造血幹細胞移植
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造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく、: hematopoietic stem cell transplantation)とは、正常な血液を作ることが困難となる疾患(白血病再生不良性貧血など)の患者に対して、提供者(ドナー)の造血幹細胞を移植して正常な血液を作ることができるようにする治療である。
歴史
動物実験

1950年代に致死量の放射線照射を受けたマウス骨髄細胞を移植[1]し、移植後の細胞が移植骨髄(ドナー)由来であることが明らかになった[2]。この動物実験での成果を受け、骨髄移植(ひいては造血幹細胞移植)のヒトへの適用が考えられるようになった。
人への臨床応用の開始

1939年にOsgoodが骨髄液を再生不良性貧血の患者に輸注した報告がある[3]が、これは後述する前処置を伴わないものであった。現在の治療法に準じる、抗がん剤と全身放射線照射を前処置としては、1957年にトーマスによって白血病の治療に骨髄移植が行われた[4]のが嚆矢と言える。1958年には、同年発生したユーゴスラビア[注釈 1]での原子炉事故の被爆者6名に対して骨髄移植が行われ5名の一時的救命に成功した[5]。これに続いて1968年までに203例の骨髄移植が施行されたが、生着例はわずか11例であった(全体の5.4%)[6]。当時はまだヒト白血球型抗原(HLA)適合性が考慮されず[注釈 2]、また生着不全や移植片対宿主病(GVHD)対策に有効な免疫抑制剤が無かったためである。この成功例の少なさから、骨髄移植の実施はいったん減少する[6]
近代的骨髄移植へ

トーマスらはイヌを用いた骨髄移植の研究を行い、主要組織適合遺伝子複合体(MHC: ヒトのHLA)適合性や前処置、免疫抑制剤の投与方法などを検討・開発し、イヌ同士の骨髄移植に成功した。これを踏まえ、1970年代中ごろにはHLA適合ドナーによる、前処置(高用量抗がん剤と全身放射線)およびGVHD予防(この時期にはメソトレキセートのみ)を行う、現在実施されているものとほぼ同様の近代的骨髄移植方法が確立された[7]。また白血病患者に対する骨髄移植を非寛解期に実施する[注釈 3]ことで、長期生存率が50%以上と大きく向上し[8]、治癒的治療法として位置づけられるようになった。
造血幹細胞ソースの多様化

上記の骨髄移植で用いられたのは一卵性双生児または兄弟間ドナーの骨髄であったが、非血縁者のHLA適合ドナーからの骨髄移植が試みられ、その有用性が明らかになった[9][10]ことから、1970年代後半にイギリス、アメリカで骨髄バンクが設立された。日本での設立は1991年である。

一方、臍帯血に造血幹細胞が存在することが1980年代前半に判明し、1988年にGluckmanらによってファンコーニ貧血患者に対して、初の臍帯血移植が行われた(臍帯血は兄弟のもの)[11]。1992年にアメリカで臍帯血バンクが成立[12]し、その後各地で臍帯血バンクが設立された。日本では1998年に臍帯血移植が保険適用となり「日本さい帯血バンクネットワーク」が設立された。

また1980年後半から自己末梢血幹細胞移植の実施が試みられて、現在まで使用されている。1993年には同種末梢血幹細胞移植にも成功[13]し、現在用いられている造血幹細胞のソースがそろうこととなった。
種類
骨髄移植(BMT)
正常な自己の骨髄またはHLA型が適合する他人の骨髄を、骨髄穿刺によって採取し、移植する。
末梢血幹細胞移植(PBSCT)
末梢血幹細胞を移植する。末梢血幹細胞は化学療法による骨髄抑制からの回復期や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)投与後に著しく増加するので、化学療法後やG-CSF後に検体を採取し、細胞分離装置を用いて、末梢血幹細胞を抽出する。
臍帯血移植(CBT)
臍帯血を移植する。ドナーの負担がほとんど無い、移植可能なHLA型の範囲が広いのが特徴。

2008年現在、造血幹細胞のみを抽出することは一般的ではないので、上記ソースは造血幹細胞を含む液体という扱いとなる。
造血幹細胞移植の意義

放射線治療抗がん剤の投与は投与量や線量を増加させていくと最大耐用量(MTD)を超えた時点でなんらかの毒性のためそれ以上の増量が不可能となる。多くの抗がん剤において、規定因子は骨髄抑制である。造血幹細胞移植とは抗腫瘍効果を高めるため骨髄のMTDを超えた大量の抗がん剤、全身放射線照射を用いた強力な治療を(移植前処置)を行って、患者骨髄とともに悪性腫瘍の壊滅を行い、その後造血幹細胞を輸注することで、造血能を補うという治療法である。

固形臓器移植と造血幹細胞移植の大きな違いの一つとしては臓器移植ではドナーの正常な臓器を移植することで臓器機能の回復をすることを目標としているのに対して、造血幹細胞移植の一般的な目標は骨髄のMTDを上回る大量の抗がん剤や放射線照射による治療を可能とすることと、ドナー免疫に由来するGVL(Graft versus Leukemia:移植片による抗白血病効果)やGVT(Graft versus Tumor:移植片による抗腫瘍効果)を得ることである。


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