超現実数
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A visualization of the surreal number tree.

数学における超現実数(ちょうげんじつすう、: surreal number)の体系は、全順序付けられた真のクラスとして実数のみならず(任意の正実数よりも絶対値が大きい)無限大および(任意の正実数よりも絶対値が小さい)無限小まで含む。超現実数の体系は、四則演算(加減乗除)など実数が持つ多くの性質を共有しており、順序体を成す[注釈 1] 超現実数をフォンノイマン–ベルナイス–ゲーデル集合論 (NBG) において定式化するならば、超現実数体は(有理数体、実数体、有理函数体、レヴィ?チヴィタ体準超実数体超実数体などを含む)すべての順序体をその部分体として実現できるという意味で普遍的な順序体となる[1]。超現実数は、すべての超限順序数も(その算術まで込めて)含む。あるいはまた、(NBGの中で構成した)超実体の極大クラスが超現実体の極大クラスに同型であることが示せる(大域選択公理(英語版)を持たない理論では必ずしもそうならないし、またそのような理論において超現実数体が普遍順序体になるとも限らないことに注意する)。
概念史

1907年にハンス・ハーンは、形式冪級数の一般化としてハーン級数(英語版)を導入した。またフェリックス・ハウスドルフは、順序数α に対する ηα-集合(英語版)と呼ばれる順序集合を導入し、それと両立する順序群や順序体の構造を求めることができるかを問うた。Alling (1962) は修正された形のハーン級数を用いて適当な順序数 α に対してそのような順序体を構成し、α をすべての順序数全体の成すクラスを亙って動かすことで、超現実数体に同型な順序体のクラスを与えた。

それとは別の定義および構成法が、ジョン・ホートン・コンウェイにより、囲碁寄せについての研究から導かれている[2]。コンウェイの構成法は1974年にドナルド・クヌースの著書 Surreal Numbers: How Two Ex-Students Turned on to Pure Mathematics and Found Total Happiness[注釈 2] に取り入れられた。対話形式で書かれたこの本においてクヌースは、コンウェイが単に「数」と呼んでいたものに「超現実数」という新たな名を付けた。のちにコンウェイもクヌースのこの造語を受け入れ、1976年には超現実数を用いてゲームを解析する On Numbers and Games(英語版) を著した[3]
概観

コンウェイの構成法[3]では、超現実数は、大小関係を表す順序 ?(二つの超現実数 a, b に対し a ? b または b ? a が成立する。a ? b かつ b ? a がともに成立するとき a と b は同値であると言い、同じ数を表すものと理解する)を伴って、段階を踏んで構成される。各段階における数は、既に構成された既知の超現実数からなる部分集合のの形をしており、そのような数からなる部分集合 L, R が与えられ、L のすべての元が R のすべての元よりも真に小さいときに、対 {L  |  R} は L のすべての元と R のすべての元との間に値を持つ中間数を表すものとなる。

このとき、全く異なる部分集合の対が結局は同じ数を定義するということが起こり得る —たとえ L ≠ L′ かつ R ≠ R′ となる場合であってさえも、二つの対 {L  |  R}, {L′  |  R′} が同じ数を定義しうる—(同様の現象は、有理数を整数の商として定義するときにもあったことである。例えば 1/2 と 2/4 は同じ有理数の異なる表現である)。ゆえに厳密を期すならば、超現実数とはそのような同じ数を指す {L  |  R} なる形式の表現からなる同値類のことと言うべきである。

構成の緒段(第零世代)では、既存の数は何もないのだから、表現には空集合しか用いようがない。表現 {  |  } は L および R が空集合という意味であり、これを 0 と呼ぼう。段階を踏んでいけば { 0 ∣ } =: 1 , { 1 ∣ } =: 2 , { 2 ∣ } =: 3 , … {\displaystyle \{0\mid {}\}=:1,\quad \{1\mid {}\}=:2,\quad \{2\mid {}\}=:3,\quad \ldots } や { ∣ 0 } =: − 1 , { ∣ − 1 } =: − 2 , { ∣ − 2 } =: − 3 , … {\displaystyle \{{}\mid 0\}=:-1,\quad \{{}\mid -1\}=:-2,\quad \{{}\mid -2\}=:-3,\quad \ldots } のような形式が次々に生まれてくる。こうして整数は全て超現実数の集合に含まれる(上記は右辺の名称を左辺の式で定義するという意味の定義式であることに注意する。これらの各名称が実際に適切なものであることは、後で述べる超現実数の四則演算が定義されたときに根拠が与えられるであろう)。同様に { 0 ∣ 1 } =: 1 / 2 , { 0 ∣ 1 / 2 } =: 1 / 4 , { 1 / 2 ∣ 1 } =: 3 / 4 , … {\displaystyle \{0\mid 1\}=:1/2,\quad \{0\mid 1/2\}=:1/4,\quad \{1/2\mid 1\}=:3/4,\quad \ldots } のようなものも生じるから、二進分数(英語版)(分母が2の冪であるような有理数)もまた全てが超現実数の集合に含まれる。

無限に段階を踏んだ後であれば、無限部分集合も使ってよいということになり、任意の実数 a が、a より小さい(ここでの大きい・小さいは、実数としての大小関係で言うことに注意)二進分数全体の成す集合 La と a より大きい二進分数全体の成す集合 Ra を用いて {La  |  Ra} と表現される(これはあたかもデデキントの切断の如きである)。そうして任意の実数もまた超現実数の集合に埋め込まれる。

あるいはまた、 { 0 , 1 , 2 , 3 , … ∣ } =: ω {\displaystyle \{0,1,2,3,\ldots \mid {}\}=:\omega } および { 0 ∣ 1 , 1 / 2 , 1 / 4 , 1 / 8 , … } =: ε {\displaystyle \{0\mid 1,1/2,1/4,1/8,\ldots \}=:\varepsilon } なる表現も作られ、ω は任意の整数よりも大きい超限数として、ε は任意の正実数より小さいが 0 よりは大きい無限小として解釈できるが、これらもまた超現実数として与えられる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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