過剰消費
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過剰消費(かじょうしょうひ、overconsumption?)とは、人類が天然資源を持続可能な生産力を超えて消費している状態をいう。この用語は必ずしも統一された定義を持っているわけではないが、[1] ここでは辞書などで定義されている意味、例えば「アルコールの過剰消費はアルコール中毒につながる」[2]といった単純な文字通りの意味ではなく、「天然資源を地球環境に悪影響を与えるまで消費した」という意味で使われる場合について述べる。しばしばそれは過剰利用(overuse)という用語と同義である。天然資源とくに化石燃料の過剰消費はわずか100年ほどのことだがすでに地球温暖化プラスチック汚染などの壊滅的な地球環境悪化を引き起こした。

現行のグローバル経済は過剰消費をいくつかの要因によって促進している。過剰消費が続くと最終的には資源の基盤が失われる。過剰消費は、消費主義計画的陳腐化・その他の持続不可能なビジネスモデルといった強制力を含む、現在の世界経済の多数の要因によって引き起こされ、持続可能な消費と対極にある。

過剰消費の議論は、人口規模その増加・人間開発のそれと似通っている。つまりより多くの人々がより高い生活の質を求めることで、より多くの資源を搾取する必要が生じ、それに次ぐ気候変動や生物多様性の喪失などの環境破壊が引き起こされる[3][4][5][6]。2008年の論説によれば富裕国の住民は発展途上国の住民の約32倍の速さで資源を消費した[7]。発展途上国も急速に購買力をつけており、アジア・アメリカ・アフリカの諸都市を含むグローバル・サウスは、2030年までに消費増加の56%を占めると予想されている[8]。すなわち現在の傾向が続く場合、相対的な消費の割合がこれらの途上国に移っていく。
原因
経済成長もし全ての人類がアメリカの水準で資源を消費したら、もう4つか5つの地球が必要になるだろう?ポール・R・エーリック, biologist[9]

経済成長はその維持のためさらに大きな資源投入を必要とし過剰消費を引き起こす。中国ではGDPは1978年から急激に増加しエネルギー消費量も6倍に増加し[10] 、わずか5年後1983年までに中国は過剰消費を引き起こした。[11] 以来40年間、中国は著しい経済成長とともに、大気汚染、土地劣化、および再生不能資源の枯渇が著しく増加した。[12] 他の急速に発展している国々も同様の経緯をたどるかは2023年現在わかっていないが、2005年の「The State of the World」報告書でWorldwatch Instituteは、経済が急成長している中国とインドおよびアメリカが地球の生態圏影響の3大勢力で、中国とインドの経済成長は深刻な汚染の現実を浮き彫りにしたとし「中国、インド、日本、ヨーロッパ、アメリカの野望、および世界の他国の願望を持続可能な方法で満たすには、地球の生態的な容量はとにかく不十分である」と述べている。[13]

2019年、150以上の国の11,000人以上の科学者によって署名された気候危機に関する警告によれば、経済成長は「資源の過度な採取と生態系の過剰利用」の背後にある推進力であり、「生態圏の長期的な持続可能性を維持するためにはこれを迅速に抑制する必要がある」と述べている。[14][15] 国際連合の生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォームが発表した「世界的な生物多様性と生態系サービスの評価報告書」は、人間の活動により植物や動物の最大で100万種が絶滅の危機に瀕していると結論づけ、[16] 「より持続可能な将来の政策の鍵となる要素は、グローバルな金融および経済システムの進化であり、現行の経済成長の限られたパラダイムから逸脱し、グローバルな持続可能な経済を構築することである」と述べている。[17]
消費主義、計画的陳腐化、富裕層の増加

消費主義は、物品やサービスを必要以上に増加させるよう奨励する社会的および経済的な圧力である。人類は絶え間なく飲食物、衣類や履物、住居、エネルギー、テクノロジー、交通、教育、健康と個人のケア、金融サービス、およびその他の公共サービスなど多大な商品・サービスを消費している。世界銀行によれば、所得に関係なく最も消費されるものは飲食物と衣類であり、[18] 2015年時点で、世界のトップ5の消費市場はアメリカ、日本、ドイツ、中国、およびフランスであった。[19] これらの商品やサービスを生産するために必要な資源を合理的な水準を超えて消費した場合、それは過剰消費である。発展途上国も急速に過剰消費者国に成長しており、これらの国で起こっている傾向は特に注目される。

計画的陳腐化は一部の消費者製品の過剰消費の重要な原因である。[20] 計画的陳腐化とは、製品を定期的に陳腐化し、消費者が一定頻度で不必要に新しいものに買い換えることを促すため、製品を意図的に短期間で廃棄されるように設計することである。それに加えて一定の期間や使用後に壊れるような製品設計もなされる。ファッションや電子機器、自動車などにおいて広く見られる不要新製品の頻繁な発売は、マーケティングによる消費者意識の操作による意図的陳腐化である。[21]

2020年にNature Communicationsで発表された科学者チームによる論文「豊かさに関する科学者の警告」によれば、第二次世界大戦以来の「資本主義的で成長志向の経済システム」の確立が、豊かさの増加とともに「格差、金融不安定、資源消費、および地球に対する環境圧力の著しい増加」をもたらし、最富裕の市民つまり「超富裕消費者...資本主義クラスの強力な部分と重なる」とされる人々が、世界中での消費パターンによって環境への影響に最も責任を持っているとされている。持続可能な社会と環境の進むべき道は経済成長に固執する旧弊から脱却し富裕者の過剰消費を削減する必要があると著者たちは主張しており、その達成には、資本主義の枠組み内で実施できる改革主義的な政策(特に環境税を通じた富の再分配、”緑の”投資、基本所得保障、および労働時間の短縮)を採用するか、脱成長社会、エコ社会主義、エコアナーキズムに関連するより積極的なアプローチを模索するべきであり、これは「資本主義および/または現在の中央集権的な国家を超える転換を伴うであろう」と述べられている。[22][23]
過剰肉食詳細は「エコロジカル・フットプリント」を参照地球は数十億の肉食人を支えきれない。?デイビッド・アッテンボロー, natural historian[24]

過剰消費は生態的フットプリントという概念とも強く関連する。生態的フットプリントは、人間の需要が生物圏へ及ぼす影響を測定するためのリソース計算のフレームワークである。例えば現在、中国の1人当たりの生態的フットプリントはおおよそアメリカの半分程度だが、中国はアメリカの4倍以上の人口を抱えているので、中国がアメリカと同じ過剰消費水準に発展すると世界の消費率はおおよそ倍になると推定される。[25]

人間と人間が食べる家畜は地球上の哺乳類バイオマスの96%に達する .mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  家畜(大半は牛と豚) (62%)  人類 (34%)  野生哺乳類動物 (4%)

人間は環境破壊的な集約畜産(魚介類の養殖を含む)と消費を通じて生態的フットプリントを増加させている。人類は年間で約166から200億以上の陸地と水域の動物を食べている。[26][27]  2018年に発表されたScienceの研究によると、人口増加と富裕層の増加により食肉消費がさらに増加しこれが温室効果ガスの排出をいっそう増加させ生物多様性を減少させる。[28][29] 2018年にNatureに発表された研究によれば、農業を最大90%まで持続可能にするためには、食肉の消費を削減する必要がある。[30] 伝統的に植物ベースの食事を取っていた中国やインドなどの人口大国でも肉食が増加する傾向にあり、2022年の見積もりでは人間と人間が食べる家畜は地球上の哺乳類バイオマスの96%に達する。[31]
悪影響「en: Effects of climate change」および「I = PAT」も参照国別の廃棄物生成量、一人一日当たりキログラム単位(2018年)
資源の枯渇、環境の劣化、および生態系の健全さの低下

過剰消費の基本的な悪影響の一つは、地球の持続可能な容量の減少である。過剰で持続不能な消費は、その環境の長期的な持続可能容量を超える(生態学的なオーバーシュート)。2020年世界経済フォーラムのウェブサイトで発表された多国籍の科学者チームが発表した研究によれば、過剰消費は持続可能性への最大の脅威であり、生態系の危機を解決するには急激なライフスタイルの変革が必要である。著者の一人であるジュリア・シュタインバーガーによれば、「悪化する気候危機から身を守るためには、不平等を減少させ、富とそれを持つ者が本質的に良いものであるという概念に疑問を投げかけなければならない」。


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