詐害行為取消権
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この項目では、日本の民法上の詐害行為取消権について説明しています。

詐害行為の取消しや破産法上の否認権のもとになったローマ法に由来する訴権(Action Pauliana)については「廃罷訴権」をご覧ください。

英米法の詐害的譲渡(Fraudulent conveyance)については「詐害的譲渡」をご覧ください。

この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。

詐害行為取消権 (さがいこういとりけしけん) とは、債権者が債務者の行為を一定の要件の下に取り消すことができる権利。民法424条以下において規定されている。

現行民法では詐害行為取消権という名称で規定されている。かつては債権者取消権とも呼ばれていた。また、母法のフランス語の直訳で廃罷訴権と呼ばれたこともある[1]

民法の規定は、以下で条数のみ記載する。

概説
意義

通説・判例の立場によると債務者が債権者を害することを認識しつつ自己の財産を売買するなどして積極的に減少させた場合に、債権者が裁判上その行為を取り消して財産を返還させ、責任財産(抵当権先取特権を有しない一般の債権者が債権を回収する際に引き当てとなる債務者の財産のこと)を保全するための制度とされている。

ローマ法パウリアナ訴権に由来し、破産法上の否認権と同源であるが、現在、その機能はかなり異なった内容を有するに至っており、否認権が破産手続きにおいて、一般債権者のために比較的広範な要件において機能するのに対し、取消権は、破産外で(破産手続きにおいては否認権が優先される)、厳格な要件の下で行使され、実務的には民法425条の規定にかかわらず、行使をした債権者のために機能する。

2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)により424条1項を原則的な規律とし、破産法の規定に倣った類型ごとの特則が設けられた[2]
適用場面

債務者の責任財産が減少すれば、債権者が債権を回収できる可能性が低くなる。そして、債務者が債務者自身の責任財産を不当に減少させる行為(詐害行為)をした場合、この行為は債権者の債権回収の機会を減少させ、結果債権者を害すると言える。この場合に、債権者は、債務者の詐害行為を取り消し、詐害行為によって責任財産から失われた財産を債務者の責任財産へ戻す事ができる。

例えば、債務超過状態にある債務者Aと、Aに対する債権を有している債権者Xがいるとする。Aは先祖伝来の土地以外にめぼしい財産がなく、Xへの債務が弁済できなくなると分かっていながらも先祖伝来のこの土地を守るため、親戚のYに贈与してしまった。これによってAの財産は減少してしまい、このままではXは自分の債権を回収できなくなってしまう。そこでXはYへの贈与行為を詐害行為取消権によって取消し、土地をAに返還させ、あらためてこの土地を差し押さえて競売にかけ、その競売代金から債権を回収することができる。

これが詐害行為取消権制度が予定している場面である。このとき、Aの贈与行為を詐害行為といい、Aから土地を贈与されたYのことを受益者という。もしもYからさらにZへ土地が譲渡されていた場合、このZのことを転得者という。
受益者に対する詐害行為取消権の要件
一般的要件
詐害行為

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消し裁判所に請求することができる(424条1項本文)。

債務者が債権者を害する行為(詐害行為)をしたこと、具体的には債務者が無資力(いわゆる債務超過の状態)になることを言う。無資力状態は詐害行為のときだけでなく、取消権行使(事実審の口頭弁論終結時)のときにも無資力状態であることが必要である。債務者の資力が回復した場合は取消権を行使できない。債権者を保護する制度であって、債務者に制裁を加える制度ではないからである。

2017年の改正前の旧424条1項は「法律行為の取消し」としていたが、詐害行為には弁済など厳密には法律行為に含まれないものも含まれるため「行為の取消し」に変更された[3]
詐害行為取消権の対象となる例


不動産を時価相当額で売却する行為は原則として詐害行為になる(大判明44.10.3)。金銭に変わり散逸し易くなるため。

不動産の二重譲渡における第一の買主は、原則として第二の売買契約を詐害行為として取り消すことはできない。しかし、債務者が第二の売買契約によって無資力となった場合には、損害賠償請求権を保全するために、詐害行為として取り消すことができる(最判昭36.7.19)。

遺産分割協議(最判平11.6.11)

詐害行為取消権の対象とならない例


債権譲渡通知を債権譲渡行為と切り離して詐害行為取消権の対象とすることはできない(最判平10.6.12)。対抗要件具備行為は、それ自体としては取消の対象にはならない。

相続放棄(最判昭49.9.20)

離婚に伴う財産分与は、768条3項の規定の趣旨に反して不相応に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情がない限り、詐害行為として取消の対象とはならない(最判昭58.12.19)。

詐害意思

債務者が債権者を害することを知ってした行為で(424条1項本文)、その行為によって利益を受けた者(受益者)もその行為の時において債権者を害することを知っていたことを要する(424条1項ただし書)。

詐害の意思の具体的な内容は一定ではない。詐害行為の性質を考慮して事案ごとに異なる。例えば、債務超過に陥っているにもかかわらず自己所有の不動産について新たに特定の債権者のために根抵当権を設定する行為は債権者を害する度合いが高いため、債務超過であることを認識していれば「詐害の意思」があったとされる(最判昭32.11.1)。一方、債務超過の債務者がある特定の債権者にだけ弁済した場合には、その債権者と債務者の間に通謀があるなど強い害意がなければ「詐害の意思」があったとはされない(最判昭33.9.26)。
財産権を目的とする行為

財産権を目的としない行為については、詐害行為取消権は適用されない(424条2項)。
被保全債権

被保全債権は原則として金銭債権でなくてはならない。しかし特定物債権であっても、その目的物を債務者が処分することにより無資力となった場合には取消権を行使できる。特定物債権も究極において損害賠償債権に変じうるのであるから、債務者の一般財産により担保されなければならないことは通常の金銭債権と同様である。

被保全債権は詐害行為の前の原因に基づいて生じたものでなけれけばならない(424条3項)。

2017年改正前の民法の判例でも被保全債権は詐害行為が行われる前に成立していなければならないとされていた。それはこの制度の目的は責任財産の保全にあるため、債権が成立した時点における責任財産を保全すればそれで十分だからである(債務者の行為によってその財産が目減りしていても、それを前提に債務者に対する債権を取得したのだから、不都合はない)。

2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)ではこの判例法理をさらに進め、被保全債権の発生は詐害行為より後であっても、債権発生の原因が詐害行為より前であれば行使することができるとした[3]

なお、詐害行為よりも前に成立している債権であれば、詐害行為よりも後に当該債権を譲り受けた債権者であっても取消権を行使できる。

債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない(424条4項)。424条4項は2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で明文化された[3]
相当の対価を得てした財産の処分行為の特則

債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる(424条の2)。
その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。

債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。

受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で、相当の対価を得てした財産の処分行為について破産法161条の否認権の行使ができないにもかかわらず詐害行為取消権は行使することができてしまう不整合(2004年の破産法改正によって生じていた逆転現象)を解消するため、破産法の規律に倣って同様の要件が定められた[2][3][4]
特定の債権者に対する担保供与等の特則

債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる(424条の3第1項)。
その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。

その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

424条の3第1項は2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で新設され、過去の判例法理を明文化し、相当の対価を得てした財産の処分行為について破産法162条の否認権の行使ができないにもかかわらず詐害行為取消権は行使することができてしまう不整合(2004年の破産法改正によって生じていた逆転現象)を解消するため、破産法162条1項1号等と同様の要件が定められた[2][3][4]

また、債務者が支払不能になる前であっても、債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる(424条の3第2項)。


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