過労自殺
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"No More Karoshi"のデモ(東京、2018年)

過労死(かろうし、英語: kar?shi, overwork death)とは、働き過ぎによる過労のため死亡すること[1]。基本的に重い作業負荷と長時間労働を原因とする心血管発作(脳卒中心筋梗塞、急性心不全など)による死亡、および関連する作業障害を指す社会医学用語である[1]労働災害の一つである。過労や長時間労働はうつ病などの精神障害燃え尽き症候群を引き起こしがちで、その結果自殺する人も多いため過労死に含められるようになった。

この現象は残業文化(効率のいい有能な定時帰宅者よりも、意図的にダラダラ残業や付き合い残業している人の方が評価される文化)のある日本で最初に確認され、日本語の「カロウシ」は国際的に採用された[1][2][3]。残業文化は若い女性や子育て女性の邪魔にもなっている[3]。過労死が注目されたことは、諸外国の労働者でも、自国の労働者たちを働かせ過ぎることが問題視されるキッカケとなった。それでも2008年から2009年のフランスの大手通信会社フランス・テレコム(オレンジ)の従業員37人が過労などをきっかけに自殺を次々と図るという事件が起きたりしている[4]2002年ローマ字の「kar?shi(カロウシ)」という語句がオックスフォード英語辞典にも掲載されたが、英語: overwork death でも通用する[5]国際労働機関(ILO)は、過労死は日本の重要な社会問題であると報告している[1]BBCは韓国での過労死の際に「kwarosa(過労死の韓国語)」とローマ字で表記し、報道した[6]

過労自殺( Karojisatsu,rapidly increasing number of work-related suicides [7],suicide from overwork and stressful working conditions[8])とは、働き過ぎ又は職業性ストレスの高い労働環境に起因する自殺のこと[1]。過労自殺については、短時間労働でも自殺者が相次いだフランステレコムの事例を受け、労働時間の長さではなく、(労働の)密度の濃さが原因と指摘されている[9]
定義

日本の過労死等防止対策推進法では、過労死を以下のように定義している。

 この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。 ? 過労死等防止対策推進法第2条

過労が原因となって、心筋梗塞脳出血クモ膜下出血、急性心不全、虚血性心疾患などの心臓の疾患を引き起こし死に至る。また過労はしばしばうつ病などの精神障害を引き起こすが、これにより過労自殺した場合も「過労死等」に含めている。

何をもって「過労死」とするかについては、文献によってもずれがあり、また時代とともに変化してきた。古い資料では例えば、厚生労働省2002年に発行した「産業医のための過重労働による健康障害防止マニュアル」では「過労死とは過度な労働負担が誘因となって、高血圧動脈硬化などの基礎疾患が悪化し、脳血管疾患や虚血性心疾患急性心不全などを発症し、永久的労働不能または死に至った状態をいう」としており[10]、過労自殺は含まれていなかった。その後の判例の積み重ねなどにより、過労自殺も過労死に含められ、労働災害として認定される道も開かれてきた。

厚生労働省の統計によると、2014年時点で過去10年ほどの間に過労による自殺者(自殺未遂も含む)が約10倍に増え[11]2013年時点で日本で196人が過労死している[12]。40代から50代の働き盛りのビジネスマンに多いとされてきたが、近年では20代の若者も増加傾向にあり、年齢層は広がっている。

やや古い資料ではあるが、2010年の厚生労働省の報道発表資料によれば、女性も増加傾向にあるものの、大半は男性である[13]。これは男女の就労状況の違いに加え、もともと日本の自殺率自体の男女差が大きいことも背景にある。
原因

長時間労働、多くの仕事量、職場マネジメントの欠如、日常的で繰り返しの多い仕事、人間関係の対立、不適切な報酬、雇用の不安、組織の問題は、職場における心理社会的な危険につながりえる[1]。長時間労働の主な原因となるのは時間外労働の増大である。

重労働、職業性ストレスの原因とその例として、国際労働機関は以下を挙げている[1]
深夜徹夜休日労働[1] - バブル崩壊により人員削減が進んだが、仕事の総量は減らされていなかった[1]

目標未達によるフラストレーション[1] - 景気後退の場面でも、企業は過度のノルマを従業員に課した[1]。これは心理的な負担、ストレスとなった[1]

退職強要解雇、いじめ[1] - 長年企業で働いた従業員も、突然解雇された[1]

中間管理職の苦悩[1] - 管理職はしばしば従業員を解雇する立場にあり、企業改革と従業員保護のジレンマにあった[1]

背景

国際労働機関 (ILO) は、人道的な労働条件の確立をめざして具体的な国際労働基準の制定を進めており、多くの国際労働条約を採択している。しかし現在においても、日本やアメリカのようにILOが採択した183条約(失効5条約を除く)の多くを批准していない国、批准した条約を遵守していない国が存在している。

とりわけ、先進国の日本で過労死が多発している事象については世界的にも稀有な例として見られており、日本は先進国であるにもかかわらず労働基準法が遵守されていない国として認識されている。労働運動側は国際労働条約の批准を求めているが、産業界は反対している。
メカニズム

過労死には一般的に、以下の2種類の直接的原因が知られている。
精神疾患による自殺「産業精神保健」も参照

働き過ぎは精神のバランスを喪失させ、への願望(希死念慮)をもたらす。「眠りたい以外の感情を失った」と訴える患者もおり、抑うつ状態うつ病である場合が多い。ただ「労働時間の長さ=自殺の危険性」というわけではなく、人により許容度が異なるが、それを職場の上司が理解していない場合が多い。また、オフの時間の過ごし方も影響する。厚生労働省の平成28年版「過労死等防止対策白書」によれば、睡眠不足の第一の原因は残業時間の長さで36.1%である[14]
心臓・血管疾患による死亡

長時間労働は疲労を蓄積させ、血圧を上昇させる。そのことにより血管は少しずつダメージを受け、動脈硬化をもたらし、脳出血や致命的な不整脈を起こしたり、血栓を作り心筋梗塞脳梗塞を引き起こす[14]


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