貨車
[Wikipedia|▼Menu]

貨車(かしゃ、英語: Freight Car)とは、鉄道において貨物を輸送するための列車(貨物列車)に用いられる車両を指す呼称。日本では、かつて小荷物郵便物旅客輸送の対象としていたが、現在ではほとんど廃れたことや運送の形態により、これらが「貨物」として含まれることもある。自走式電動貨車(貨物電車)については電車を参照。
構造上の分類
二軸車
日本やヨーロッパではかつては、一般的な小型貨車のほとんどが二軸車であった。固定車軸が2つ(4輪)の車両で、車体を長くするとカーブでの走行性能に問題が出て、高速特性も悪いが、構造が単純で費用が安い。アメリカでは輸送量が大きかったことなどからカブース(車掌車)を除き[注 1]、あまり見られない形態であった。
三軸車
二軸車同様の構造で、その間にもう一軸追加したもの。製造コストが低い割りに積載量を多くでき、日本では戦前のタンク車や長物車(タラ1形チサ100形など)、時代が下る例だと戦時形貨車(トキ900形)での量産例があったが、走行安定性ではボギー車に劣るため1967年に試験的に作られたク9100形を最後に日本では新造されていない。なお、曲線が緩やかなヨーロッパでは前述のク9100のような三軸連接車体の車運車は多く用いられている他、かつては客車にも使用されていた。
ボギー車
日本国有鉄道(国鉄)では建設規定で車両が安全に走れる目安(固定軸距4.6m以下・1軸当たりにかかる重量13t以下[2])を設けており、それらを超える場合や高速走行を求められる貨車(ワキ1など)などをボギー車とした、車両価格は高いが搭載量を大きくでき、走行安定性もよい。アメリカでは古くから主流の形態であった。
貨車の設備分類

貨車の設備は有蓋貨車、無蓋貨車、その他の貨車に分けられる。さらにその中に各種の貨車が存在している。また、一部のスペースに車掌の乗務設備を設けた車両は緩急車といい、有蓋車の場合は有蓋緩急車、コンテナ車の場合はコンテナ緩急車という。
有蓋貨車

有蓋車は、雨に濡れてはいけない貨物を収容する、屋根の付いた貨車である。一般に荷役するためのドアが側面に取り付けられている。初期には人力での荷役を想定していたが、後にはフォークリフトによる荷役を想定した設計になっている。汎用的に用いられる貨車で、ほとんどどのような貨物でも搭載していた。日本の鉄道では、普通の有蓋車と鉄側有蓋車鉄製有蓋車をさらに区別しているが、特に車体の材質を区別しない国も多い。

有蓋車の派生車種として様々な特殊仕様を持った貨車が開発されている。

冷蔵車は、車体に断熱機構を備えて車内を保冷・保温した状態で走行できる貨車で、肉類・魚介類・乳製品・飲料・冷凍食品などの食品類の輸送に用いられる。新しい車両では機械的な冷凍機を運転して車内を冷却しているが、もともとは氷やドライアイスといったものを用いて冷却することが想定されており、車両そのものには冷却機構が付いていなかった。温度維持に関する装備を除けばおおむね有蓋車と同じであり、アメリカでは「断熱構造で冷却用の氷槽が有るもの」を狭義の冷蔵車である「リーファー (reefer[注 2])」、「断熱構造のみで氷槽が無いもの」は有蓋車として「インシュレーション・ボックスカー (insulation boxcar)」と区別して呼んでいた。

通風車は、有蓋車の側面・妻面に多数のスリットが取り付けられており、車内の換気をしながら輸送できる貨車である。主に野菜果物などの冷却するほどではないが、熟する時に発生する熱を取り除く必要がある食品類の輸送に用いられる。これらの食品も、長距離の輸送では冷蔵車が用いられる。スリットが開閉式になっていて有蓋車と兼用できる車両もある。

家畜車は、ウシなどの生きた家畜類を乗せるための貨車である。換気が考慮されており、構造的には通風車と似ている。日本では荷台が2段構造でブタヒツジのような背の低い家畜用の豚積車、棚にカゴを載せるニワトリ専用の家禽車などが区別されていた。

これ以外に魚を生きたまま運ぶ設備を備えている活魚車、陶器を運ぶための棚を備えている陶器車などがあった。
無蓋貨車

無蓋車は、屋根がなく露天で貨物を輸送する貨車である。木材や砂利などを主に輸送する。あおり戸と呼ばれる、荷役時に倒すことができる戸を持っているものが多いが、開閉方式には他にも様々なものがあり、また側面の板を撤去した車両も存在している。機械類であっても、上に防水カバーを掛ける形で無蓋車で輸送することがある。土砂を輸送する無蓋車については、あおり戸の高さが違っていたりダンプカーのように荷台を傾けることができるようになっていたりと構造が若干異なり、土運車として区別されることがある。

無蓋車の派生車種を以下に示す。

長物車は、側面にあおり戸などがついていないフラットな貨車である。木材やレールなど長いものを輸送するために用いる。車両の輸送で用いることもある。側面に貨物の転落防止用の柱を立てることがある。コンテナを積載する車両も当初は長物車に分類されていた。

コンテナ車は、外見は長物車に近いが、鉄道コンテナを積載するために作られた貨車で、コンテナを固定するための緊締装置が備えられている。鉄道貨物輸送のコンテナ化に伴い、近年製造される貨車の多くがコンテナ車となっている。

車運車は、自動車を搭載するための貨車である。工場で完成した車両を販売地や輸出港へ輸送するためのものと、トラックトレーラーを積荷ごと積載して輸送するピギーバック輸送のためのものがある。前者の場合、普通車輸送用には2階建てになっている車両を用いていたが、近年では車を専用のコンテナに積載して輸送する場合が多い。またカートレインでは、車の汚濁防止と安全性の確保のため、車運車ではなく有蓋車が用いられる(日本の場合設定当初の車運車も馬車用の有蓋貨車であった)。

大物車は、タービン変圧器など、特に大型の物を運ぶために造られた特殊な貨車である。ただし、かさばるものでも自動車を積む場合は車運車に分類される(日本の場合自動車輸送用の貨車は前述の「(有蓋車の)車運車」の名義を引き継ぐまで大物車扱いであった)。様々な形態の車両が大物車に含まれ、中には貨物の容器自体を車体の一部として利用する形式の大物車もある。英語では構造によって専用の区分になる場合と長物車の一種とされる場合があり、貨物の容器自体を挟み込んで車体の一部にするタイプが「シュナーベルカー (schnabel car)」、あくまで車体に乗せる構造のものは長物車扱いで「ディプレスト(センター)フラットカー (depressed (center) flatcar)」と呼ばれる。
その他の貨車

タンク車は、石油、セメント、化学薬品、ガスなど気体・液体・粉状のものを輸送するために車体にタンクを備えている貨車である。配管を繋いで流し込み、流し出す形態での荷役が行われる。搭載する貨物の性格に応じて荷役方法や搭載量、タンク体の材質などが様々に異なっていて、多種多様な形式のタンク車が存在する。金属ナトリウム輸送用のタンク車では、融解したナトリウムを流し込んで冷却し、タンク内で固体の状態で輸送して、到着地点で温めて再度融解させて流し出すという特殊な荷役形態のものも存在する。水を輸送するためのタンク車は特に水運車と呼ばれる。

ホッパ車は、鉱石、砕石、セメント、小麦など粒状の物体を輸送するための貨車である。積み荷を包装せずにばら積みするのが特徴で、上側から貨車内に貨物を流し込み、下の取り出し口から流し出して取り出す。車体は漏斗状になっている。アメリカにおいてはリンゴオレンジをそのまま搭載できる冷蔵ホッパ車も存在していた。石炭を輸送するホッパ車は石炭車と呼ばれる。
貨車の用途分類

貨車の用途分類は、主に貨物列車の運用の仕方による分類である。
一般用貨車ドイツの操車場に並ぶ一般用貨車

一般用貨車は、様々な種類の貨物をそれに応じて製作した貨車に直接搭載し、貨物列車につないで運行するものである。このため貨車の種類は運びたい貨物に合わせて多種多様なものとなる。出発地・目的地・搭載する貨物がバラバラな貨車を連結して走らせるため、操車場での入換作業を繰り返しながら最終目的地へと運行される。途中での中継作業が多く、また出発地と目的地で鉄道とそれ以外の輸送手段の間での貨物の積み替えに手間が掛かることから、他の交通手段に取って代わられて多くの国で衰退している運用形式である。
専用貨車西オーストラリア州ポートヘッドランドに到着する鉄鉱石輸送列車

専用貨車は、鉱石・セメント・穀物・石炭・石油などの主に一次産品を、生産地や生産工場から消費地や加工工場に向けて大量に輸送するための貨車である。一次産品以外にも、自動車の完成車両を工場から輸出港へ輸送するなどの列車がこの形態に相当することもある。車両としてはタンク車やホッパ車などが主にこの分類となる。同一形式の車両を多数連ねて、出発地から目的地まで途中での中継作業なしに同じ貨物を大量直行輸送する形態で、鉄道の大量輸送の特性が最も発揮される形態である。
コンテナ貨車ドイツで運行されるコンテナ列車

コンテナ貨車は、貨車自体には走行装置とコンテナを積載する装置があるのみで、貨物はコンテナに格納されて、そのコンテナを貨車に搭載して輸送するものである。コンテナはフォークリフトやリーチスタッカーなどの荷役機械によりコンテナ貨車に対して脱着可能になっている。これにより、船舶やトラックなど鉄道以外の輸送モードとの間で貨物を積み替える作業が、荷役機械によるコンテナの積み替えだけで済むようになり大幅に省力化された。様々な行き先に貨物を届けるためには、コンテナ貨車を操車場で繋ぎ変えて列車を編成しなおすのではなく、荷役機械によってそれぞれのコンテナを目的地へ向かうコンテナ列車に積み替えるようになり、時間と手間を要していた貨車の中継作業も省略された。コンテナ貨車自体は同じものが大量に製造されて列車に連結されており、その上に搭載されるコンテナが貨物に応じて多種多様なものが製造されるようになっている。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:48 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef