進水式(しんすいしき)は、造船において造船台で組み立てられた新造船舶を初めて水に触れさせる作業・儀式のこと。進水式の場合はそれがたとえ量産型の船舶であっても必ず一隻ごとに催す。
人間の誕生日に該当する作業および儀式である[1]。進水式と同時に船の命名式が行われるのが通例[注釈 1][注釈 2]。進水命名式とも呼称する[4]。ただし大型船でドックにて建造された場合、進水はドックへの注水となるため命名式のみとすることがある[5]。式典自体は、船台進水もドック進水もほぼ同様である[注釈 3]。なお進水式の時点では、船殻が完成しているに過ぎない[1]。艤装が開始され[7]、それが終了すると性能試験をおこない、ようやく竣工して船主に引き渡される[8][注釈 4][注釈 5]。
大型船の進水式では地元民を招待したり一般公開するなど、イベント的な要素もある[14][15]。進水式典拝観者のために臨時列車を走らせたり、造船所周辺の市民が進水を祝って提灯や国旗を掲げたこともあった[注釈 6]。
日本海軍の軍艦の進水式には、天皇や[17]、皇族が臨席することもあり、盛大な式典が催された[18][19][注釈 7]。諸外国でも国王[21]、大統領[22]、総統[23][注釈 8]、総書記など[25][26]、国家の指導者が主賓として軍艦や大型船の進水式に参加することもある。 西洋で行われていた進水を祝う催しが装飾や儀式に変化していったという説がある[27]。ヴァイキングは進水式において人間を生贄として捧げていたとされ、後には生贄ではなく血を連想させる赤ワインを使う風習となり、さらに白ワインからシャンパンに変化したのが通説とされる[27]。 前述のように進水式ではシャンパンのボトルを船体に叩きつけて洗礼とする儀式が行われるが[注釈 9][注釈 10]、法律で規定されているわけではないのでワインやウイスキーなど他の酒類が使われることもある[30]。 2014年に行われた英海軍空母クイーン・エリザベスの命名式では、同艦がスコットランドのロサイスで建造され本人も訪問した経験があることからボウモア蒸溜所のスコッチ・ウイスキーが選ばれ、エリザベス女王自ら命名とともにギミックのボタンを押し、無事にボトルが割られた[31]。 1811年、当時のイギリス皇太子・ジョージ4世が軍艦の進水で、その役目を女性にあてるよう決めたことから、西欧では女性がボトルを割るのが慣習化し伝統として確立した。有名人や船主[2][注釈 11]、船名(艦名)と関係のある女性が招待される事もある[注釈 12][注釈 13]。進水式の際に、船に当たったボトルが割れないと、その船は難破や沈没などの不幸に見舞われると言われている[36]。現代では、ボトルが跳ね返ったK-19が多数の事故に遭遇したことが例としてあげられることが多い。 造船所の船台(もしくは船渠)にて起工式が行われ、竜骨が据えつけられて、船の建造が本格的に始まる[37][注釈 14]。船体が概ね完成すると、進水式にむけて準備をおこなう[39][40]。進水式には大別して2種類ある[41]。 進水する方法には、造船台に乗ったままドックに水を注入して進水式とする「ドック進水」と、造船台から進水台を滑り水面に入水する「船台進水」がある[注釈 15]。このうち、造船台から進水台を滑り水面へと入る進水式の場合、通常は船側または船尾から水に入る[40]。横方向に進水する方法は、アメリカ合衆国など川沿いの造船所で行われた[40]。これは、船首側から進水すると勢いが付きすぎてしまい、場合によっては転覆してしまう恐れがあるためである。また船尾側から進水したとしても、事故が発生する事もあった[注釈 16]。 さらに船台から滑り進水する場合、船台の異常により進水中止になる事例があった[43]。例えば浦賀船渠で建造していた駆逐艦「初霜」は1933年(昭和8年)10月31日に進水式をおこなったが、船体が滑らず式典中止[44]。やり直しとなる[45]。11月4日、今度は進水に成功した[46]。手違いや事故により主賓や現場責任者が支綱を切断するまえに船台から滑り出してしまう事もあり、ドイツ海軍のポケット戦艦「ドイッチュラント」[47]、イギリス海軍の空母「フォーミダブル」などの事例がある[48]。
起源
シャンパンニール・アームストロング (調査船)の命名進水式でシャンパンボトルを割るカリ・アームストロング(ニールの孫娘)
内容造船台から横方向へ川に滑り落とす進水式の様子。ルーマニア海軍 潜水艦 マルスィヌル 進水式アメリカ海軍 戦艦「ワシントン (BB-47) 」の進水と、艤装工事中の姉妹艦「コロラド」。これから艦体に砲塔、舷側装甲、上部構造物などを設置する。艦尾より進水するドイツ海軍の「ビスマルク」