読み先習の法則
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読み先習の法則(よみせんしゅうのほうそく)とは、「漢字の読みを先に指導し、読みが充分身についた時点で書く練習を行うと効果が高い」という漢字指導の法則。日本の教育史上では、澤柳政太郎が「読み書き雁行の法則(よみかきがんこうのほうそく)[注 1]」として1920年(大正9年)ごろ発見した[2]。同様の法則に石井勲が提唱した「石井式漢字教育」(「石井方式」「石井式漢字早教育」とも呼ばれる)がある。石井式漢字教育とは、「漢字で表記するのを本則とする言葉は、最初から漢字で表記して指導し、読むことを先行させて教える」というものである。どちらも「読むこと」を先行させる方が、漢字をよく覚えられるという点では同じ法則を述べている[3]
概要

澤柳政太郎(さわやなぎまさたろう)(1865-1927)は明治政府の文部省官僚で教育学者としても大正新教育運動をになった一人である[4]。澤柳は当時の常識であった「国語科の授業では、「文字の読み書き」の教育は並行しておこなう」という考え[注 2]に反して「〈読むこと〉と〈書くこと〉とは、全く別の認識の働きを必要とするものだ。」と考えた[5]。澤柳は1917年に新設の私立成城小学校の校長となる[6]と、実際に漢字の「〈読み〉の教育を先行させてから、その後で〈書き〉を教える」という実験を行った[5]。その実験結果から、この方法によれば、「漢字の教育や学習は、これまでの何分の一という比較的少ない労力で、同様の効果を収めることができる」[7]ということを証明することに成功した[5]

石井勲(いしいいさお)(1919-2004)は高校で国語と英語の文法を教えていたとき、「我が国だけが表記指導に、子供用の特別な表記法を用いること[注 3]に疑問を持った[8]。石井は「一つの語の表記法は一つに限るという原則で教えた方がいいのではないか」と考え、「がっこう」のような漢字で書かれることが普通の語は、最初から漢字で教えた方が良いと考えた[8]。石井は1951年に八王子市教育委員会の指導主事になると、自説を説いて回り、八王子市内の小学校1年生の担任の協力を得て「最初から漢字かな混じり文で指導する」という実験を行った。その結果「漢字の混じった文の方が児童が興味を持ち、かな文字ばかりの時よりも読み方がすらすらと円滑である」ということを確かめた[9]。石井はさらに研究をすすめて「〈読み先習〉は〈書く〉指導において効果的だ」という認識に達した[10]。それは「「漢字混じり文を読むこと」を先行させて教え、「漢字を書く」ことはあとで行う方が良い」という澤柳の法則の再発見だった[11]

この2人は実験的裏付けのある同じ教育上の法則を発見したが、どちらもその後の小学校の現場には受けいれられることなく、その法則の存在も教育関係者や教育学者の間で継承されることもなかった[12]
澤柳政太郎の「読み先習の法則」(読み書き雁行の法則)雁行とは雁の飛ぶ列のこと。
澤柳の説

澤柳政太郎は「子どもには読むことができても書くことのできない漢字がたくさんある」[注 4]。それは大人でも同じで「読めるだけの文字がみな書けるとは言えない」という事実を重視した。澤柳は「漢字に限らずひらがなやカタカナでも〈読むこと〉は容易でも〈書くこと〉は困難だ」と一般化して、「読むこと」と「書くこと」を全く別の認識と考え、「〈読むこと〉と〈書くこと〉は決して並行すべきものにあらず。まず〈読むこと〉を教え、若干の時期をおいて、しかる後に〈書くこと〉におよぶべきであると信ずる」と主張した[13]。そして澤柳は「この方法によれば漢字の教授や学習は、これまでの何分の一という比較的少ない労力で、同様の効果をおさめることができる」という仮説を立てた[13]
成城小学校での実験とその結果

澤柳が校長を務めた成城小学校では漢字を教える時期を繰り上げて、1年生の段階から1000字以上の「漢字の読みだけを先に教える」ようにした。当時の国定国語読本は「ハナ」「マメ」「ハト」などのカタカナから始まっていたが、カタカナの単語の横に赤線を引き、それぞれに「花」「鳩」「豆」という漢字をあらかじめ書き込んでおいて[注 5]、それを子どもたちに読ませた。澤柳たちは「ふりがな」ではなく「ふり漢字」のついた教科書を使って文字を教えた[2]

この実験結果は1921年(大正10年)に『読方教授の革新』[14][15]として出版された。それによると、1年生末の段階で漢字の読み取りは平均500字、直接教えていない書き取りでも平均200字が習得されたことが確認された。当時の1年生が学ぶ漢字は約50字だったので、それをはるかに超える成果が得られた[15]。この実験は千葉県の公立小学校でも追試された[15]


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