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『賢者の石を求める錬金術師』ライト・オブ・ダービー作(1771年)
賢者の石(けんじゃのいし、英: philosophers’ stone、ラテン語: lapis philosophorum、lapis philosophicus)とは、中世ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬である。人間に不老不死の永遠の生命を与えるエリクサーであるとの解釈もあるが、賢者の石が文献上に記述されるのはエリクサーよりかなり後である。 一般によく知られた賢者の石は卑金属を金などの貴金属に変えたり、人間を不老不死にすることができるという。霊薬としてのエリクサーと同様のものとして考えられることもある。見た目は諸説あるが、アラビアにおいては黄色で卵のような形、西洋においては赤い石の形が一般的だが、実際には石とは我々のいう「石」ではなく、液体だったとしても石として扱われる。 12世紀にイスラム科学からの錬金術が輸入されると、ヨーロッパでは賢者の石の探求熱が高まった。神秘主義的なヘルメス思想とともに、様々な伝説と風聞が広まり、小説の題材としても使われる。黒魔術と関係付けて語られることもある。 中世ヨーロッパ錬金術に多大な影響を与えたジャービル・イブン=ハイヤーンの説に、水銀と硫黄の2要素説がある。その2要素の比率により卑金属や貴金属が生じるとした。後に塩が加わって3要素説が生まれるが、いずれにせよ錬金術師たちは常に水銀に関心を寄せていた。水銀を原料になんらかの反応を繰り返すことで賢者の石ができると考えていたようである。 水銀と硫黄の化合物である硫化水銀には色の異なるものがあるが、代表的なものは赤色を呈する。天然でも産出され辰砂という(写真)。中国で不老長寿の霊薬仙丹・金丹の原材料とされた(→錬丹術)。漢字「丹」は辰砂のことで赤色も意味する。 水銀から金を創出できなくとも、金が溶けた水銀を蒸発させることで金メッキ(鍍金)を行える。金を水銀に融かすと金アマルガムとなる。銅の表面を磨き上げてから金アマルガムを塗り加熱すると、水銀のみが蒸発して表面に金が残る。この方法は大仏作成にも使用されている。なお、水銀蒸気は水銀中毒を起こす可能性が高いため、換気を要する。 ジャービルは、金を融かすことのできる王水を発明していた。金を王水で融かし、乾燥させると黄色の粉末、塩化金酸ができる。塩化金酸の水溶液も金メッキの材料となる。銅に塗布すれば表面が塩化銅となり、代わりに金が析出する。 賢者の石とは黄血塩(フェロシアン化カリウム)ではないかとの説もある。黄血塩は家畜の血や皮から膠(にかわ)をとるところで作られる。この黄血塩と硫酸を混合した液体に金を入れて加熱すると、この液体に金が溶け込む。猛毒であるため近年は避けられているが、シアン化金化合物は電気メッキあるいは無電解メッキ材料のひとつとして現在も使われている。 金を融かし込んだ溶液に卑金属を漬け、銅線で微弱な電気を送ると卑金属表面に金が固着する。電気鍍金である。最古の電池としてバグダッド電池が古代中近東メソポタミアのごく一部で使われていたとの見解もある。
概要
賢者の石とは辰砂