貨幣史
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貨幣史(かへいし)は、貨幣の歴史、および歴史上の各時代における貨幣の機能や貨幣制度の研究を指す。関連する学術分野としては、貨幣とその形態を研究する貨幣学の他に、経済史をはじめとする歴史学や考古学、文化と貨幣の関わりも研究する文化人類学などがある。
概要ヤップ島石貨。物品貨幣
貨幣の起源・機能

貨幣の起源は、市場貿易の起源とは別個にあるとされる。貨幣の機能には、(1)支払い、(2)価値の尺度、(3)蓄蔵、(4)交換手段があり、いずれか1つに使われていれば貨幣と見なせる[1]

貨幣の4つの機能は、それぞれ異なる起源を持つ。(1)支払いの貨幣は、責務の決済を起源とする。賠償、貢物、贈物、宗教的犠牲、納税などがこれにあたる[2]。(2)価値尺度の貨幣は、物々交換や財政の管理を起源とする。歴史的には単位のみで物理的に存在しない貨幣もある[3]。(3)蓄蔵の貨幣は、財や権力の蓄積を起源とする。食料や家畜、身分を表す財宝などがこれにあたる[4]。(4)交換の貨幣は、財を入手するための交換を起源とする。売買がこれにあたる[5]。4つの機能をすべて備えた貨幣が使われるようになるのは、文字を持つ社会が発生して以降となる[6]

前述のように貨幣には4つの機能があり、いずれかに使われていれば貨幣と見なせる。歴史的には、用途によって特定の機能の貨幣があり、複数の貨幣を組み合わせていた[7]バビロニアでは価値尺度としての銀、支払い用の大麦、交換用の羊毛やナツメヤシなどを使い分けた。中国のでは賜与や贈与の目的や立場に応じて、金、布帛、銅が厳密に使い分けられた[8]。日本の江戸時代では江戸幕府が石高制のもとで米を価値の尺度として、金・銀・銅(銭)を三貨制度として統合した[9]
貨幣の素材

貨幣の素材には、現在では一般的な金属や紙の他に、さまざまなものが選ばれてきた。社会の伝統や慣習において富と見なされるものが、貨幣として選ばれていた[10]穀物家畜も貨幣となるが、そうした貨幣は消費して減ってしまうと取引に支障が出る。そのため、取引に影響が少ない素材として、金属や紙が多く選ばれるようになった。現在知られている最古の金属貨幣は紀元前4300年頃の銀リングであるハル[11]硬貨紀元前7世紀リュディアで作られたエレクトロン貨[12]、最古の紙幣は北宋の政府紙幣として流通した交子とされる[13]。特定の素材の価値で国家の貨幣を裏付ける制度として本位制があり、金本位制銀本位制金銀複本位制などがある[14]
物品貨幣古代中国の貝貨

素材そのものに価値のある貨幣を物品貨幣実物貨幣と呼び、特に初期の貨幣に多い。物品貨幣は、貝殻や石などを用いる自然貨幣と、家畜や穀物などの商品貨幣とに分類される。代表的な物品貨幣に貝貨[15](中国、オセアニア、インド、アフリカ)、石貨(オセアニア)、穀物(バビロニア、日本)、果実(メソアメリカ)、塩(カンボジア)、布帛(日本、中国、朝鮮、ギニア海岸)、鼈甲(古代中国)、鯨歯(フィジー)、牛や山羊(東アフリカ)、羽毛などが存在する。こうした物品貨幣のさまざまな種類は、パウル・アインチッヒ(英語版)の著作『原始貨幣』に集められている[16]
金属貨幣近代貨幣制度を確立したフローリン金貨。1347年

金属は保存性・等質性・分割性・運搬性において貨幣に適した性質があり、金貨銀貨銅貨鉄貨などが作られた。このうち銅貨は実際には青銅貨である場合が多い。金、銀、銅は腐食しにくい点も貨幣に使われやすい理由となった[17][18]。金属貨幣は、はじめは地金を秤って使った。これを秤量貨幣と呼ぶ。やがて、打刻貨幣または鋳造貨幣すなわち硬貨が現れた。硬貨のように一定の形状・質・重量を持っている貨幣を計数貨幣とも呼ぶ。古代から近世にかけての貨幣制度は金属資源の採掘量に左右された。金属貨幣の不足や、移動にかかる費用は、小切手為替手形、紙幣などの発生にも影響を与えた[18][19]

地中海や西ヨーロッパでは硬貨の素材として主に金銀を選び、中国や古代・中世の日本では銅を選んだ。西ヨーロッパでは領主や商人の交易に銀貨を中心に多用したが、中国では農民の地域市場での取引に銅貨が多用されていた[20]
紙幣最初の紙幣とされる交子。

中世には、名目貨幣である紙幣が登場した。紙幣は運びやすく、原料とコストの面で利点が多かったが、発行が容易なためにインフレーションも発生しやすく、しばしば国家の弱体化につながった。現在の紙幣は、中央銀行が発行する銀行券と政府が発行する政府紙幣に大きく分かれるが、その他にも民間でも紙幣が発行されてきた。最初の政府紙幣は宋政府、最初の銀行券はスウェーデンのストックホルム銀行が発行した[21]
電子マネー

1990年代から電子決済による電子マネーの運用が始まり、現在はICカードを使う形態が普及している。携帯電話による決済も急速に普及しており、現金を使わないキャッシュレスの社会が拡大している[22][23]
単位

物々交換において、交換比率を決める尺度として貨幣を用いる場合があった。バーターが効率よく行われるために尺度としての貨幣が役立った。手形などの信用取引の手法は、古代から物々交換でも使われて複雑な現物決済を可能としていた[3]。物々交換には信用取引を活発にする効果もあり、単位のみの貨幣も使われる。単位のみの貨幣としては古代ギリシャのタラントン、中世ジュネーヴのエキュー、中世西ヨーロッパのカールスやリブラ、日本のなどがある[24]

9世紀のバルト海のヴァイキングは、イスラーム帝国のウマイヤ朝の分銅を価値尺度の貨幣とした[25]。中世の西ヨーロッパは複雑な貨幣の流通をまとめるために、バンク・マネーとも呼ばれる計算用の貨幣で管理した[26]。アムール川流域の山丹交易では物々交換が行われ、山丹人(ウリチニヴフ)と清の取引では、現地で使われていない中国の銅貨を尺度とした。山丹人と日本の取引では、クロテンの毛皮を尺度にして商品の価値を計った[27]

含有率や重量がさまざまな貨幣が流通する地域では、両替商の存在が重要とされた。古代ギリシャのトラペジーテース(英語版)、中国の宋代の兌房、イスラーム世界のサッラーフ(?arr?f)、江戸時代の本両替と銭両替などがある。


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