象牙(ぞうげ、英語:ivory、アイボリー)は、ゾウの牙や歯から採取される硬くて白い物質で、歯や牙の物理構造の一つである象牙質を主成分としている。多くの哺乳類の「牙」と称される長く尖った歯は犬歯が発達したものであるが、ゾウの牙は門歯が発達したものである点が異なる。ゾウの生活において象牙は鼻とともに採餌活動などに重要な役割を果たしている。
材質が美しく加工も容易であるため、古代から芸術や工芸品や製造業において、象牙彫刻、義歯、ピアノの鍵盤、扇子、ドミノなど、様々な物を作るために重宝されてきた。そのような用途では、動物の牙のうち象牙が最も頻繁に使われてきたが、マンモス、セイウチ、カバ、マッコウクジラ、シャチ、イッカク、イボイノシシなどの牙も使用されてきた[1][2]。なお、エルクには2本の牙の歯があり、これは祖先の牙の名残と考えられている[3]。
象牙は英語圏では「アイボリー」と呼ばれ、古代エジプトのab、abu(「象」)から、ラテン語のebor-またはeburを介して派生した語句である[4]。「アイボリー」という語句は、象牙以外にも、彫ったり削ったりするのに十分な大きさの商業的に関心を持たれている哺乳類の歯や牙を表す総称として使用されることがある。これは、哺乳類の歯や牙の化学構造は原種を問わず同じであり、象以外の哺乳類の歯や牙の取引が広く行われているためである[5]。
アフリカゾウやアジアゾウなどの絶滅危惧種の象牙の国内外での取引は違法である[6]。 適度に吸湿性があって手になじみやすく、材質が硬すぎず・柔らか過ぎず(モース硬度2.5)、加工性も金属や水晶や大理石・翡翠などより優れている。 朱肉の馴染みがきわめてよく、高級感もある。印章が契約や公式書類では欠かせないため、日本はワシントン条約締結までは一番の輸入大国であった。取引停止後は、条約施行前や一時解禁時に輸入された象牙が印材として加工されているほか、各種の代替品が利用される。 印材としての象牙も部位によってランクがある。安物は表面近くの筋が多く入ったもので、先端の中心部に位置するほど貴重な物とされる。通常は木材と同じく縦目に切削されるが、側面から見て年輪のように模様が出る横目印材もある。特徴のある文様だが、木材と同じように強度は縦目の物には劣る。 象牙は刃装具として古くから利用されていることから、イギリスの刃物職人組合である「Worshipful Company of Cutlers」(英語版
用途象牙の利用例、根付(正利・作、1880年代)。日本の伝統工芸品として、象牙の国際取引が合法だった時代には海外にも輸出され、イギリスのベストセラー小説『琥珀の目の兎』(2010年)のモチーフにも使われた。
工芸
印章の高級素材としての象牙
刃装具としての象牙