認知行動療法
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

この項目では、行動療法からの認知療法の発展や、そうした技法の総称について説明しています。行動に焦点のある技法については「行動療法」を、アーロン・ベックによる技法の詳細については「認知療法」をご覧ください。

認知行動療法
治療法
認知トライアングル
MeSHD015928
[ウィキデータを編集]
テンプレートを表示

認知行動療法(にんちこうどうりょうほう、(: cognitive behavioral therapy、略: CBT)は、従来の行動に焦点をあてた行動療法から、アルバート・エリス論理療法や、アーロン・ベック認知療法の登場により、思考など認知に焦点をあてることで発展してきた心理療法の技法の総称である[1]。「認知行動療法」の用語は、アメリカ以外の国でしばしばアーロン・ベック認知療法(Cognitive therapy)を指しているが[2]、本項では本来の意味である総称としての認知行動療法の説明に力点を置く。哲学的には、古代ローマのストア派仏教の影響を受けてはいるが、1950年代から1960年代の論理療法認知療法に起源をもつ[3]。共に、不適切な反応の原因である、思考の論理上の誤りに修正を加えることを目的としており、認知、感情、行動は密接に関係しているとされる[1]。従来の精神分析における無意識とは異なり、観察可能な意識的な思考に焦点があり、ゆえに測定可能であり、多くの調査研究が実施されてきた[3]

認知行動療法は、うつ病パニック障害強迫性障害不眠症薬物依存症摂食障害統合失調症などにおいて、科学的根拠に基づいて有効性が報告されている[4][5]。また自殺企図を半分程度に減少させる[6]。専門家によって実施されるほかに、こうした技法はマニュアル化できるため、セルフヘルプ・マニュアルのように自身で行うこともできる。コンピューターCBTと呼ばれるパソコンプログラムとの対話も存在する。コンピューターCBTは、施術者の不足する地方で有用である[7]

また、行動療法の側面の強いのは強迫性障害に対する曝露反応妨害法や、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する持続エクスポージャー療法である。後者のものは「トラウマに焦点化した認知行動療法」に含まれる。

第三世代の認知行動療法には、マインドフルネス認知療法アクセプタンス&コミットメント・セラピーなどがあり、うつ病や不安だけでなく、疼痛にも効果が見られている。境界性パーソナリティ障害に特化された技法は弁証法的行動療法であり、これは瞑想の技法と認知行動療法を組み合わせたような構成である。
認知療法と認知行動療法の違い「認知療法」も参照

認知療法(Cognitive therapy)の用語は、アーロン・ベックが開発した技法を指している[2]。また、本記事で解説している認知行動療法(Cognitive Behavior therapy)は、本来は様々な技法の総称であるが、アメリカ以外の国でしばしばアーロン・ベックの認知療法を指している[2]。認知療法研究所のジュディス・ベック(英語版)は、イギリスでは認知療法を指して認知行動療法の語を使っているため、欧州では両者の違いを区別する必要がないのではと推定している[8]

さらに認知行動療法の用語は、認知および行動の理論に基づかないものまで総称されて指している場合がある[9]。純粋な行動療法は、行動を取り扱うが、考えなど認知は重要な介入の対象ではなく、説明の対象でもない[9]。同様に、認知の変化だけに焦点を当てていても認知行動的ではない[9]。つまり、認知を取り扱ってそこに介入する場合に、認知行動的である[9]。この場合、症状や機能不全な行動は、認知を介して生じているとみなされ、思考や信念が変化されることで改善されるとされている[9]
小史と各手法の紹介スキナー箱。行動だけに焦点を当てた場合、認知的な解釈の不要な動物の行動の変容が客観的に観察できる[10]。マウスがレバーを押すと餌が出る装置によって、マウスのレバーを押すという行動が強化されることが観察される。

1960年代初頭に「認知の革命」が出現し、初期には、エリスや、アーロン・ベック、マイケンバウム、マホニーなどは、行動的な手法の限界を指摘した[9]。1970年代には、情報処理と学習に関する研究で著名なアルバート・バンデューラが認知の修正についての最初の影響力のあるテキストを公開し、自らを認知行動的な理論であるとする理論家が増えてきた[9]

同時代は1920年代から続いた行動主義に対して、1967年にナイサーが『認知心理学』という著作を公開し、新分野に名称を与え形作り、認知心理学が行動主義を引き継いでいった[11]。当時は、行動主義はその行きすぎた傾向において、心という概念を抜きにして、客観的な心理学としての観察が可能であるとしたが、動物の行動を変化させる強化因子である、いわゆる賞と罰を決定する際に、生物学的欲求を満たすわけでもない強化因子が数多くあることや、賞と罰に関係なく子供が言語を獲得することなどについての自己矛盾を無視することができなくなった。[11]

行動療法や認知行動療法では、従来の精神分析のような高水準の抽象化は行われず、内省によって提供される情報に基づいているため、無意識防衛機制といった精神分析の前提条件は除外されている[12]。意識的な思考に焦点を当てているということである[3]
論理療法(Rational therapy)
論理療法アルバート・エリスが1957年に提唱し[13]、最初の認知行動療法であるとみなされている[9]。彼の技法による目標は、不合理な信念(イラショナル・ビリーフ)を識別し、論理的な検討(つまり論駁)を通して修正することである[9]。「治療に何年もかける必要はない」と述べ、時間のかかる手法(精神分析)に挑んだ[14]
認知療法(Cognitive therapy)
認知療法アーロン・ベックが開発した。自動思考と呼ばれる、認知上の歪みを修正し、さらにスキーマと呼ばれる捉え方の根底的な部分にも焦点を当てる[15]

従来の行動と感情だけに焦点をあてたものから、思考や言語といった認知への焦点を加えた[1]
自己教示訓練(Self Instruction Training)
ドナルド・マイケンバウムによって1970年代に開発された[9]。認知行動療法という名称が最初に現れたのは、ドナルド・マイケンバウムの著作のタイトルである。
問題解決療法(Problem-Solving Therapy)
D'ZurillaとGoldfriedが1971年に提唱した[9]

1980年代に、認知療法と行動療法を、認知行動療法へと積極的に統合したのはイギリスのポール・サルコフスキスであり、彼は強迫性障害の治療に応用した[16]。精神分析の伝統が強迫性障害の治療に過去の記憶の抑圧に原因を求めてうまくいかなかったが、強迫観念に対して理性的な評価を下すための認知療法と、避けている者に徐々にさらす脱感作という行動療法とを結びつけた[16]
第三世代の認知行動療法

文脈的認知行動療法ともいう。認知の機能に注目し、マインドフルネスアクセプタンスを重視しているという共通点があると指摘されている[17]
マインドフルネス認知療法(MBCT)
マインドフルネス認知療法は、瞑想の技法を取り入れ、自動生起する思考にとらわれることなく、あるがままの状態に集中するという訓練である。1979年に仏教的な実践を痛みの患者に応用したマインドフルネスストレス低減法(MBSR)を基として、1990年代にうつ病の治療のためにマインドフルネス認知療法(MBCT)へと変換された。他にアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)があり、これは受容という面に焦点を当てている。
弁証法的行動療法 (Dialectical Behavior Therapy:DBT)
弁証法的行動療法は、1980年代から90年代にかけてマーシャ・リネハン境界性パーソナリティ障害に特化させて技法を開発し、感情が不適切だと感じたなら、正反対の行動をとることや、の技であるマインドフルネスという、自分の呼吸や、感情が生じては去っていくまでを行動せずにただ観察することといった、要素を持つ[18]。その著作は、原著名で『境界性パーソナリティ障害の認知行動治療法』Cognitive-Behavioral Treatment of Borderline Personality Disorderである[19]
アクセス

CBTの強度[20]高強度





低強度個人CBT
集団CBT
グループ単位の精神教育
支援付きセルフヘルプ
(セラピストと共に実施)
支援なしセルフヘルプ
(書籍、ワークブック、コンピュータプログラムなど)

個人CBTの場合、30から60分ほどのセッションを1から2週間に1セッションを実施し、全体で5から20セッションほどとなる[4]。合併のないうつ病や不安に対する、多くの認知行動療法は、12から16のセッションで終了する[9]。パーソナリティ障害では、1年以上の時間がかかることも多い[9]
セルフヘルプ「セルフヘルプ」も参照

認知行動療法は、それぞれの問題に対応したセルフヘルプマニュアルが多数出版されている。そのため、自分で行うことが可能である。
イギリスの心理療法アクセス改善詳細は「心理療法アクセス改善」を参照

イギリスは、認知行動療法の普及を図り、軽症ではインターネットで認知行動療法を受け、中等度から精神科医が診察し、薬物療法は重症の場合に認知行動療法と併用できるようにした[20][21]。ブレア政権の1997から2007年で、自殺率は15.2%減少した[21]。軽中程度の患者に対しては根拠に基づいた心理療法が施され、経済協力開発機構(OECD)は、他国が参考にすべき先進的な精神保健制度を持っていると評している[22]
日本の保険制度

2010年4月より、うつ病など気分障害の患者を対象として、16回を限度として、認知療法・認知行動療法の健康保険が適用可能となっている。
科学的根拠との親和性

認知や行動は、精神分析とは異なり、現在利用可能な研究技術によって観察できるため、研究することができる[12]。伴って、膨大な数の調査研究が行われてきた[3]
診療ガイドライン

イギリスやアメリカでは、うつ病と不安障害の治療ガイドラインで第一選択肢になっている[23][24][25]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:80 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef