違憲判決
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違憲判決(いけんはんけつ)とは、憲法訴訟において、法令行政措置が憲法違反しているという裁判所による判決日本国憲法では前文第81条違憲審査制)、第98条の規定による。なお、本ページでは判決のほか、家事審判等における決定で違憲の言及があったものを含む。
効力

日本では特に、最高裁判所による判決をいう。ただし、下級裁判所違憲審査権を行使することはできる。しかし、下級裁判所の違憲判決については必ず最高裁判所への上訴が認められる(民事訴訟法第312条・第327条・第336条、刑事訴訟法第405条第1号・第433条など)ため、確定判決としての違憲判決は原則として最高裁判所が下すこととなる。仮に特定の案件に関して最高裁判所への上訴がなされずに確定したとしても、その憲法的論点については、その後、他の案件にて最高裁判所が審理した際に異なった判断がなされる可能性があることから(これはいわゆる判例変更にはあたらない)、終審裁判所としての最高裁判決に特に重みがある。

最高裁判所で違憲判決を出すには、15名で構成される大法廷において最低9人が出席し(最高裁判所裁判事務処理規則7条[1])、最低8人が違憲判決を支持することが必要である(同規則12条)。違憲判決は、その要旨が官報において公告され、かつその裁判書正本が内閣に送付される。法令違憲判決については、国会にも正本が送付される(同規則14条)。

最高裁判所が法令違憲の判断をした場合、当該法令が直ちに無効になるのかについては、二説の争いがある。詳細は「憲法訴訟#法令違憲判決の効力」を参照
個別的効力説
その事件についてのみ法令を無効とする。付随的審査制では、事件の解決に必要な限度で審理が行なわれるので、違憲判決の効力も、その事件に限られると解するのが、妥当とされ通説となっている。
一般的効力説
一般的に法令を無効とする。一般的に無効とすると、消極的な立法作用を認めることになり、憲法41条に反すると考えられている。
日本の最高裁判所における違憲判決一覧

それぞれの詳細は、憲法の各条文または各事件を参照のこと。

なお、非嫡出子の法定相続分規定及び性同一性障害者特例法に関する最高裁の違憲判断は、厳密には判決ではなく決定によるものであるが、「違憲判決」として記載する。
法令違憲

法令違憲とは、法令の全部又は一部に対して違憲を宣告するもの。ただし、日本など付随的違憲審査制の場合、違憲判決は当該案件を解決するための限度において、該当法令を無効とするものであり、法令違憲の違憲判決が、すなわち当該法令や条例の廃止を意味するものではない。該当法令の修正には、国会において、法令を改正または廃止する必要がある。

しかし、その法令や条例を適用し、再び裁判所において審査がなされた場合、同様の違憲無効判決が下されることが、立法府や行政府に対する、当該条項改廃への強制力となり、当該法令は確定判決後に無効・無力化される。
尊属殺人重罰規定詳細は「尊属殺重罰規定違憲判決」を参照

1973年(昭和48年)4月4日 刑集27巻3号265頁 - 日本国憲法第14条 × 刑法第200条

尊属殺人罪を普通殺人罪より厳罰にする規定自体は合憲だが、酌量減軽を行っても執行猶予を付すことができないなど、普通殺人罪と比較してあまりにも厳罰化し過ぎである規定については、家族に対する敬愛や報恩という、自然的情愛ないし普遍的倫理の維持尊重の観点「人倫の大本、人類普遍の原理」という立法目的をもってしても、なお合理的根拠に基づく差別的取扱いとして正当化することはできず、憲法14条1項に違反する。

6名の裁判官(田中二郎下村三郎色川幸太郎大隅健一郎小川信雄坂本吉勝)の、尊属殺人罪を普通殺人罪より厳罰にする趣旨そのものも違憲であるとする意見、1名(下田武三)の、本件規定は合憲であるとする反対意見がある。

刑法はただちに改正されなかったが、法務省確定判決を受けて尊属殺については、一般の殺人罪である刑法199条を適用する運用を行うよう通達を出し、刑法200条は以降適用されず死文化した。その後、1995年平成7年)5月12日、法文の現代仮名遣い化による刑法改正(平成7年法律第91号)で、刑法200条と尊属加重刑罰が削除された(同年6月1日施行)。

薬事法距離制限規定詳細は「薬局距離制限事件」を参照

1975年(昭和50年)4月30日 民集29巻4号572頁 - 日本国憲法第22条 × 薬事法第6条第2項

薬事法の適正配置規制は、立法目的(不良医薬品の供給の防止)を他の手段で実現できるものであるから、憲法22条1項(職業選択の自由)に違反する。

裁判官全員一致の意見である。

同年6月の薬事法改正で、距離制限は撤廃された。

衆議院議員定数配分規定 その1詳細は「一票の格差」を参照

1976年(昭和51年)4月14日 民集30巻3号223頁 - 日本国憲法第14条第44条 × 公職選挙法

一票の格差が1対5である公職選挙法の定数配分は、憲法14条1項(法の下の平等)、44条但書き(普通選挙等)に反する。

法令は違憲だが、選挙自体は有効とした(事情判決)。

裁判の対象になった選挙の後1975年に定数20増がされた。

衆議院議員定数配分規定 その2

1985年(昭和60年)7月17日 民集39巻5号1100頁 - 日本国憲法第14条、第44条 × 公職選挙法

一票の格差が1対4.40である公職選挙法の定数配分は、憲法14条1項(法の下の平等)に反する。

1976年と同じ事情判決の法理を用いて選挙自体は有効とした。

1986年に8増7減の定数是正を行う。

森林法共有林分割制限規定詳細は「森林法共有林事件」を参照

1987年(昭和62年)4月22日 民集41巻3号408頁 [1] - 日本国憲法第29条 × 森林法第186条

共有林について、その持分価額が2分の1以下の共有者が当該共有林の分割を請求することを制限する規定は、憲法29条2項(財産権の保障)に照らして無効である。

2名の裁判官(大内恒夫高島益郎)の、森林法186条の全部が違憲なのではなく、持分価額がちょうど2分の1の共有者が分割を請求することができない旨に限って違憲(分割請求権の制限そのものは合憲)であるとする意見、1名(香川保一)の、本件規定は合憲であるとする反対意見がある。

1987年、同規定などを削除する法改正が行われた。

郵便法免責規定詳細は「郵便法事件」を参照

2002年(平成14年)9月11日 民集56巻7号1439頁 - 日本国憲法第17条 × 郵便法第68条、第73条

書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条(及び地方公共団体国家賠償責任)に違反する。

法令の規定のうち、可分な一部のみについての法令違憲判決が下された初めての事例。

2名の裁判官(福田博深澤武久)の、最高裁判所の憲法判断は立法府の裁量権の範囲とは関係なく客観的に行われるべきものであり、本件判決の多数意見のように消極的に行われるべきではないとする意見、1名(上田豊三)の、特別送達について軽過失による損害賠償責任を免除している規定については合憲であるとする意見、1名(横尾和子)の、特別送達以外の書留郵便についての重過失又は故意による損害賠償請求を制限している規定については合憲であるとする意見がある。

判決後、2002年に郵便法の改正が行われた。

在外邦人の選挙権制限規定詳細は「在外日本人選挙権訴訟」を参照

2005年(平成17年)9月14日 民集59巻7号2087頁 - 日本国憲法第15条第44条 × 公職選挙法

在外日本人に国政選挙における在外選挙制度による選挙権行使を認めていなかった公職選挙法は、憲法15条(成年者普通選挙保障)、44条(普通選挙等)に違反する。


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