認証官
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認証官(にんしょうかん)とは、日本の政治において日本国憲法あるいは法律に基づき、その任免にあたって天皇による認証が必要とされる官吏の通称[1]。ここでいう「官吏」は一般職及び特別職の国家公務員を指す。なお、「認証官」は法律上の用語ではない[2]

認証官の認証において行われる式典を認証式(にんしょうしき)という[3][4]

実際の例では、天皇の認証を必要とする認証官の任命式については認証官任命式(にんしょうかんにんめいしき)という形で行われ[5]、「任命権者(主に内閣総理大臣)による任命において、天皇がその辞令に親署する」という形式で認証が行われる[6][7]
概説
認証の意義と認証官の範囲

「認証」とは対象となる行為が権限ある機関によって正当な手続を経て行われた事実を確認し公証する行為を指す[6][8][9]。天皇による認証は日本国憲法第7条に基づく国事行為の一つであり、同条による認証としては、いわゆる認証官の任免の認証(日本国憲法第7条第5号)のほか、全権委任状及び大使・公使の信任状の認証(日本国憲法第7条第5号並び書き)、恩赦の認証(日本国憲法第7条第6号)、批准書及び法律の定めるその他の外交文書の認証(日本国憲法第7条第8号)がある。

具体的にどの官職が認証官にあたるのかについては憲法または個別の法律(例:内閣法宮内庁法など)より規定されるが、国務大臣高等裁判所長官など、内閣裁判所に置かれる官職のうち高位にあるもののみが認証官とされている。ただし、国会に設置される職(衆議院議長参議院議長など)は天皇による任免、認証の対象とされていない。

認証官とされた官職であっても「任免」(任命及び免官)を行うのはあくまで日本国憲法や各法律に規定された任命権者内閣など)であり、天皇はその任免の「認証」を行うのみである。認証を欠いていた場合にも対象となる行為そのものの効力には影響しない[9]。このため、認証自体は形式的な行為に過ぎないが、宮中にて行われる儀式と併せて当該官職あるいはその地位にある者の権威を高める効果を持つ。

中央省庁再編前の政務次官は認証官ではなかったが、再編後に新設された副大臣は認証官となり、その地位の向上が図られている。また、自衛官の地位の向上のため、大将に相当する統合幕僚長陸上幕僚長海上幕僚長および航空幕僚長の職にあるを認証官とする事が政策として検討されている[注釈 1]

認証には内閣の助言と承認を要する(日本国憲法第7条第5号)。ただし、新内閣成立時における国務大臣の任命についての認証については内閣総理大臣以外の国務大臣が未だ任命されていない。したがって、この場合には性質上、新たに任命された内閣総理大臣のみによって内閣の助言と承認が行われることになる[11]

なお、内閣総理大臣最高裁判所長官の2つの官職のみは、任命に先立つ「指名」は前者は国会、後者は内閣からなされるものの、官職への任命行為は天皇が自ら行い(日本国憲法第6条)、天皇による認証は行われない。したがって、内閣総理大臣と最高裁判所長官は認証官には含まれない。内閣総理大臣や最高裁判所長官を任命する儀式は「親任式」と呼ばれている[12][注釈 2]大日本帝国憲法下では天皇が任命する官吏について「親任官」と呼称していたが、現憲法下では儀式の呼称として「親任」の文字が残るものの官職の区分としての「親任官」は用いられていないため、内閣総理大臣と最高裁判所長官を一括して「○○官」で表す区分呼称は存在しない[注釈 3]。ただし、公的な行政権の行使等に関しない場面においては、宮内府・宮内庁が新年祝賀の告示文中などに「親任官」の表記を用いた例もあったが、1951年(昭和26年)6月16日付け官報の皇室事項欄掲載の「皇太后大喪儀」(貞明皇后の葬儀)の式次第に関する報告を最後に使用されなくなった。ただし、旧憲法下において親任官であった者への恩給など、過去の官吏に言及する場合については、当然のことながら今なお立法・行政・司法の公的な場で「親任官」の表現は使用され得る。
認証の手続
認証官任命式と認証の形式国務大臣の官記の例(江田五月に対する国務大臣の官記。内閣総理大臣菅直人により任命され明仁天皇により認証されている)

認証官の認証においては認証式が行われる[3][4]。実際の例では天皇の認証を必要とする認証官の任命式については認証官任命式という形で行われ[5]任命権者による任命において天皇がその辞令に親署するという形式で認証が行われる[6][7]

認証のための儀式は「認証官任命式」というが、認証を要する官吏を任命する必要が生じる都度、原則として皇居正殿「松の間」にて執り行われる[注釈 4]

式では天皇(または摂政もしくは国事行為臨時代行)の面前で、任命権者内閣総理大臣等)から御璽の押された官記[注釈 5]が伝達され、天皇から当該官一人一人に対し「重任ご苦労に思います」との言葉がかけられる(勅語を賜る)。このとき認証を受ける者は直答をしないで黙礼するのが慣例である。なお、認証官任命式が執り行われるのは任命の場合のみであり、免官の場合は宮中への参内はせず、後刻内閣官房から辞令書を受領するだけとなる。

定員が複数である認証官(国務大臣、検事長、特命全権大使、特命全権公使、高等裁判所長官等)については、個別の所掌事務・官署(補職内容)を特定しない官名としての認証が行われる。例えば、総務大臣たる国務大臣については、天皇は「国務大臣への任免」部分のみの認証を行い、総務大臣への任免に関する認証は行わない。このため、総務大臣を務める国務大臣を外務大臣に閣内異動させる場合や、広島高等裁判所長官を務める高等裁判所長官を大阪高等裁判所長官に配置換する場合のように、官記上の官名に変動がない異動の場合は新たな認証は行われない。ただし、副大臣については府省を特定した官職であるため、内閣改造等で総務副大臣を務める者が法務副大臣へ異動する場合等は、その都度新たに認証を受ける必要がある。
新内閣発足時の親任式と認証官任命式の間隔

内閣総理大臣の任命について定める日本国憲法第6条には日本国憲法第7条とは異なり「内閣の助言と承認」の文言がないが、内閣総理大臣の任命は日本国憲法第4条の「この憲法の定める国事に関する行為」に含まれるため日本国憲法第3条の効果として内閣の助言と承認を要する[13][7]。そして、内閣総理大臣の任命について先例では日本国憲法第71条の規定によって従前の内閣が助言と承認を行うことになっている[13][7]。この内閣総理大臣の任命によって従前の内閣はその地位を完全に失うことになる(日本国憲法第71条[14]

したがって、新内閣の国務大臣の任命・認証までの時間は内閣総理大臣以外の国務大臣が不在状態となる。しかし、憲法上、内閣は合議体であることを本質とすることから、内閣総理大臣の任命の時期から国務大臣の任命・内閣の成立までは極めて短い期間であることが期待されていると考えられている[15][14]。かつて片山内閣では1947年5月27日の内閣総理大臣任命後の同年6月1日に国務大臣が任命され、また、第2次吉田内閣でも1948年10月15日の内閣総理大臣任命後の同年10月19日に国務大臣が任命されたが、いずれの場合にも内閣総理大臣任命から組閣完了まで数日を要し、このような手続のとり方に対しては合議体たる内閣制度の本旨に反するもので妥当でないといった批判があった[14]。これに対して第3次吉田内閣では1949年2月11日の内閣総理大臣指名後の同年2月16日に組閣が完了した上で内閣総理大臣と国務大臣の任命が同時に行われ、このような手続をとる慣行が憲法の趣旨に合致するといった評価を受けた[14]。その後は次期首相となる者は指名を受けた者の資格において組閣の準備に取りかかり、国務大臣とする者を予め選定した上で、その後、内閣総理大臣の任命と時間的に密着する形で国務大臣の任命と認証の手続がとられることが一般的となっている[15]。今日、新たに内閣総理大臣が指名される場合、多くの例ではいわゆる組閣作業を済ませてから親任式、次いで認証官任命式を執り行うが、この場合は両式の間におおむね1時間程度の準備時間が生ずるとされる。憲法第71条の規定により、前内閣(職務執行内閣)の全閣僚は親任式における新総理任命の時点でその地位を喪失するため、認証官任命式での新国務大臣の任命・認証までの約1時間は厳密には総理以外の国務大臣が不在状態となるが、宮中に留まっている(総理が事務的作業を控える)ため、総理が自らに対して(空位となっている)各省大臣の臨時代理や委員長・長官・特命担当大臣の事務取扱の発令はしないのが慣例である。ただし、組閣作業未了で親任式だけをまず執り行った場合(つまり一旦宮中を出て官邸で組閣作業後に宮中に戻って認証官任命式を執り行う場合)は、その間の措置として総理が自らに各省大臣の臨時代理と委員長・長官・特命担当大臣の事務取扱の発令をすることで行政権の空白を生まないようにすることとなっている。そのような臨代・事取の一斉発令の事例としては期間の長いものでは片山内閣(親任式1947年5月24日、認証官任命式同年6月1日)が、短いものでは羽田内閣(親任式1994年4月28日午前8時55分、認証官任命式同日午後6時15分)などがある(一人内閣参照)。

また2019年における考慮では、新内閣の大臣が認証官任命式を終える前は、当然にして「前」とされる大臣はいるので大臣空白という事は有り得ない。
認証官の一覧
政府

組織認証官概要
内閣国務大臣
内閣総理大臣を除く)17人以内(復興庁大阪国際博覧会推進本部の設置期間中は19人以内)。官記、辞令書では国務全般への関与権限を有する「国務大臣に任命する」ことのみの認証を受ける。担当職務(例:「総務大臣を命ずる」、「内閣府特命担当大臣を命ずる」など)の補職は内閣総理大臣からの辞令により別途なされる。任命権者は内閣総理大臣である(日本国憲法第68条第1項、内閣法第2条第1項)。認証の根拠規定は日本国憲法第7条第5号。
内閣官房内閣官房副長官3人(内閣法14条1項)。中央省庁再編(2001年1月6日)以降、新たに認証官となったもので、それより前の内閣官房副長官は一級官吏であり、天皇による認証は受けなかった。慣例により、定員3人のうち2人は現職国会議員衆議院参議院1人ずつ)から、1人は官僚出身者から任命され、俗に前者を「政務担当」、後者を「事務担当」と呼ぶが、事実上のものであって認証対象事項でないため、この担当区分は官記・辞令書には記載されない。任命権者は内閣である(従前の例による)。認証の根拠規定は内閣法第14条第2項、国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律第11条。
人事院人事官3人(国家公務員法4条1項)。人事院を構成する職であるが、官記・辞令書では「人事院」を冠さず単に「人事官に任命する」と記載される。定員3人中1人の「人事院総裁を命ずる」との辞令は内閣から別途なされる。任命権者は内閣である(国家公務員法第5条第1項)。認証の根拠規定は国家公務員法第5条第2項。
各府省
デジタル庁復興庁を含む)副大臣24人(復興庁設置期間中は26人)。官記、辞令書では「内閣府」または「省名から省の字を除いたもの」を冠した記載がなされる(例:「内閣府副大臣に任命する」、「総務副大臣に任命する」)。内閣に置かれ国務全般への関与権限を有する国務大臣と異なり、副大臣は各府省に置かれ権限の範囲も当該府省に限定されるため、単に「副大臣」とする表記は官記・辞令書ではもちいられない。なお、各府省庁の副大臣の総称は、法令上「副大臣」であり(国家行政組織法第16条)、個々の副大臣を「副大臣」と表記、称呼することは、「局長」「課長」などと同様、官記・辞令書以外の公的場面では広くおこなわれる。同一府省に複数の副大臣が置かれる場合は大臣から各副大臣へ府省内の事務の分担範囲が職務指示書により指示されるが、この担当区分(例:金融担当)は認証対象事項でないため官記、辞令書には記載されない。任命権者は内閣である(国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律第8条第6項、内閣府設置法第13条第4項、国家行政組織法第16条第5項、復興庁設置法第9条第6項、デジタル庁設置法第9条第5項)。認証の根拠規定もこれらに同じ。
内閣府宮内庁宮内庁長官1人。


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