赤ひげ診療譚
著者山本周五郎
発行日1959年
発行元文藝春秋新社
ジャンル連作短編集
時代小説
国 日本
言語日本語
ページ数312
コードISBN 978-4-10-113406-2(文庫判)
ISBN 978-4-7584-3382-2(文庫判)
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『赤ひげ診療譚』(あかひげしんりょうたん)は、山本周五郎の連作短編時代小説集。1958年(昭和33年)に『オール讀物』3月号から12月号に連載、1959年(昭和34年)に文藝春秋新社より刊行された。短編8篇収録。江戸時代中期の小石川養生所を舞台に、長崎で修行した医師・保本登と、実在した江戸の町医者・小川笙船をモデルとする「赤ひげ」こと新出去定を主人公として、患者との葛藤を描いたヒューマンストーリー。
『赤ひげ』と題して1965年(昭和40年)に黒澤明監督、三船敏郎主演で映画化されたほか、たびたび映像・舞台化されている。
この小説から転じて、貧しい人から金銭を要求しない医師、多くの人に親切な医師などを「赤ひげ先生」、「赤ひげ」などと呼び、医師の理想の姿とされる(赤ひげ大賞も参照)。
現在は新潮文庫版が出版されている。新潮文庫版の累計部数は100万部を超える[1]。
収録作品
狂女の話(初出:『オール讀物』1958年〈昭和33年〉3月号)
駆込み訴え(初出:『オール讀物』1958年〈昭和33年〉4月号)
むじな長屋(初出:『オール讀物』1958年〈昭和33年〉5月号・6月号)
三度目の正直(初出:『オール讀物』1958年〈昭和33年〉8月号)
徒労に賭ける(初出:『オール讀物』1958年〈昭和33年〉9月号)
鶯ばか(初出:『オール讀物』1958年〈昭和33年〉10月号)
おくめ殺し(初出:『オール讀物』1958年〈昭和33年〉11月号)
氷の下の芽(初出:『オール讀物』1958年〈昭和33年〉12月号)
あらすじ
狂女の話
長崎から江戸へ帰ったばかりの青年医師保本登は、小石川養生所へ呼び出され、そのまま養生所で働くことになる。しかし登は、許嫁の天野ちぐさに裏切られたこと、御目見医師に任じられる約束を反故にされたこと、長崎で得た最新の医学知識を医長の新出去定に全て無条件で差し出すことなど、全てが不満だった。ささやかな抵抗として登は、養生所の規則やそれを決めた新出に逆らい続ける。それでも飽き足らず、登は養生所で働く娘・お杉に愚痴をこぼし、次第に彼女と親しくなっていく。お杉は養生所の一角に監禁された狂女・おゆみを世話する女中だった。登は医師としておゆみに興味を持つが、殺人癖があり情事の最中に相手の男を殺すおゆみは、新出以外の者が診察できる状況ではなかった。そんなある晩、お杉は「新出先生の見立ては間違っている」と、おゆみの身の上を語りだす。
駆込み訴え
養生所に入所していた六助と言う老人が死んだ。身寄りを探すため登が六助の定宿に赴くと、そこには六助の孫を称する子供たちが押しかけていた。母親が奉行所に捕まったため、六助に子供たちを引き取って欲しいと言うのだ。登は新出と共に奉行所へ赴き、診察と称して六助の娘・おくにと話をする。彼女が牢に入れられたのは「罪人とは言え、情けを交わした夫を恩賞金欲しさに訴えた」罪だと言う。しかし彼女が夫を訴えたのには、恩賞金以外にも理由があった。
むじな長屋
養生所に来ない病人を診療に行く「通い療治」を始めた登は、むじな長屋に住む佐八を診ることになる。佐八は自身が生きる最低限の金品を除き、残りは全て長屋の住人に分け与え、長屋の者たちからは生き仏のように思われていた。しかし、登が処方した薬すら長屋の者たちに与える佐八の態度に、登は何か隠された理由を感じる。やがて臨終のときが迫ってきた佐八は、かつて大火で生き別れた女房・おなかについて語り始める。
三度目の正直
新出と登は、神田佐久間町に住む大工の藤吉に頼まれ、居候で弟分の大工・猪之を診察することになった。猪之は腕のいい大工で、幼い頃から女に好かれる性質だが女を寄せ付けず、藤吉が所帯を持ったこの半年の間に奇妙な行動を繰り返すようになったと言う。藤吉から猪之の事情を聞いた新出は、猪之が藤吉の気を惹くため無意識にやっていると判断し、藤吉と引き離すため診療所へ置くことにする。