谷間の家
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アメリカ合衆国のホラー小説家オーガスト・ダーレスクトゥルフ神話作品について解説する。

執筆形式が3タイプあり、スコラーとの合作、単著、HPラヴクラフトとの合作と称するものに大別される。そしてこれらは執筆時期の順でもある。

1926年に17歳でデビューしたダーレスは、1930年ごろにハワード・フィリップス・ラヴクラフトの『闇に囁くもの』などの「神話」を読んで感銘を受け、自分でも『潜伏するもの』などの神話作品を執筆したが、『ウィアード・テイルズ』(以下WT)誌のファーンズワース・ライト編集長からは酷評され、なかなか掲載されなかった。かくしてストックが溜まっていくことになる。ラヴクラフトの存命中に掲載されたダーレス神話は、わずか3作品に過ぎない。初期は風邪神を題材とした神話が多かった。

転機となったのは1937年のラヴクラフトの急逝であった。ダーレスは1939年にアーカムハウスを設立し、また書き溜めていた神話作品や新作をWT誌に次々と発表することで、ラヴクラフトと「クトゥルフ神話」を売り出しにかかる[1]。そのためダーレスのクトゥルフ神話、特に中期以降の作品は、ラヴクラフトを売るために書かれたという側面があり、ラヴクラフトとの合作を謳う作品群に体現されている。
ダーレス神話の特徴

ラヴクラフトの作品と、ダーレスがアレンジしたクトゥルフ神話は異なっている。ラヴクラフト作品のうち神話に関する作品群をラヴクラフト神話と呼んだり、クトゥルフ神話の中でもダーレスの神話をダーレス神話と強調して呼ぶこともある。

ラヴクラフトが「グレート・オールド・ワン」と呼んだ超古代や異次元のやつらを、ダーレスは旧支配者と再定義し、宇宙的な邪悪である彼らは、宇宙的な善である旧神によって封印され、復活を企てているとした[2]。そしてダーレス神話の中では、ラヴクラフトが、旧支配者の脅威を小説の形で人類に警告する預言者として位置付けられている。コズミックホラーならぬ、人間中心主義の視点である。

これについて、ダーレス神話をラヴクラフトが考えていたかのようにして宣伝していたと、批判を受けることがある(いわゆる「黒魔術文」にまつわる論争など[3])。ラヴクラフトがダーレスの神話スタンスを認めていなかったとさえ言われていたが、近年の研究で否定されている。

他の特徴としては、旧支配者を四大霊に分類するシステムや、邪神同士の対立や結託が挙げられる。ダーレスは多くの邪神や魔道書を創造した。

ダーレスがクトゥルフ神話を体系化したとという定説がある。これに対して森瀬繚は否定気味に、ダーレスはラヴクラフトの生前から自分の作品群としてのクトゥルフものを書き続けているだけで、設定を特に体系化などしていないと言い、続けて、どころかフランシス・レイニーが体系化した設定に従っていると指摘する[4]

若年のダーレスはラヴクラフトに心酔し、ジャンル名を「ハスター神話」にしたらどうかと提案したことがある。この案は却下となるが、ダーレスの方はハスターを長とする風邪神の神話を書くようになった。後にラヴクラフト作品はクトゥルフの神話と呼ばれるようになり、ダーレスは風邪神神話を書かなくなりクトゥルフ神話を書くようになる。
作品一覧
マーク・スコラーと共著
詳細は「ダーレスとスコラーの合作作品」を参照
邪神の足音 The Pacer (1930)

潜伏するもの Lair of Star-Spawn (1932)

モスケンの大渦巻き Spawn of the Maelstrom (1939)

湖底の恐普BThe Horror from the Depths(The Evil Ones) (1940)

納骨堂綺談 The Occupant of the Crypt (1947)

単著

風に乗りて歩むもの The Thing that Walked on the Wind (1933)

ハスターの帰還 The Return of Hastur (1939)

エリック・ホウムの死 The Passing of Eric Holm (1939)

サンドウィン館の怪 The Sandwin Compact (1940)

イタカ Ithaqua (1941)

戸口の彼方へ Beyond the Threshold (1941)

永劫の探究1・アンドルー・フェランの手記 (1944)

闇に棲みつくもの The Dweller in Darkness (1944)

永劫の探究2・エイベル・キーンの書置 (1945)

謎の浅浮彫り Something in Wood (1948)

丘の夜鷹 The Whippoorwills in the Hills (1948)

永劫の探究3・クレイボーン・ボイドの遺書 (1949)

彼方からあらわれたもの Something from out There (1951)

永劫の探究4・ネイランド・コラムの記録 (1951)

永劫の探究5・ホーヴァス・ブレインの物語 (1952)

谷間の家 The House in the Valley (1953)

ルルイエの印 The Seal of R'lyeh (1957)

ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの補作
詳細は「ラヴクラフトとダーレスの合作作品」を参照
暗黒の儀式 The Lurker at the Threshold (1945)

生きながらえるもの The Survivor (1954)

破風の窓 The Gable Window (1957)

アルハザードのランプ The Lamp of Alhazred (1957)

異次元の影 The Shadow Out of Space (1957)

ピーバディ家の遺産 The Peabody Heritage (1957)

閉ざされた部屋 The Shuttered Room (1959)

ファルコン岬の漁師 The Fisherman of Falcon Point (1959)

魔女の谷 Witches' Hollow (1962)

屋根裏部屋の影 The Shadow in the Attic (1964)

ポーの末裔 The Dark Brotherhood (1966)

恐怖の巣食う橋 The Horror from the Middle Span (1967)

インズマスの彫像 Innsmouth Clay (没後1974)


The Ancestor(未訳)

Wentworth's Day(未訳)

The Watchers Out of Time(未完、未訳)

ロバート・E・ハワードの補作


黒の詩人 The House in the Oaks (1971)

永劫の探究

5連作。ラバン・シュリュズベリイ博士と仲間たちがクトゥルフ教団と戦う。詳細は「永劫の探究」を参照
1:風に乗りて歩むもの

『ストレンジ・テイルズ』1933年1月号に掲載。クト4、真ク9&真ク2に収録。風の邪神イタカの初登場作品。


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