赤外線
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赤外線(せきがいせん)は、可視光線の赤色より波長が長く(周波数が低い)、電波より波長の短い電磁波のことである。ヒトの目では見ることができないである。英語では infrared といい、「赤より下にある」「赤より低い」を意味する(infra は「下」を意味する接頭辞)。分光学などの分野ではIRとも略称される。なお、可視光線の紫色より波長が短い電磁波は紫外線と呼ばれる。
赤外線の種類

ヒトの視覚は、波長の長い光を赤色光として感じとるが、その上限は 760 - 830 nm 付近とされ、それより波長の長い光は知覚できず、可視光線の赤色の外側という意味で 赤外線という。ミリ波長の電波よりも波長の短い電磁波全般を指し、波長ではおよそ700 nm - 1 mm (=1000 μm) に分布する。

さらに、波長によって、近赤外線、中赤外線、遠赤外線に分けられる。それぞれの波長区分は学問領域によって若干異なり、下記の区分はその一例である。
一般的分類
近赤外線

近赤外線は波長がおよそ0.7 - 2.5 μmの電磁波で、赤色の可視光線に近い波長を持つ。性質も可視光線に近い特性を持つため「見えない光」として、赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコン生体認証の一種である静脈認証などに応用されている。光ファイバーでもこの波長帯が使われ、代表的な波長は1.55μmである。天文学の分野では、1 - 3 µmの波長を近赤外線としている[1]
中赤外線

中赤外線は、波長がおよそ2.5 - 4 μmの電磁波で、近赤外線の一部として分類されることもある。赤外分光の分野では、単に赤外と言うとこの領域を指すことが多い。波数が1300 - 650 cm−1 の領域は指紋領域と呼ばれ、物質固有の吸収スペクトルが現れるため、化学物質の同定に用いられる。天文学の分野では、3 - 40 µmの波長のものを中間赤外線と呼ぶ[1]
遠赤外線

遠赤外線は熱線とも呼ばれ、波長がおよそ4 - 1000 μmの電磁波である。性質は電波に近い。天文学の分野では、40 - 400 µmの波長を遠赤外線としている[1]

全ての物質は、熱放射により温度に応じたスペクトルの電磁波を発している。この強度は、高温の物体ほど強くなる。また、熱放射のピークの波長は温度に反比例し、常温の物体では赤外線の強度が最も強くなる。例えば、20 ℃の物体が放射する赤外線のピーク波長は10 μm程度である。
その他の分類

帯域名波長光エネルギー
近赤外線 (Near-infrared, NIR)0.75-1.4 μm0.9-1.7 eV
短波長赤外線 (Short-wavelength infrared, SWIR)1.4-3 μm0.4-0.9 eV
中波長赤外線 (Mid-wavelength infrared, MWIR)3-8 μm150-400 meV
長波長赤外線 (Long-wavelength infrared, LWIR)
熱赤外線 (Thermal infrared, TIR)8?15 μm80-150 meV
遠赤外線 (Far infrared, FIR)15-1,000 μm1.2-80 meV

特性

赤外線は大気に吸収され、その一部が地上に届く。地球放射の一部と太陽放射(0.8 μm以下。幅が狭いため正確に表現できていない)のスペクトル。青い部分の上下幅が広いところが大気の窓。横軸(Wavelength)が波長、縦軸(Transmittance)が放射の透過率を表す。

水は遠赤外線よりも近赤外線を強く吸収するが、いずれの波長も数mm以上は透過しない[2]。「遠赤外線は体の内部まで浸透し内側から温める」と言われることがあるが、間違いである[3]

水に対する吸光度は中赤外線および遠赤外線において高く、したがって生体組織(特に、水分を多く含んだ組織)に対しては浅い部分でその多くが吸収される[4]。このような波長のレーザである炭酸ガスレーザ(λ=10.6 μm)やEr:YAGレーザ(λ=2.94 μm)は生体組織の切開(レーザーメス)や蒸散(いずれも凝固に比べ高いエネルギー密度や位置選択性が要求される)に利用されている。

また、赤外線は気候にも重大な影響を与えている。地表からは大量の赤外線が放出されるが、この赤外線を二酸化炭素などの温室効果ガスが吸収し赤外線を再度放射する。この働きによって地表の気温は上がる。この一連の動きは温室効果と呼ばれ、地球の気温を大きく上げる役割を果たしている。温室効果による赤外線放射は太陽から直接受け取る熱量を大きく上回っており、もし温室効果が存在しなかった場合は地球は氷点下の凍てついた惑星となる[5]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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