質量分析法
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マススペクトルの一例。横軸がm/z、縦軸が相対イオン強度である。質量分析計の一例。

質量分析法(しつりょうぶんせきほう、: mass spectrometry、略称: MS) とは、分子イオン化し、そのm/zを測定することによってイオンや分子の質量を測定する分析法である。日本語では「MS」とかいて慣用的に「マス」と読むことも多いが、日本質量分析学会では国際的に通じる読み方である「エムエス」を推奨している[1]
原理

電圧をかけた真空中で試料をイオン化すると、静電力によって試料は装置内を飛行する。飛行しているイオンを電気的・磁気的な作用等により質量電荷比に応じて分離し、その後それぞれを検出することで、m/zを横軸、検出強度を縦軸とするマススペクトルを得ることができる。

質量分析では、試料分子が正または負の電荷を1つだけ持ったイオンの他、2価以上に荷電した多価イオン、イオン化の過程、あるいは装置を飛行中に解離したイオン(フラグメントイオン、かつては娘イオンとも呼ばれたが現在この呼称は推奨されない)、あるいは試料同士が会合した会合イオンなどが生成する。また、通常では分子は同位体を含んでおり、それぞれのピークはこれに由来する分子固有の分布をもって現れる。

マススペクトルはこれらの情報が全て含まれているため、場合によってはかなり複雑なスペクトルとなる。したがって、未知物質のマススペクトルを帰属することは容易ではない。逆に、この豊富な情報量は、既知物質の同定や未知物質の構造決定にはきわめて強力な手段となるため、有機化学生化学の分野で非常に多用され、また重要な分析法となっている。
歴史詳細は「en:History of mass spectrometry」を参照

1886年、オイゲン・ゴルトシュタインは、低圧力下でのガス放電において、陽極(アノード)から穴のあいた陰極(カソード)のチャネルを通って離れていく線を観察した。これは陰極(カソード)から陽極(アノード)へ移動する負に荷電した陰極線と逆方向である。ゴルトシュタインは、これらの正に荷電した陽極線を「Kanalstrahlen」(カナル線)と呼んだ。ヴィルヘルム・ヴィーンは、強力な電場あるいは磁場がカナル線を偏向させることを発見し、1899年、陽極線を質量電荷比 (Q/m) に応じて分離させる平行電場および磁場を持つ装置を組み立てた。ヴィーンは質量電荷比が放電管内のガスの性質に依存することを発見した。イングランドの科学者J・J・トムソンは後にヴィーンの仕事を改良し、圧力を減らすことで質量スペクトルグラフを作り出した。

質量分析法の現代的な技法のいくつかはアーサー・ジェフリー・デンプスターおよびF・W・アストンによってそれぞれ1918年および1919年に考案された。1989年のノーベル物理学賞は1950年代および1960年代のイオントラップ法の開発の業績によって、ハンス・デーメルトおよびヴォルフガング・パウルが受賞した。2002年のノーベル化学賞は、エレクトロスプレーイオン化 (ESI) 法の開発の業績によってジョン・フェン、ソフトレーザー脱離法 (SLD) の開発によって田中耕一が受賞した[2]初期の(J・J・トムソンの3台目の)質量分析計のレプリカ
装置構成質量分析器の模式図。試料導入部およびイオン源(左下)、分析部(左上、磁場偏向型)、イオン検出部(右上)、データ処理部(右中)からなる。

質量分析のための機器を質量分析装置と呼び、質量分析計と質量分析器がある。試料導入部、イオン源、分析部、イオン検出部そしてデータ処理部から構成される。@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .mod-gallery{width:100%!important}}.mw-parser-output .mod-gallery{display:table}.mw-parser-output .mod-gallery-default{background:transparent;margin-top:.3em}.mw-parser-output .mod-gallery-center{margin-left:auto;margin-right:auto}.mw-parser-output .mod-gallery-left{float:left;margin-right:1em}.mw-parser-output .mod-gallery-right{float:right}.mw-parser-output .mod-gallery-none{float:none}.mw-parser-output .mod-gallery-collapsible{width:100%}.mw-parser-output .mod-gallery .title,.mw-parser-output .mod-gallery .main,.mw-parser-output .mod-gallery .footer{display:table-row}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div{display:table-cell;text-align:center;font-weight:bold}.mw-parser-output .mod-gallery .main>div{display:table-cell}.mw-parser-output .mod-gallery .gallery{line-height:1.35em}.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div{display:table-cell;text-align:right;font-size:80%;line-height:1em}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div *,.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div *{overflow:visible}.mw-parser-output .mod-gallery .gallerybox img{background:none!important}.mw-parser-output .mod-gallery .bordered-images .thumb img{outline:solid #eaecf0 1px;border:none}.mw-parser-output .mod-gallery .whitebg .thumb{background:#fff!important}

巨大な質量分析計の例。

コンパクトな質量分析計の例。

試料導入部

試料を装置内に導入する部位。

試料が気体または揮発性物質であるか、あるいは液体、固体もしくは非揮発性物質であるかにより導入法は異なる。また、質量分析計を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ガスクロマトグラフィー(GC)キャピラリー電気泳動(CE)に直結し、移動相を導入することも可能である(それぞれ LC/MS (エルシーエムエスまたはエルシーマス)および GC/MS (ジーシーエムエスまたはジーシーマス)、CE-MS(シーイーエムエスまたはシーイーマス)と略称される)。
処理効率が問題となる場合には、試料導入をオートメーション化するためにオートサンプラーと組み合わせることもある。
イオン源電子イオン化法(EI法)化学イオン化法(CI法)マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI法)エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)


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