距離計量
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距離空間(きょりくうかん、metric space)とは、距離関数(きょりかんすう)と呼ばれる非負実数値関数が与えられている集合のことである。

古代より、平面空間地上の 2 点間の離れ具合を表す尺度である距離測量科学数学において重要な役割を果たしてきた。1906年にモーリス・フレシェは、様々な集合の上で定義された関数の一様連続性の概念を統一的に研究した論文 Frechet (1906)[注釈 1]において、ユークリッド空間から距離の概念を抽出して用い、距離空間の理論を築いた。

平面 R2 の上の 2 点 P1 = (x1, y1), P2 = (x2, y2) の間の距離にもマンハッタン距離 d 1 ( P 1 , P 2 ) := 。 x 1 − x 2 。 + 。 y 1 − y 2 。 {\displaystyle d_{1}(P_{1},P_{2}):=|x_{1}-x_{2}|+|y_{1}-y_{2}|}

ユークリッド距離 d 2 ( P 1 , P 2 ) := ( x 1 − x 2 ) 2 + ( y 1 − y 2 ) 2 {\displaystyle d_{2}(P_{1},P_{2}):={\sqrt {(x_{1}-x_{2})^{2}+(y_{1}-y_{2})^{2}}}}

などがあり、同じ集合に対して何種類もの異なる距離関数を考える事も少なくないため、集合 X と距離関数 d を組にして (X,d) と書き、距離空間と呼ぶ。

特に距離が与えられることによって、点同士の関係を実数値として定量的に捉えることができるので、極限連続性の概念が扱いやすくなる。フレシェは位相幾何学の成果のうちで距離に関するものを汲み上げ、一般の距離空間の性質として証明しなおして適用することで汎関数の極限を調べている。[注釈 2]

距離空間では、距離を用いて近傍系を定義する事もできるため、位相空間の特殊な例になっている。ユークリッド距離とマンハッタン距離であれば、R2 上に同じ近傍系を定めることができるが、異なる近傍系を持つ距離もある。

フェリックス・ハウスドルフは位相空間の重要な性質として距離・近傍系・極限の 3 つを考察し、近傍系を選び位相空間の公理化を行った。そして、極限や連続性などの概念も距離とは無関係に一般化されていった。こういった一般の位相空間から距離は導かれないので距離空間で論じられる空間は一般の位相空間より狭い範囲のものに限られてしまう。しかし、距離空間は一般の位相空間における定理の意味を掴みやすく、また、位相空間論が応用される集合は距離空間として考えることができる空間が多いため、距離空間は今なお重要な概念である。
定義

定義 ― Xを集合とし、 d   :   X × X → R {\displaystyle d~:~X\times X\to \mathbb {R} }

を写像とする。dが以下の3つの条件(距離の公理という)を全て満たすとき、dはX上の距離関数、もしくは単にX上の距離(: metric)といい、集合XとX上の距離dの組(X,d)の事を距離空間(: metric space)という。

非退化性 ∀ x , y ∈ X   :   d ( x , y ) = 0 ⟺ x = y {\displaystyle \forall x,y\in X~:~d(x,y)=0\iff x=y}

対称性 ∀ x , y ∈ X   :   d ( x , y ) = d ( y , x ) {\displaystyle \forall x,y\in X~:~d(x,y)=d(y,x)}

三角不等式 ∀ x , y , z ∈ X   :   d ( x , y ) + d ( y , z ) ≥ d ( x , z ) {\displaystyle \forall x,y,z\in X~:~d(x,y)+d(y,z)\geq d(x,z)}

紛れがなければ距離空間(X,d)の事を単にXとも表記する。

また、非退化性、対称性、三角不等式より導かれる性質として、

非負性 ∀ x , y ∈ X   :   d ( x , y ) ≥ 0 {\displaystyle \forall x,y\in X~:~d(x,y)\geq 0}

がある。なお、距離の関連概念として以下のものがある。以下の表で「○」はその条件を課すことを指し、非退化性の欄に ∀ x ∈ X   :   d ( x , x ) = 0 {\displaystyle \forall x\in X~:~d(x,x)=0}

と書いてあるのは非退化性を課す代わりにそれよりも弱い条件である d ( x , x ) = 0 {\displaystyle d(x,x)=0}

を課している事を指す。

非負性非退化性対称性三角不等式
擬距離(: pseudometric)○ ∀ x ∈ X   :   d ( x , x ) = 0 {\displaystyle \forall x\in X~:~d(x,x)=0} ○○
quasi-metric[5][6]○○?○
quasi-pseudometric[7]○ ∀ x ∈ X   :   d ( x , x ) = 0 {\displaystyle \forall x\in X~:~d(x,x)=0} ?○
metametric[8][注釈 3]○ ∀ x , y ∈ X   :   d ( x , y ) = 0 ⇒ x = y {\displaystyle \forall x,y\in X~:~d(x,y)=0\Rightarrow x=y} ○○
semimetric○○○?

集合 A と距離空間 (X, d) と単射f: A → Xがあるとき、 a1,a2∈A に対してdf(a1,a2) ? d(f(a1),f(a2))

と定義すれば (A,df) も距離空間になり、fによって誘導された距離空間という。

AがXの部分集合であれば包含写像 id: A ? X; a ? a によって距離空間(A,did)が誘導される。このようにX の部分集合と包含写像によって定義された距離空間のことを (X, d) の部分距離空間または部分空間という。
関連概念

距離空間は距離関数の定義を一般化することでその定義を拡張することが出来る。集合 X 上の 2 変数実数値関数 d が、半正定値性、非退化性、対称性を満たし、三角不等式の代わりにさらに強い条件(超距離不等式)

max { d ( x , y ) , d ( y , z ) } ≥ d ( x , z ) {\displaystyle \max {\{d(x,y),d(y,z)\}}\geq d(x,z)}

を満たすなら、距離関数 d は非アルキメデス的 (non-Archimedean) あるいは超距離 (ultrametric) であるという。超距離不等式からは三角不等式が導かれるので、超距離は距離でもある。

集合 X 上に定義された2つの距離 d1, d2 は、次の条件を満たす場合、互いに同値と言われる。

任意の a ∈ X と正数 ε > 0 に対し正数 δ > 0 が存在し、任意の x ∈ X について、 { d 1 ( x , a ) < δ ⟹ d 2 ( x , a ) < ϵ } {\displaystyle \{d_{1}(x,a)<\delta \implies d_{2}(x,a)<\epsilon \}} かつ { d 2 ( x , a ) < δ ⟹ d 1 ( x , a ) < ϵ } {\displaystyle \{d_{2}(x,a)<\delta \implies d_{1}(x,a)<\epsilon \}}

つまり、同値な距離とは、同じ位相を誘導する距離である(次項「距離の誘導する位相」参照)。[12]

(X, d) を距離空間、A を X の部分集合とするとき、supx, y ∈ A d(x, y) は A の直径とよばれる。任意の正の実数 ε に対して有限個の直径 ε 以下の部分集合たちで X を覆うことができる場合、X は全有界であると言う。

任意のコーシー列が収束するとき、完備であると言う。
距離の誘導する位相

X を距離空間、Aをその部分集合とする。A の x について、ある正の数 ε が存在して x を中心とする半径 ε の開球(ε-近傍 , ε-開球)B(x; ε) ? {y ∈ X  |  d(x, y) < ε} (これをU(x; ε)とか N(x; ε)などと書くこともある) が A に含まれる時、x を A の内点 といい、 A を点 x の近傍という。 X における x の近傍の全体 V(x)(近傍は X の部分集合なので V(x) は集合族になる)を x の近傍系という。 このようにして X の各点 x に対しX の部分集合の族 V(x) を対応させる対応は位相空間論における近傍系の公理を満たしており、X を位相空間と見なすことができる。

距離空間に対しては、位相空間論の各概念を点列の収束をもちいて次のように特徴づけられることが知られている。Y を X の部分集合とする。
点 y が Y の内部にある ⇔ 補集合 Yc に含まれる点列で、y に収束するものは存在しない。

点 y が Y の外部にある ⇔ Y に含まれる点列で、y に収束するものは存在しない。

点 y が Y の縁にある ⇔ Y に含まれる点列で y に収束するものが存在し、Ycに含まれる点列で y に収束するものも存在する。


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