速読術
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速読術(そくどくじゅつ、:speed reading、rapid reading、fast reading)とは、文章を速く読むための技術あるいは方法を指す。読書速度を向上させ、効率的に大量の書物を読破する技術である。
概説

学問的には、すべての文字を順に追って理解して読むことが読書の前提であり、この前提を満たした上で速度が速い読書法が速読法とされる。しかし、一般的には、拾い読み、飛ばし読み、斜め読みと呼ばれる読み方や写真記憶などが速読術テクニックとされている。したがって、読む本人が速く読み、読む目的を達成できる読み方なら、どのような速度や理解の程度でも速読術と言える。

従来、速読術の習得には、視野の拡大、理解度の向上、さらに情報を引き出す速度を改善が必要とされ、そのために速読のを作る訓練と、速読のを作るための訓練が必要とされてきた[1]。しかし、長年にわたる各種心理学の研究によって、2016年までにそのどちらも効果がないことが明らかにされている[1]。また、営利目的で速読術の指導を行う目的の者の中には、往々にして、施す訓練があくまでその意味と範囲での訓練であることをあらかじめ伝えない、自身は速読が出来るのか示すよう求められても言を左右にして実証してみせないといった問題があり、後からこの点に気付いた者からは、科学的なように見せかけながら実態はオカルト的な超能力開発の講習とどこが違うのかといった非難がある。

速読力は、天賦の才能とみなされ、生後に変えられるものではないと思われていた。近年、実験心理学で、読書行動が科学的に分析されるにつれて、速読力を向上させようとする試みがなされてきた。しかし、読解力の元となっている語彙力、知識力、集中力などは個々人による違いがあるため、同じトレーニングをしたとしても結果の個人差は大きい。そもそも読んだ内容を「理解した」といっても、読み手にとって既知の情報・知識、ありふれたパターン化した小説であった場合の可能性もあり得、客観的な評価が難しいといった問題がある。「理解する」という心や脳の機能が解明されていないため、速読術は厳密には解明されておらず、その技能を向上させることができると認められた方法はない。様々な個人が、独自の方法を唱えているのが現状である。

日本では1984年に日本初の本格的速読普及活動を開始した日本速読協会、速読能力開発に関して特許を取得した川村明宏、栗田式SRS速読法の栗田昌裕、速読脳開発プログラムの佐々木豊文、日本で初めて大学教育に採用されたフォーカス・リーディングの寺田正嗣などが有名である。これらのうちいくつかは科学的な実験で効果が試されており、川村の手法は富山大学・石井成郎らの研究[2]により時間経過とともにスピードが落ちていく事が明らかにされ、実験では2倍に満たないスピードとなり、そのスピードであれば理解度は維持されているとされている。佐々木豊文の手法は脳科学者らの実験で、8年以上トレーニングを続けて来た一人の被験者については1分間に5,000文字程度のスピードで読み、理解度テストも一般の被験者(非速読者)と比較して若干劣る程度という結果が示されている。その一方、同じ実験に参加した、2人の被験者(6年以上と7年以上のトレーニング継続者)はスピードの向上もあまり大幅ではなく、しかも理解度の低下が著しいという結果であり、研究者らは「速読は割に合わない」と結論づけている[3]

一方、世に知られる僧侶、超能力者たちのなかに、実際に1分間に数万字 - 10万字以上もの速度で本を読めた人がいたことが文献に残っている[4]。ただし、多くが古い記録であったり証言者の中立性に疑問がある等信憑性が不明であり、また、その人たちは修行の結果として速読能力を得たとされるがその修行方法は詳らかにされていない。
速読術の大別

速読術は、その由来、目指す読み方、トレーニングの方法、トレーニング原理の有無、達成速度などによって、下記のような観点から整理して考える必要がある[5]
個人の思いつきや体験から工夫された方法と、学問的研究から導かれた原理に基づいている方法

拾い読みや飛ばし読みのように、文章を部分的に読み取って、既に持っている知識から内容を推測・想像して理解したとする方法(部分読み)と、全ての文字を順に追って著者の意図をそのまま酌むことを理解とする方法(全部読み)

早く読むためのテクニックを習得させようとする方法と、読書や理解に関わる視覚および認知機能等を心身両面から開発しようとする方法

達成される読書速度として2?3倍程度とする方法から、1分間に100万字読めるとする方法。

どのような手法がどのような効果をもたらすか、訓練によってどのくらいのスピードが実現できるか、その時の理解度はどの程度になるかは、読み手の読書力、設定された目的、既有知識の程度によって決まるものである[6]。速読術を習得しようとするなら、自分の目標・目的を踏まえ、速読術の方法論と目指す能力をよく調べて、自分に適するものを選ぶことが肝要である。
状況に応じた読みわけ

ここでは便宜上、速読を「全体理解」と「精読」に分類する。

全体理解全体を大雑把に理解する読み方であり、あらすじやテーマをとらえて約70%の理解度で読み進める。
精読正確に理解して記憶に残るような読み方で、情報を分析しインプットするための読みである。

樹木に喩えると、「全体理解」で大枝を捉え、全体のイメージを掴み、「精読」で葉っぱなど細かな部分にまで注意を向ける。専門書や試験問題を読んで学習するためには、この「精読」の読み方が中心となる。
速読術の歴史と現状

科学的研究では、速読術は全ての文字を順に読んでいく読み方が前提になっている。拾い読みや飛ばし読み、斜め読みを方法とする速読術は研究の対象外である。科学的には速読も読書行動の一種であり、その意味で速読術の研究は読書の研究から始まる。読書を最初に研究したのは、実験心理学の祖とされるW. M. ヴント(Wilhelm Maximilian Wundt)と言われている。19世紀半ばのことである。ヴントは、ドイツのライプツィヒ大学教授で、感覚生理学を背景に、被験者の読書時の行動を観察する手法で研究を行った[7] 。そのヴントの指導のもとに読書の研究を発展させていったのは、アメリカ人 J. M. キャッテルである。キャッテルは、綴りと単語認知、綴りと印刷形態、注意範囲などをテーマにした。


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