車内信号
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シカゴ・Lで用いられている車内信号。中央の垂直な光が、列車の現在いる区間で許容される最高速度を示す。

車内信号(しゃないしんごう)とは、鉄道信号保安設備で、進路の開通状況を運転台に伝送して運転士が見ることができるようにしたものである。車上信号(しゃじょうしんごう)と呼ぶこともある。単純なシステムでは、単に路側の信号機の現示(緑・橙黄・赤など)を表示するだけであるが、より洗練されたシステムでは許容速度、近隣を走行中の他の列車の位置、その他の線路の開通状況に関する動的な情報を表示する機能を持っている。現代のシステムでは、速度を制御する装置(例えばATC)が車内信号に組み合わせられて用いられて、運転士に危険を警告したり、その警告を運転士が無視した場合に自動的にブレーキを掛けたりするようになっている[1] 。車内信号のための伝送技術は、コード軌道回路を用いたものからトランスポンダを用いてコミュニケーションベースの列車制御を実現しているものまである。
目次

1 概要

2 車内信号システムの種類

2.1 点制御・連続制御・PTC

2.1.1 点制御

2.1.2 連続制御

2.1.3 PTC(Positive Train Control)


2.2 情報伝送

2.2.1 機械的伝送

2.2.2 磁気伝送

2.2.3 電流伝送

2.2.4 電磁誘導伝送

2.2.5 コード軌道回路


2.3 車内信号システムの分類


3 アメリカでの車内信号システム

4 ペンシルバニア鉄道のパルスコード式車内信号システム

4.1 ペンシルバニア鉄道式4現示車内信号システムを使用している路線

4.2 関連するパルスコード式システム


5 PTC(Positive Train Control)

6 可聴周波数(AF)軌道回路

7 脚注

8 外部リンク

概要

信号システムの主な目的は、列車間に十分安全な距離をおき、速度制限を守らせることである。車内信号は、進路の脇や上に設置されて列車の動きを指示する路側信号機の改良として登場した。当初の車内信号は、単に路側信号機の現示を中継しているだけであったが、現代の車内信号では速度制御装置と組み合わせられて自動的に列車を止める機能を有している。

車内信号は当初実験的にイギリス1910年代に、アメリカ合衆国1920年代に、オランダ1940年代に用いられていた。日本、アメリカの北東部、イギリス、フランスドイツなどで運行されている高速鉄道では、車内信号を用いることが基本となっている。ただしそれぞれで方式は異なっている。

インターオペラビリティを改善する目的で、ヨーロッパでは国際規格としてERTMS(European Rail Traffic Management System)の開発が行われている。ERTMSの自動列車保安装置であるETCS(European Train Control System)は、それ以前から用いられているヨーロッパ各国の信号システムを機能的に取り込んだ仕様になっている。ドイツのIndusi、スイスLZB、イギリスのTPWS、フランスのTVMなどは若干の変更を加えることでETCSと同等の機能を発揮することができる。

北アメリカでは、ペンシルバニア鉄道(Pennsylvania Railroad)とユニオン・スイッチ・アンド・シグナル(US&S: Union Swtich & Signal)が開発した商用周波数のコード軌道回路を用いて伝送する車内信号が北東部でのデファクトスタンダードとなっている。マサチューセッツ湾港湾局(MBTA)レッドラインロンドン地下鉄ヴィクトリア線など、多くの高速大量輸送システムでこのシステムの改良版を使用しており、日本の新幹線で用いられた初代の信号システムの基礎にもなっている。

なお、日本においては車内信号とはその名の通り運転台に信号を現示する機能の事を指し、それによる保安装置がなくても現示が表示できれば車内信号と呼ぶ。一方で地上から伝送された情報に基づいて動く保安装置があっても、運転台に信号を現示する機能がない場合には車内信号とは呼ばない。しかし、地上から車上へ信号現示を伝送するという機能に着目して、どのような形であれ車上に情報を伝送して保安装置が動作するのであれば車上信号であるとみなす場合もあり、以下の記事ではその解釈に基づいて単なる保安装置に関する記述も含んでいる。
車内信号システムの種類

従来の信号システムでは、運転士は路側の信号機の現示を確認して、それに基づいて運転しなければならない。この方式は人間のミスに弱く、現示を見落としたり無視したりすれば事故を招く。また、システムが危険を明確に回避するようになっていないため、「受動的な」システムであるとも言える。車内信号は、停止現示の信号機に接近すると自動的にブレーキが掛かるため、安全に対して能動的なシステムである。このため、安全性を人間に頼る度合いが軽減される。
点制御・連続制御・PTC

車内信号システムには3つの種類がある。

路側信号機に点制御の警報・制御装置を組み合わせたもの

連続制御の運転台の信号表示と速度制御装置

PTC(Positive Train Control)やその他の新しい技術を用いたシステム

典型的には、車内信号システムと言う場合には、連続制御の運転台での信号表示と速度制御装置のことを指す。しかし路側信号機に点制御の警報・制御装置を組み合わせたものも、広義には車内信号の一部とみなすことができる。
点制御

点制御のシステムでは、接近している信号機の現示情報を列車に伝送し、その現示に基づく制限を強制する。最も基本的な制限装置は基本的な自動列車停止装置(ATS: Automatic Train Stop)であり、停止信号を冒進した場合に自動的にブレーキを掛ける。鉄道ではかなり昔から使用されてきた。幹線では、高速で走行していることとブレーキの減速度が低いことから、ATSによるブレーキは非効率である場合があり、その代わりに減速の必要な信号現示に接近すると警報を出すようにしているシステムもある。運転士が警報を無視すると、一定時間後にブレーキが動作する。警報が運転士に確認されると、後は列車を安全に運転する責任は運転士にある。

このシステムでは、運転士が警報を確認しながら減速動作に失敗する危険性があるということは明白である。この危険性に対処するために、停止現示の信号機に対する減速を強制し、冒進した場合には非常制動を掛けるような、ドイツのPZB 90やイギリスのTPWS(Train Protection Warning System)などの新型のATSが開発されてきた。ニュージャージー・トランジット(New Jersey Transit)の通勤路線で用いられているASESのような最新のシステムでは、路側のトランスポンダからより複雑な情報を列車に伝送するようになっている。衝突の危険性はかなり減らされているが、それでも完全になくなっているわけではない。これらのシステムは、人間のミスによる衝突をほぼ完全に防止できる連続的な路側 - 車内通信ベースのシステムに対する費用面での妥協となっている。
連続制御

連続制御のシステム(一般的には自動列車制御装置(ATC: Automatic Train Control)と言われる)では、レールや線路脇に敷設されたループ回線を用いて連続的な路側信号システムと車上の通信を実現している[2]。アメリカで最も一般的に用いられているシステムは、コード軌道回路を利用して車上に情報を伝送して、次の信号機の現示を運転台に表示するものである。車上の速度制御装置により、その信号機を通過するまでに信号現示に対応した速度になるように制御される。しかしながら従来のシステムでは、列車の現在位置と次の信号機までの距離を正確に求める方法がなかったので、停止現示の信号機の手前に正確に止めることはできなかった。ドイツのLZBやフランスのTVMなど、より新しいATCシステムではそれができるようになっている。LZBとTVMは高速鉄道新線に適用されている。アメリカでは、トランスポンダベースのACSESが完全な停止機能と、北東回廊(NEC: NorthEast Corridor)での線形による速度制限に対応した機能を持っている。
PTC(Positive Train Control)

PTC(Positive Train Control)は、前述の最新のATCの持っている機能に加えて追加の機能をより低いコストで提供するための、北アメリカでの列車制御技術のことである。

PTCでは、指令センターと列車の間を無線通信技術で結んで、コストの掛かる路側設備を削減している。このようなシステムはコミュニケーションベースの列車制御(CBTC: Communication Based Train Control)として知られている。CBTCは、従来の閉塞連動装置の代わりになる様々な装置で構成されており、GPS慣性航法装置など従来とは異なる列車位置検出手段や、デジタル無線による列車間・路側装置(分岐器踏切など)・運転指令員や指令センターとの交信などが含まれている。

これらのシステムは、次第に都市高速交通システムにおいて導入が進められており(ニューヨークのカナージー線(Canarsie Line)での試験など)、都市間の幹線でも試験が行われている。しかしながら未だに技術的に成熟しておらず、開発中か試験段階に留まっている。
情報伝送


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