認知症
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認知障害」とは異なります。

認知症

正常な高齢者(左)と、アルツハイマー病罹患高齢者(右)の脳比較。
概要
診療科神経学, 精神医学
頻度3.8 to 4% (アジア), 6.1 to 6.3% (ヨーロッパ), 6.4 to 6.6% (アメリカ州), 2.5 to 2.7% (アフリカ)
分類および外部参照情報
ICD-10F00-F07
ICD-9-CM290- ⇒294
DiseasesDB29283
MedlinePlus000739
Patient UK認知症
MeSHD003704
[ウィキデータで編集]
OECD各国の人口千人あたり認知症者

認知症(にんちしょう、: Dementia、: Demenz)は認知障害の一種であり、ヒトの脳後天的な器質的障害により、いったん正常に発達した知能知性が不可逆的に低下する状態である。初期段階は周囲にも、老化による物忘れと混同されやすいが、どれかが並行して起きる(物忘れに自己対処出来ない、物忘れしたこと自体を忘却、妄想幻覚、依存、徘徊、攻撃的行動、睡眠障害介護への抵抗、異食・過食、抑うつ状態など)。人によって症状は様々であり、発症前より怒りっぽくなったり、不安な性格になったり、異常な行動が見られるようになる[1][2][3][4]

本項では主にヒト(人間)について記述するが、認知症は人間以外の動物(など)でも発症する。狭義では「知能が後天的に低下した状態」の事を指すが、医学的には「知能」の他に「記憶」「見当識」を含む認知障害や「人格変化」などを伴った症候群として定義される[1][3]。これに比し、先天的に脳の器質的障害があり、運動の障害や知能発達面での障害などが現れる状態は知的障害、先天的に認知の障害がある場合は認知障害という。単に老化に伴って物覚えが悪くなるといった誰にでも起きる現象は含まず、病的に能力が低下して性格の先鋭化、強い承認欲求、理性的思考力衰退、被害妄想を招く症状を指す[5][6]

日本において、この病はかつて痴呆(ちほう)と呼ばれていた。しかし、日本では、2004年厚生労働省の用語検討会によって「認知症」への言い換えを求める報告がまとまった。これを受けて、まず行政分野および高齢者介護分野において「痴呆」の語が廃止され「認知症」に置き換えられた。各医学会においても2007年ごろまでにほぼ言い換えがなされている。朝鮮半島では漢字が義務教育から廃止されたため、「痴呆(症)」という漢字が問題にならず、現在もそのままである(詳細については#名称変更の項を参照)。日本では物忘れと混同されやすいため、物忘れ外来という認知症かもと思った際の専門が設置されているところがある[7]

認知症は70歳以上人口において2番目に多数を占める障害疾患である[8]。全世界で3560万人が認知症を抱えて生活を送っており[6]、その経済的コストは全世界で毎年0.5-0.6兆米ドル以上とされ、これはスイス国内総生産 (GDP) を上回る[9][6]。患者は毎年770万人ずつ増加しており[6]、世界の認知症患者は2030年には2012年時点の2倍、2050年には3倍以上になるとWHOは推測している[10]

現在の医学において、認知症を治療する方法はまだ見つかっていない[11][12]。安全で効果的な治療法を模索する研究が行われているが、その歩みは難航している[12]

予防も、知的活動や他人とのコミュニケーション、身体運動などにより試みられており、日本では日本認知症予防学会が組織され、アルツハイマー症に名を残すドイツの医学者アロイス・アルツハイマーの誕生日である6月14日を「認知症予防の日」と定めている[13]

老化に伴う脳の器質的障害とともに、身体のいずれかが機能不全を起こすことが多かったため社会問題化することはなかった。近年では身体の老化による障害は投薬などにより機能をある程度維持することが可能になったが、脳の機能は投薬などでは劣化を防ぐことができなかったために顕在化した。.mw-parser-output .toclimit-2 .toclevel-1 ul,.mw-parser-output .toclimit-3 .toclevel-2 ul,.mw-parser-output .toclimit-4 .toclevel-3 ul,.mw-parser-output .toclimit-5 .toclevel-4 ul,.mw-parser-output .toclimit-6 .toclevel-5 ul,.mw-parser-output .toclimit-7 .toclevel-6 ul{display:none}
症状

以前よりも脳の機能が低下するが、主に以下の様な症状に分類される。
中核症状

程度や発生順序の差はあれ、全ての認知症患者に普遍的に観察される症状を「中核症状」と表現する。記憶障害見当識障害(時間・場所・人物の失見当)、認知機能障害(計算能力や判断力の低下、失語、失認、失行、実行機能障害)などから成る[14][15]

これらは神経細胞の脱落によって発生する症状であり、患者全員に見られる。病気の進行とともに徐々に進行する。
周辺症状 (BPSD)

全ての患者に普遍的に表れる中核症状に対し、患者によって出たり出なかったり、発現する種類に差が生じる症状を「周辺症状」、近年では特に症状の発生の要因に注目した表現として「BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:行動・心理症状)」、「non-cognitive symptoms」と呼ぶ。

主な症状としては幻覚(20-30%[2])、妄想(30-40%[2])、徘徊、異常な食行動(異食症)、睡眠障害、抑うつと不安(40-50%)、焦燥、暴言・暴力(噛み付く)、性的羞恥心の低下(異性に対する卑猥な発言の頻出など)などがある[14][1]

発生の原因としては中核症状の進行に伴って低下する記憶力・見当識・判断力の中で、不安な状況の打開を図るために第三者からは異常と思える行動におよび、それが周囲との軋轢を生むことで不安状態が進行し、さらに症状のエスカレートが発生することが挙げられる。前述の通り、中核症状と違い一定の割合の患者に見られ、必ずしも全ての患者に同一の症状が見られるとは限らない。またその症状は上記のもの以外にも非常に多岐にわたり、多数の周辺症状が同時に見られることも珍しくない。中核症状が認知症の初期・軽度・中等度・重度と段階を踏んで進行していくのに対し、周辺症状は初期と中等度では症状が急変することも大きな特徴である。初期では不安や気分の沈みといった精神症状が多く、中等度になると幻覚や妄想などが発現する。

かつては中等度になると、患者は日常生活を行う能力を急速に喪失してゆくことが多いと認識されていた。そのため「周辺症状=中等度」との固定観念が存在したが[注釈 1]、現在では軽度でも一定の症状が発生することが分かってきた。よってその固定観念の払拭と、より原因に着目した表現としてBPSDが用いられるようになった。

オーストラリアにおけるBPSD管理指針[16]Tier診断有病率症状管理
1認知症なし--予防に努める
2BPSDのない認知症40%-予防・進行を遅らせる処置をする
3軽程度BPSDの認知症30%夜間騒乱、徘徊、軽い抑うつ、無気力、反復質問、シャドーイング(人に付きまとう[17]プライマリケア管理
4中程度BPSDの認知症20%大うつ病、攻撃的言動、精神病、性的脱抑制、放浪専門医受診のうえプライマリケア管理


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