軽油
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軽油のドラム缶

軽油(けいゆ、: diesel fuel)は、原油から製造される石油製品の一種。主としてディーゼルエンジン燃料として使用される。ディーゼル燃料ともいう。
概要

軽油は、原油を蒸留石油精製)することによって得られる炭化水素混合物である。沸点範囲は180 - 350 程度。主成分は炭素数10 - 20程度のアルカンである。精製直後は無色だが、出荷前にエメラルドグリーンなどに着色される(精製会社により異なる)。

消防法において第4類危険物(引火性液体)の第2石油類に灯油とともに属する。消防法での指定数量はガソリンの200リットルに対して5倍の1000リットルだが、これは貯蔵方法についての基準を示すもので、ガソリンの5倍安全という意味ではない。軽油の引火点は45 ℃であり、ガソリンの引火点(?40 ℃)よりも高いことから比較的安全とされているが、炎天下などでは液温が引火点を超える可能性があるほか、何らかの事情で霧状になると常温でも引火するため取り扱いには注意が必要である。

軽油の名は重油に対応して付けられたものだが、「軽自動車用の燃料」と誤解されることがある[1]。軽自動車にディーゼルエンジンが搭載されることはまずないため、日本のガソリンスタンドでは、軽自動車への誤給油を防ぐため、「軽油」の代わりに「ディーゼル」と表記されている場合がある。

中国語では「柴油」[注 1]といい、「軽油」は別物の「軽質ナフサ」あるいは「軽質コールタール」を指す。
用途

主にディーゼルエンジンの燃料として用いられる。

自動車(特に大型車)・鉄道車両船舶用のディーゼル燃料が日本の軽油の消費量の95%を占めるが、建設機械農業機械の燃料、窯業鉄鋼用の燃料、電力内燃力発電における発電機燃料としても使用されている。高出力で熱効率燃費)が良いため、負荷の大きいバストラックに向いており、またガソリンよりも税金軽油引取税等)が安い利点もある。

西ヨーロッパでは日本に比べると、ガソリンに対する価格的な優位性が無く、軽油の方が高値で販売されている国もある[2]。車両価格においてもガソリン車のそれを上回るにもかかわらず、自家用車でのディーゼルエンジン搭載車両の割合が非常に高い(→ディーゼル自動車)。北米では、軽油の方がガソリンよりも高いので、自家用車用途ではほとんど普及していない。全て商用貨物車(トラック)である。

フォルクスワーゲンが、一時期環境に良いことを宣伝してディーゼルエンジン車を売り出したが、ディフィートデバイス排気ガス不正事件により頓挫してしまった。日本は、生成される軽油の量に対して使用量が下回っているので、軽油は輸出されている。そのため、@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}近年のディーゼル車の普及は、売らざるを得ない軽油を自ら消費できるという点において、日本の経済にとっても有益となっている。[疑問点ノート]

ディーゼルエンジンを用いる軍用車輌にも使われているが、アメリカ陸軍では、1988年から「単一燃料コンセプト(SFC)」として、ジェット燃料JP-8へと使用燃料を統一するテストを開始しており、戦車・装甲車・貨物自動車・ヘリコプターから偵察用バイクまで、事実上の灯油であるJP-8を使用するようになっている。
品質

ディーゼル用軽油としての要求性状は
始動・燃焼を順調に行うため
着火性の良いこと。すなわちセタン価が高いこと。

燃焼を均一に行うために噴霧状態を良くすることが必要である。そのため、燃料中に不純物を含まず、かつ、粘度が適当であること。

不完全燃焼による炭素すす)の生成を防止するため、アスファルトなどの高沸点留分が少ないこと。

などである。

これらをふまえた上で、軽油の規格は次のとおりとされる。

JIS K 2204規格による軽油の分類・性状試験項目試験方法種類
特1号1号2号3号特3号
引火点 (℃)JIS K 226550以上45以上
蒸留性状 90%留出
温度 (℃)JIS K 2254360以下350以下330以下(*1)330以下
流動点 (℃)JIS K 2269+5以下-2.5以下-7.5以下-20以下-30以下
目詰まり点 (℃)JIS K 2288?-1以下-5以下-12以下-19以下
10%残油の残留
炭素分質量%JIS K 22700.1以下
セタン指数(*2)JIS K 228050以上45以上
動粘度 (30 ℃) mm2/sJIS K 22832.7以上2.5以上2.0以上1.7以上
硫黄分(質量%)JIS K 2541-1,
JIS K 2541-2,
JIS K 2541-6
又は
JIS K 2541-70.0010以下
密度 (15 ℃) g/cm3JIS K 22490.86以下
備考夏季用冬季用寒冷地用

(*1)動粘度 (30 ℃) が4.7 mm2/s以下の場合には、350 ℃とする。
(*2)セタン指数は、セタン価を用いることもできる。

地方税法上の軽油の規格

比重:温度15度において、0.8017を超え0.8762まで

分留性状90%留出温度:267度を超え400度まで

残留炭素分:90%を留出した後の残油に含まれている炭素分の重量が残油総重量の0.2%以下

引火点:130度以下


関税定率法上の軽油の規格

比重:温度摂氏15度において、0.8757以下

分留性状90%留出温度:310度を超え400度まで


揮発油等の品質の確保等に関する法律上の軽油の規格

硫黄分:0.005質量%(50 ppm)以下 → 2007年からは、10 ppm 以下[3]

セタン指数:45以上

90%留出温度:360度以下


低硫黄化(脱硫)

環境規制に対応するため、自動車の触媒ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)に悪影響を及ぼす硫黄分を減らす、低硫黄(サルファーフリー)化が1992年(平成4年)に5,000 ppmから2,000 ppmへ、1997年(平成9年)からは500 ppmへと段階的に進められ、日本国政府の規制においては2005年(平成17年)から50 ppmへ、東京大気汚染訴訟後の2007年(平成19年)から10 ppmへと、さらなる低硫黄化が進められた[3]

日本では2004年(平成16年)末、自動車排出ガス規制に関連する「自動車燃料品質規制値」の変更に伴い、軽油に含まれる硫黄の許容限界は、従来の0.01 %質量以下から0.005 %質量(50 ppm)以下へと改められ[4]、2007年(平成19年)からは10 ppm 以下へと改められた[3]

なお、石油連盟に加盟する元売りにおける、50 ppmおよび10 ppmの供給は、日本国政府の規制より早く、50 ppmは1年9か月早い2003年(平成15年)4月より、10 ppmは2年前倒しで2005年(平成17年)1月から自主的に供給する形となった[5]

これらは世界的にも早く、欧州連合アメリカ合衆国では広範囲な地域に供給が及ぶため単純な比較は出来ないものの、EUやアメリカよりも早く、統一したサルファーフリー軽油の供給が成されたことになる。なおEUの規制では50 ppmが2005年から、10 ppmが2009年から、アメリカでは2006年6月1日より15 ppm(ノンロード用除く)となっている[6]

燃料内の硫黄分は、噴射ポンプと噴射ノズルの潤滑のためには必要な要素であったため、脱硫した軽油には潤滑剤(材)が添加されている。
販売

軽油やガソリンは、特約店を通じてガソリンスタンド等で販売されるのが一般的であるが、同じ自動車燃料として使用されるガソリンと異なる点として、軽油は需要の多くがバスやトラック業者などの大口需要家で占められることから、大口需要家に対しては、元売や特約店による需要家の所有する地下タンクへの直接納入(インタンク)が行われる。また軽油に特化した広域販売店(フリート)での販売も行われている。
冬季用の軽油

一般的な軽油(1号軽油あるいは特1号軽油)は、冬場(おおむね11月 - 3月。場合によっては4月まで)に低温で放置すると、凍結してしまう。このため、ガソリンスタンドにおいて冬場の軽油(おおむね11月 - 3月。場合によっては4月まで)は、1号軽油から2号軽油、ないしは3号軽油もしくは特3号軽油に差し替えて販売されている[7]

三菱・デリカスターワゴン取扱説明書によれば、寒冷地(特に北海道)にフェリーで渡航する際には、普段の軽油を渡航前(乗船前)までに半分程度以下になるように調整し、渡航後(乗船後)に給油所で寒冷地に対応した軽油(3号軽油もしくは特3号軽油)をガソリンスタンドで満タンにすることが推奨されている。


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