超信地旋回
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超信地旋回(ちょうしんちせんかい)またはスピンターン[1]:spin turn[1][2][3][4][5], neutral turn[4], counter-rotation turn[6])とは、油圧ショベル戦車のように履帯(クローラー)をもつ車両が、左右の履帯を互いに逆方向に等速回転させることによって、車体の中心を軸としてその場で旋回することをいう[1][7]
信地旋回と緩旋回

履帯式車両のその場旋回の方式としてもう一つ、信地旋回(しんちせんかい)またはピボットターン[8](英:pivot turn[8][2][3][5][6], skid turn[9])がある。これは、片側の履帯を停止してもう一方の履帯だけを回転させ、停止側の履帯を軸(pivot)として旋回するものである[8][7][10]。また、左右の履帯を同じ方向へ、速度に差をつけて回転させ、前進または後退しながら弧を描いて進路を変えることを緩旋回[10][3](かんせんかい、英:power turn, gradual turn[11])と呼ぶ。

信地旋回や超信地旋回は、履帯式車両に特有の機動とされる[7]が、スキッドステアローダーのように、装輪(タイヤ)式の車両で超信地旋回が可能なものもある。(自走式車椅子も超信地旋回が可能)

超信地旋回は、信地旋回に比べて小さなスペースで行うことができる。したがって、小回りの要求される工事現場などで用いられるが、路面・路床への負荷は大変大きい。また、左右の履帯を反転させるためには、より高度なトランスミッションが必要となる。
戦車の超信地旋回

戦車では、第二次世界大戦当時までは超信地旋回可能な車両は限られていた。これが可能な戦車として、イギリスのメリット・ブラウン式変速装置をもつチャーチル歩兵戦車クロムウェル巡航戦車以降の型や、ドイツティーガー戦車系列[12]が挙げられる。これらは、左右の履帯の速度を変えて滑らかな旋回が可能であったが、特に重戦車の場合、超信地旋回の多用は履帯の脱落や故障の発生の原因となるので、あまり行われなかった。アメリカの戦車では、戦後のM41 ウォーカー・ブルドッグM46パットンのクロスドライブ式トランスミッションの採用以降、超信地旋回が可能となっている。この方式は、以後の世界中の戦車に採用されている。

現代では、NATO加盟国をはじめとする西側諸国のほぼ全ての主力戦車が超信地旋回可能である。日本陸上自衛隊では74式戦車90式戦車10式戦車が対応している。

一方、ソビエトの戦車のほとんどは超信地旋回が不可能となっている。ソビエト製戦車から発展した東側諸国中国の多くの戦車も同様である。ロシアではT-90までは超信地旋回が不可能だったが、量産に向けて開発が進んでいる最新型のT-14で超信地旋回が可能になった[13]
語源

「信地」とは、元来は馬術用語で[14][15][16]、「その場」や「同じ場所」を意味する[17][14][15][16]。例えば「信地速歩」[18]は「その場での速歩」という意味になり、ピアッフェのことである[16][18]。「信地旋回」(信地旋廻)という表現も、戦車が発明される以前の明治時代の騎兵砲兵向けの馬術書に既に見られる[19][20][21][22][23]

「超信地旋回」という語は馬術書には見られない。「超信地旋回」の確認できる古い用例としては、『内燃機関』という雑誌の1940年(昭和15年)1月号に掲載された解説記事「装軌車輛の特性を語る」[24]がある。この解説記事は、無限軌道車輛の直進・緩旋回・信地旋回を説明した後、まだ実用化されていない新たな旋回方式として左右の履帯を互いに逆方向に回転させる方式を紹介し、それを「超信地旋回」と命名している。λ が負の値[注釈 1]をとると旋回中心は車輛トレッド内に入り、λ = −1 において旋回中心は車輛中心と完全に一致する。この種の旋回はいまだいずれの国においても採用されておらぬと信ずるが、旋回に場所を要せぬことこれに勝るものなく、将来必ず真面目に考慮せらるべき一つの旋回方式であると思う。筆者はこの旋回を仮に超信地旋回と名付ける(第16図参照)。 ? 蒲生郷信[注釈 2]「装軌車輛の特性を語る」『内燃機関』第4巻第1号、1940年1月、171ページ。[24]
(旧字旧仮名遣いの原文を常用漢字と新仮名遣いに改めて引用した。文字強調は引用者。)

『火兵学会誌』の1940年(昭和15年)9月号に掲載された「戦車発達の趨勢」という解説記事[28]は、上述の記事「装軌車輛の特性を語る」を出典として以下のように述べている。一方の無限軌道を他側に対して減速された速度で駆動することによって行う緩旋回と一方を全然停止し片側だけを駆動することによって行う信地旋回とがあり,さらに特殊な構造を用いて左右の無限軌道を反対方向に駆動することにより旋回の中心を軌間内に置いて旋回するところの超信地旋回と名付くべきものがある(3).
(3) 蒲生郷信,装軌車輛の特性を語る,内燃機関 昭和15年1月 ? 小池四郎「戦車発達の趨勢」『火兵学会誌』第34巻第3号、1940年9月、128ページ。[28]
(旧字旧仮名遣いの原文を常用漢字と新仮名遣いに改めて引用した。文字強調は引用者。)

1944年(昭和19年)7月に出版された書籍『戦車・機甲化』[29]では、「超信地旋回」という言葉が既存の用語として特に断りなく使われている。一、緩旋回 一方の軌道を他側に対し減速された速度で駆動することによって起る。図A
二、信地旋回 一方の軌道を全然停止し、片側だけを駆動することによって起る。図B
三、超信地旋回 左右の軌道を反射方向に駆動することによって起る。図C ? 梅津勝夫著『戦車・機甲化』1944年、153ページ。[29]
(旧字旧仮名遣いの原文を常用漢字と新仮名遣いに改めて引用した。文字強調は原文通り。)
脚注
注釈^ この解説記事[24]での λ とは、旋回時の外側履帯の速度を内側履帯の速度で割った指標で、例えば直進の場合は λ = 1 である。


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