1月の開設、12床[19]

愛知県豊明市にある藤田医科大学病院は、2018年1月の開設、5床

石川県野々市市にある金沢脳神経外科病院は、2019年1月の開設、5床

愛媛県松山市にある松山市民病院は、2020年2月の開設、5床
藤田医科大学医学部

藤田医科大学医学部脳神経外科では、遷延性意識障害患者に対する意識回復のための治療方法として、脊髄後索電気刺激(Dorsal Column Stimulation)療法と、上位頸髄損傷や中枢性呼吸障害に対する呼吸ペースメーカー(横隔膜ペーシング)療法により、1985年?2009年まで24年間に下記の患者139人中96人(69.1%)の回復事例が報告された[20]

外傷による患者64人中、11人(17.1%)は言語理解・意思疎通・経口摂取・随意運動が可能な状況まで回復し、34人(53.1%)は追視・限定的嚥下・感情表出・筋肉の緊張緩和の状況まで回復した[20]

脳卒中による患者33人中、7人(21.2%)は言語理解・意思疎通・経口摂取・随意運動が可能な状況まで回復し、17人(51.5%)は追視・限定的嚥下・感情表出・筋肉の緊張緩和の状況まで回復した[20]


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