赤血球
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血液の光学顕微鏡写真、多数あり丸く赤く写っているのが赤血球。中央に1つある細胞は白血球、赤血球の間にところどころ見える小さく青みがかかった小粒のものが血小板である各血球、左から赤血球、血小板白血球(白血球の中で種類としては小型リンパ球)色は実際の色ではなく画像処理によるもの

赤血球(せっけっきゅう、: Red blood cell・Erythrocyte)は、血液細胞の1種であり、酸素を運ぶ役割を持つ。本項目では特に断りのない限り、ヒトの赤血球について解説する。ヒト以外の赤血球については「#ヒト以外の赤血球」を参照
概要

赤血球は血液細胞の一つで色は赤く[注 1]血液循環によって体中を回り、から得た酸素を取り込み、体の隅々の細胞に運び供給する役割を担い、また同様に二酸化炭素の排出も行う。赤血球の内部にはを含む赤いタンパク質ヘモグロビンが充満しており、赤血球はヘモグロビンに酸素を取り込む[1]。大きさは直径が7-8μm、厚さが2μm強ほどの両面中央が凹んだ円盤状であり[2]、数は血液1μLあたり成人男性で420-554万個、成人女性で384-488万個程度[注 2][3]で血液の体積のおよそ4-5割程度が赤血球の体積である[4]。標準的な体格の成人であれば全身におよそ3.5-5リットルの血液があるため、体内の赤血球の総数はおよそ20兆個であり、これは全身の細胞数約60兆個[5]の.mw-parser-output .frac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .frac .num,.mw-parser-output .frac .den{font-size:80%;line-height:0;vertical-align:super}.mw-parser-output .frac .den{vertical-align:sub}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}1⁄3である。体内の細胞にくまなく酸素を供給するために膨大な数の赤血球が存在する。骨髄では毎日2000億個弱程度の赤血球が作られている[1]が、その寿命は約120日[6]で、120日の間におよそ20-30万回に渡って体を循環して[注 3]酸素を供給し、古くなると脾臓肝臓などのマクロファージに捕捉され分解される[7][8]。赤血球は体の隅々の細胞にまで酸素を供給するため、柔らかく非常に変形能力に富み、自分の直径の半分以下の径の狭い毛細血管にも入り込み通過することができる[9][10]

赤血球は成熟する最終段階で細胞核ミトコンドリアリボゾームなどの細胞内器官を遺棄する。酸素の運搬には不要な細胞核や酸素を消費するミトコンドリアを捨て去り、乾燥重量の約9割がヘモグロビンである[8]赤血球はいわばヘモグロビンを閉じ込めた柔軟な袋であり、ヘモグロビンによる酸素運搬に特化した細胞といえる。ミトコンドリアを持たないため、細胞の活動に必要なエネルギーは嫌気性解糖系と呼ばれる酵素によって糖(グルコース)を分解して得る[11]
構造と機能

赤血球の役割は酸素二酸化炭素の運搬であり、その構造は表面の赤血球膜と内部の細胞質に分けられるが、赤血球細胞膜を通して酸素と二酸化炭素が交換され、細胞質のヘモグロビンと酵素の働きで酸素と二酸化炭素は輸送される。

通常の細胞が持つ核などの細胞内器官を捨て去っているため、細胞質は水とヘモグロビンで容積のほとんどを占め、それ以外は解糖系やペントースリン酸経路に関わる酵素、炭酸脱水酵素、グルコース、炭酸、Na+, Ca2+, K+, Cl- などのイオンなどわずかであり[12][13][14]、正常な赤血球の細胞質には顕微鏡観察で目に付く構造はない[15]

形状は両面中央が凹んだ円盤状であるが、それは同じ体積の球に比べ表面積が30-40%大きく、その大きな表面積のため酸素・二酸化炭素の交換が球状の場合よりも有利であると考えられている。また赤血球は毛細血管では折り曲げられたり変形したりして通過するが、球に比べて両面が凹んだ円盤状だと体積に比べ表面の赤血球細胞膜に余裕があるため、変形のひずみの力に対して細胞膜にかかる力が小さくなると考えられている[12][16][17]

成熟した赤血球は、通常の細胞が持つ核やミトコンドリア、リボゾーム、ゴルジ体小胞体などを捨て去り、酸素の輸送に特化した細胞であるので、細胞の運動能やタンパク質・脂質の合成能を持たず、通常の細胞のようには多くのエネルギーを必要としない(そのために酸素を消費してエネルギーの産出を担うミトコンドリアを捨て去ることができる)。しかし、赤血球でも ATP を用いての陽イオンの輸送や細胞膜やヘモグロビンなどの各タンパク質の維持のために(通常の細胞よりは少ないものの)エネルギーを必要とする。エネルギーはグルコースを分解することで得られるが、グルコースの90%は嫌気性解糖系と呼ばれる多数の酵素による ATP合成経路であるエムデン-マイヤーホフ経路によって消費され ATP を産出する。この ATP は Na+ や K+ などの陽イオンの輸送や膜タンパクのリン酸化、解糖系自身の維持などに使われる。残りのグルコース10%は NADPH を産出するためにペントースリン酸経路を経由することで消費される。NADPH はヘモグロビンなどの各タンパク質が酸化されることを防ぎ、保護する[18][19]
ヘモグロビンと酸素・二酸化炭素輸送詳細は「ヘモグロビン」を参照ヘモグロビンの立体構造図(リボンモデル)一つのヘモグロビン分子はヘム分子とグロビン分子がそれぞれ4つで構成され、赤または黄色に着色されているのがグロビン、緑色に着色されている小さい分子がヘムである。それぞれのヘムの中心に鉄原子が一つありそれが酸素と結合する。ボーアの原論文を元にした説明。酸素に富み、二酸化炭素の少ない肺(酸素分圧 100mmHg、二酸化炭素分圧 5mmHg 程度)ではヘモグロビンの酸素飽和度はほぼ100%になる。赤血球はそのまま酸素の少ない組織(たとえば酸素分圧30mmHg、図の赤線)に行くが、もしも二酸化炭素がない環境だと持っている酸素のうち18%程度しか放出できないが、組織内に40mmHgの二酸化炭素があると約50%、80mmHgの二酸化炭素があると約70%もの酸素を放出することができる。

ヘモグロビンは赤血球細胞質の主要な構成物質であり、肺から全身へ酸素を運搬する役割を担っているタンパク質である。ヘモグロビンはポルフィリン核に鉄を持つ4つのヘムと4つのグロビンからなり[20]、ヘムは中心に1つの鉄原子を持ち、酸素1分子を結合することができるので、ヘモグロビン1分子で4個の酸素分子と結合することができる[21][22]。標準的な体格の成人が持つ赤血球に含まれるヘモグロビンの総量は約750g であり[1]、1gのヘモグロビンは酸素 1.39mL と結合することができる[23]ので、総量としておよそ 1L の酸素と結合することができる。

赤血球の幼若な[注 4]段階である赤芽球には豊富なミトコンドリアポリリボソームが存在し、それらによって赤芽球は盛んにヘモグロビンの合成を行い、細胞が成熟するにつれて細胞質はヘモグロビンで充填されていくが、赤血球成熟の最終段階でミトコンドリアやポリリボソームが抜け落ち、成熟し完成した赤血球ではもはやヘモグロビンの合成は行われない[24]

赤芽球のミトコンドリアではヘムの骨格を成すポルフィリン環が作られ、ポルフィリン環に鉄原子が組み込まれてヘムが作られる。一方、mRNA に複数のリボソームが連結したポリリボソームはアミノ酸を組み立ててたんぱく質であるグロビンを作る[24]

ミトコンドリアが作ったヘムとポリリボソームが作ったグロビンが細胞質内で出会い、ヘモグロビンになる[24]

成熟した赤血球は骨髄から血管内に移動し、血液循環によって肺から組織・組織から肺を巡る。


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