通信技術の歴史
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通信技術の歴史(つうしんぎじゅつのれきし)は、アフリカ両アメリカ大陸、そしてアジアの一部で見られた、狼煙太鼓(例えばトーキングドラム)の利用に始まる。ヨーロッパでは1790年代には固定的な腕木通信システムが出現したが、電気通信システムが現れ始めるのは1830年代になってからのことである。本項では、前史として電気を用いない方式の技術も紹介するが、おおむね電気通信を中心に遠隔通信技術の歴史を、要素技術ごとではなく「電話」や「テレビ」のように製品としてのまとまりを持つカテゴリごとに略述する。時系列が前後する場合もあるが、年代順に通信技術の歴史を把握したい場合は「通信技術の年表」も参照するとよい。
狼煙、トーキングドラムなど

先史時代から使われている通信技術としては、例えば狼煙太鼓がある。
狼煙先史時代から使われていた狼煙という通信技術。のろしは今日でもアメリカの先住民によって使われている。

狼煙(のろし)は、敵軍の発見を友軍に通知するシグナルとして全世界的に使用されていた。司馬遷史記』(紀元前1世紀)第4巻本紀、宜臼の条には、笑わない傾国の美女、褒?西周最後の王幽王が笑わせようと、いたずらで狼煙を上げ、太鼓を叩かせて諸侯を集めたという逸話が記載されている[1][2]。狼煙を見て、太鼓を聞いて敵襲と信じて馳せ参じた諸侯たちを見て褒?が大笑いしたため、王は何度もいたずらを繰り返すようになり、ついに国を傾けた[1][2]。紀元前8世紀の事件を紀元前1世紀に記述したものではあるが、遠隔通信手段として狼煙と太鼓が用いられたことが確認される[2]。のろしを狼の煙と書くのは、乾燥させた狼の糞を燃やしたからである[2]。狼などの動物の糞は硝酸塩を含み、燃焼の際に生じる煙が風のあるときでもまっすぐに立ち上りやすい[2]

北アメリカ大陸大平原に住んでいた平原インディアン(英語版)は、見通しのよい平原における狼煙コミュニケーションを発展させていたことが知られている[3]。ニッチを同じくするものの言語が異なる場合もあった平原インディアン(プレイン・ネイションズ)は、対面コミュニケーションにおいては身振り手振りで交易を成立させるサインランゲージ、プレインズ・サイン・トーク(英語版)を異民族・異部族間で共有しており[4]、遠隔コミュニケーションにおいてはこれを補助するような狼煙の象徴体系を共有していた[3]。例えば、焚き火の煙のパフが1回上がると「注意」、2回上がると「問題なし」といった具合である[3]。パフが3回上がるか、立ち上る煙の列が3本になっていると、それは緊急事態を意味していた[3]

狼煙やかがり火が情報を伝達可能な範囲は、高々、人間が視認可能な範囲に限られる。その範囲外に情報を伝える方法としては、狼煙やかがり火をできるだけ高い場所、例えば、丘の上などで灯し、複数の狼煙により鎖状ネットワークを構築することである。これにより、信号をリレーすることができる。このような鎖状ネットワークの有名な事例としては、アルマダの海戦(1588年)において、スペイン艦隊の到来を知らせる信号をプリマスからロンドンまでリレーしたエピソードなどがある[5]

もっとも素朴な狼煙の欠点は、たったひとつのメッセージ(例えば「敵を発見したぞ」のようなメッセージ )だけしか送れないというものである。だが、当然、人間はそんな粗末な通信では満足できないので、改良するようになるものであり、煙を出すための枝の樹木の種類などを工夫して色をつけたり、煙のあげかたを工夫し、何種類ものメッセージを伝えるようになる。たとえば、アメリカの先住民なども、(部族ごとに方式は異なり)上の節で挙げた工夫例も一例にすぎないが、何種類もの枝を使い分けて煙の色を変えたり、煙のあげかたや回数(パルス数)を選択し、何種類ものメッセージを伝える。色をつけることは、現代風に言えば「1bitから、多bit方式に改良した」などと形容したり比喩することもできようが、日本でも、甲斐武田氏が16世紀に、狼煙を用いて「多ビット」の情報を送信する技術を開発していたということが文献記録に残っている[6]。『甲陽軍鑑』によると、武田信玄は1555年頃、信州長沼城と甲斐の居城と間の見晴らしのよい丘の上に狼煙台を設け、毎日、赤、白、黒などの色の狼煙を上げて軍況を報じさせていた[6]
水利用のセマフォタクティコスのアイネイアス(英語版)やポリュビオスが伝える「水を利用したセマフォ」を示すレリーフ

古代ローマでは、タクティコスのアイネイアス(英語版)やポリュビオスの伝えるところによると、紀元前4世紀、第一次ポエニ戦争の頃に、水を利用して情報を遠隔へ視覚的に(光学的に)伝えるシステムが使われていたという。これはまず、離れた丘の上にそれぞれ同じ大きさの水を張った水瓶を用意しておく。情報を伝える際には、まず送信側の兵士が松明を上げる。受信側兵士がこれに気づいて松明を上げ、それと同時に水瓶の栓を抜く。送信側兵士は受信側が松明を上げたことを視認すると、それと同時に水瓶の栓を抜く。送信側兵士は、伝えたい情報に相当する水位のところまで水が減ると、栓を締めると同時に松明を下げる。受信側兵士は、松明が下がったのを視認すると、それと同時に栓を締め、水瓶の水位を読み、読み取った水位に相当する情報を得る。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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