赤ちゃんポスト
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「こうのとりのゆりかご」はこの項目へ転送されています。これを題材としたテレビドラマについては「こうのとりのゆりかご?「赤ちゃんポスト」の6年間と救われた92の命の未来?」をご覧ください。

丘上あいの漫画「赤ちゃんのホスト」とは異なります。
ドイツの赤ちゃんポスト(内側から見た写真)チェコ共和国の"BabyBox"ポーランド

赤ちゃんポスト(あかちゃんポスト, Baby hatch, Baby box[1][注 1])は、諸事情のために育てることのできない赤ちゃん(新生児や子ども)を親が匿名で託すための施設、およびそのシステムの日本における通称である。

日本では、熊本県北海道の2カ所に設置されている(2022年5月時点)[4]。熊本県熊本市西区にある慈恵病院では「こうのとりのゆりかご」という名称を使用している[5][注 2]。慈恵病院は「こうのとりのゆりかご」の活動により、公益財団法人社会貢献支援財団より2014年度社会貢献者表彰「社会貢献の功績」を受けている[6]。北海道石狩郡当別町の施設は市民団体「こどもSOSほっかいどう」が2022年5月に開設し、名称は「ベビーボックス」(Baby Box)である[7][4][8]。スタッフが常駐し、保護サービス、一時養育を行っている。親は匿名で子どもを託すことができ、手渡しまたは屋内の部屋に預け入れの形を採用している。また妊娠葛藤や養育困難を抱えた親へのカウンセリング[9]、居場所が必要な子供の宿泊支援も行っている。これらは民間運営で、国からの運営費用の補助はない。

日本国外でもこうしたシステムを採用している国や地域が多数存在する。現代においての設置数の上位国は、ドイツで100箇所[10][11]パキスタンで300箇所以上である[12]
概要

赤ちゃんポストの目的は、子どもの生命を守ることと、人工妊娠中絶育児が困難である社会的に孤立した状況にある親が、新生児を殺人遺棄する犯罪を選択することを防ぐことにある[13]。新生児は外界に対する適応力(恒常性を維持する能力)が弱く、捨て子として路上や施設前に放置されると野犬などに襲われたり、低体温症熱中症などで死亡する危険性があるため、これらの危険から保護するために設置される。

赤ちゃんポストの施設は、屋外と屋内に扉が設けられ、中には新生児の入るくらいのバスケット程度の空間があり、冬は適度に保温され、夏は猛暑に晒されないよう工夫されている。この中に新生児を入れると、宿直室の呼び出しブザーなどに直結されたセンサーが働き、職員がすぐさま安全に保護できるような工夫も見られる。ポストの内部には親向けに、手に取り持ち帰れるメッセージカードが用意されている。このカードに同ポスト設置施設や児童相談所などの連絡先が記載され、後から親であることを名乗り出る際に役立つような配慮もみられる。

日本国内においては、新生児は早急かつ安全に保護されてしかるべきだという意見がある反面、匿名性が子どもの権利条約で謳われている「出自を知る権利」に反するという意見もあるなど[13]、設置に際しては道徳人道人権などの観点から多様な意見がある。
名称

慈恵病院が参考にしたドイツでは Babyklappe と呼ばれている。 Klappe はドイツ語で「垂板」を指し、赤ちゃんポストの垂板のような形にちなんだとされる。英語の baby(現在ではドイツ語本来の「赤ちゃん」を意味する単語 Saugling より親しまれている言葉)と、ドイツ語の Klappe を合わせた造語である。ドイツにおけるもう一つの呼び名として Babywiege があり、Wiege はドイツ語で「ゆりかご」を指す。

慈恵病院が2004年にドイツを視察した際の「ドイツ視察報告」[14]の見出しでは、ドイツの施設の呼称にあえて訳語を当てずそのまま「ベビークラッペ」と表記し、これに続いて原語の綴りを付記している。慈恵病院理事長兼院長である蓮田太二は2018年のインタビューでも「私たちは2004年、ドイツの『ベビークラッペ』を視察しました。」と語っており、ドイツの施設を「ベビークラッペ」と呼んでいる[15]

英語では Baby Hatch と呼ばれる(Hatch=ハッチの意味)[16]イタリア語では Culle per la vita(命のゆりかご)と呼ばれている。また中国語では「棄嬰艙」「棄嬰信箱」などと呼ばれ、呼称が定まっていない。

日本語の「赤ちゃんポスト」という呼称が、いつ頃からどのようにして用いられるようになったかははっきりしない。上述の慈恵病院の視察報告の中で紹介されている2006年3月発表のビデオソフトは『赤ちゃんポスト ドイツと日本の取り組み』と題されており、少なくともこの時点で、施設の趣旨に賛成ないし推進する立場の関係者も含め、この呼称が定着していたことがうかがえる(「赤ちゃんポスト#設置までの経緯」参照)。上記ドイツ語の呼称 Babyklappe を構成する単語 Klappe に「die ? am Briefkasten」=ポストの投函口の蓋(ポストの蓋)という用法があることからの連想とも考えられる。

慈恵病院は一貫して「こうのとりのゆりかご」という名称を使用しており、自院の施設を「赤ちゃんポスト」と呼んだことはない。慈恵病院理事長兼院長の蓮田太二も、自著『ゆりかごにそっと―熊本慈恵病院「こうのとりのゆりかご」に託された母と子の命』[17]で「『赤ちゃんポスト』と呼ばないで。ここは、幸福への出発点です」と述べており、自院の施設を「赤ちゃんポスト」と呼ばないよう訴えるとともに、子供を「棄てる」場所ではなく「救う」ための場所であることを強調している[15]

また外部からも、設置に賛成の立場・慎重な立場の双方から「ポスト」という呼称に対し違和感が表明されており、将来的に異なる呼び名が付けられる可能性もある。社会福祉の専門家からも「新生児匿名受け入れ窓口」といった普通名詞が確立することが望ましいと指摘されている[18]。慈恵病院の所在地である熊本県の地方紙『熊本日日新聞』では、当初は同病院の設置の動きをめぐる報道に際して「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」としてきたが、2007年3月3日付の紙面で、以後「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」の名称を用いるとした[19]

2014年に放送された児童養護施設を舞台とした日本テレビ制作のテレビドラマ明日、ママがいない』では、主人公の一人である少女が「『赤ちゃんポスト』に預けられていたことから『ポスト』というあだ名で呼ばれていた」という設定などが問題視され、慈恵病院がこれに対して抗議し「精神的虐待人権侵害にあたる」「フィクションとしても許される演出の範囲を超えている」として、番組の放送中止や内容の再検討などを求めた[20]。この番組について、慈恵病院は2014年1月22日放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に審議を求める申立書を送付した[21]。慈恵病院のこの番組に対する批判と見解は病院公式サイトにも掲載されている[22][23]


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