道具屋(どうぐや)は古典落語の演目の一つ。古くからある小咄を集めて、一席の落語にしたオムニバス形式の落語である。 原話がある場合は、各章の末尾に記載しておく。 神田三河町の大家・杢兵衛の甥っ子の与太郎。もう二十歳にもなるのに、働かないで遊んでばかりいるため、叔父さんは常にハラハラさせられている。 「お前のお袋がな、『何か商売を覚えさせてくれ』と言っていたが…何かやるか?」 彼自身も、遊んでばかりいてはいけないと考えており、この前珍しく商売をしてみたというのだが…? 「伝書鳩を買ってね、あたいのところに戻るよう訓練するんだよ。そうすれば、他人に売っても絶対にあたいの所へ戻ってくるだろ? それを繰り返して大儲け…」 叔父さんは唖然。それでも、ほうっておく訳にはいかないと思い、自分が『副業』でやっている"あること"をやらないかと提案した。 「知ってるよ、アタマに『ド』の字のつくやつだろ?」 元帳があるからそれを見て、いくらか掛け値をすれば儲けになるから、それで好きなものでも食いなと言われて与太郎早くも舌なめずり。 しかし…その品物というのが凄かった! 「その鋸はな、火事場で拾ってきた奴なんだ。紙やすりで削って、柄を付け替えたんだよ」 股引は履いて"ヒョロッ"とよろけると"ビリッ"と破れちゃう『ヒョロビリ』だし、カメラの三脚は脚が一本取れて『二脚』になっている。 「まぁ、置いとけば誰かが買ってくれるよ。場所は蔵前の伊勢屋っていう質屋の前だ。友蔵っていう人が采配をやっているから、訊けば色々教えてくれる」 いわれた場所へやってくると、煉瓦塀の前に、日向ぼっこしている間に売れるという通称『天道干し』の露天商が店を並べている。 「おい、道具屋」 道具屋ビックリ…。 「友蔵っていう野郎はいるか?」 友蔵さん度肝を抜かれたが、「ああ、あの話にきいている杢兵衛さんの甥で、馬…」…と言いかけて口を押さえ、商売のやり方を教えてくれた。 最初にやってきたのは、威勢のよさそうな大工の棟梁。 「おい、その"ノコ"見せろ」 要は『鋸』の事だった。 「(焼きが)甘そうだなぁ…」 勘違いして鋸をなめ、ゲーゲーしたりと大混乱。その上、『火事場で拾ってきた』という内輪の話を喋ってしまったため、棟梁はあきれて帰ってしまった。 「アーぁ、"ションベン"されちゃったな」 次に来たのは車屋。 「"タコ"見せろ」 手にとるとなかなかいい品物なので、買おうとすると。 「あなた、断っときますが、小便はだめですよ」 これでまた失敗…。 お次は田舎出らしい中年紳士。 「カメラの三脚か。ちょっと、それを見せてくれんか?」 がっくり来た紳士がひょいと横を見ると…なかなかよさそうな短刀がおいてある。 「おい、その短刀を見せんか」 刃を見ようとするが、錆びついているのか、なかなか抜けない。 「反対側から引っ張れ。抜くのを手伝うんだ。一・二の…サン!! ぬーけーなーい!」 ギャフン。 「"抜ける物"はないのか?」 手にとると、なかなかいい品物だ。 「これはなんぼか?」 次に来たのはご隠居さん。 「ひどい埃じゃな。ちゃんとハタキをかけておかなくてはいかんよ」 小言を言いながら、傍らにある笛を手に取った。 「ホレ、見なさい。この笛なんか、穴に煤がたまっておる。買う前に掃除しなければ…指が抜けない!」 なんと、掃除しようと突っ込んだ指が抜けなくなったのだ。 「困るなぁ。それ、売り物なんだけど」 その形態ゆえにどこで切ってもよく、人物の出入りも自由なため、寄席の時間調整には重宝がられている。 通常は『前座の修行用』の噺とされているが、実は初代三遊亭圓朝の速記も残っている。
主な演者
物故者
五代目柳家小さん
林家彦六
四代目春風亭柳好
二代目桂春蝶
現役
林家木久扇
道具屋が初高座の落語家
十代目柳家小三治
三代目古今亭圓菊
春風亭百栄
あらすじ
発端
「いいよ、そんなの」
「へんなことを考える奴だな。で、上手くいったのか?」
「いんや。放してみたんだけど、鳥屋に帰っていっちゃった」
「何だ、知っていたのか」
「うん、泥棒!」
「道具屋だよ…」
お雛様の首はグラグラで抜けそうだし、唐詩選は間がすっぽ抜けていて表紙だけ…。
下準備
「へい、何か差し上げますか?」
「おもしれえな。そこになる石をさしあげてみろい」
「俺だよ」
「なるほど。海老蔵っていうツラじゃねぇや」
最初の客
「のこ…ノコニある?」
「"ヤリトリ"だよ」
「命の?」
「(味が)甘いの?」
「しょんべん? トイレは向こうですよ…?」
「違うよ! 道具屋の符丁で、【買わずに逃げられること】を言うんだ!」
二人目の客
「蛸? 魚屋はそこの角を曲がって六件目…」
「股引の事だ!」
「だって、割れてるじゃねえか」
「割れてたってダメです」
宝永4年(1707年)に出版された笑話本・「露休置土産」の一遍である『小便の了見違』。
三人目の客
「あ、それ…、足が二本しかないんですよ」
「それじゃ、立つめえ」
「だから、石の塀に立てかけてあるんです。この家に話して、塀ごとお買いなさい」
「抜けないはずです…! 木刀です!! 」
「えーと…あ、お雛様の首!」
「それは抜けん方がいいな。じゃあ、その鉄砲を見せい」
「一本です」
「代じゃ」
「樫です」
「金じゃ!」
「鉄です」
「値(ね)は!?」
「ズドーン!」
安永2年(1773年)に出版された笑話本・「今歳花時」の一遍である『鉄砲』。
最後の客
「仕方がない。これ、幾らじゃ?」
「お有難うござい!! 掛け値、掛け値…十万円です」
「高すぎる! 貴様、足元を見たな?」
「いいえー、手元を見ました」
安永3年(1774年)に出版された笑話本・「稚獅子」の一遍である『田舎者』。
概略
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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