触腕
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ダイオウイカ Architeuthis duxの触腕。

触腕(しょくわん、: tentacle)はイカ(十腕類)のみがもつ、伸縮自在で、餌を捕獲するための特殊なであり[1][2]、左右の第3腕(V)と第4腕(W)の間から伸びる[3]タコの触手が8本であるのに対し、イカが10本なのはこの腕の有無による。
構造カナダマツイカ Illex illecebrosusの触腕。

触腕は普通、他の腕よりも長く、獲物を捕らえる役割を持つ。また、これを切り離して逃げることもある。眼の下にあり第3腕と第4腕の間に開口するポケット中に触腕は折りたたまれる[3]コウイカ類の触腕は完全にポケットの中に収めることができ、外からは見えないこともある[3]ツツイカ類では完全には収納できず、常時出ているが、腕と同長程度に収縮させている[4]

触腕は先端部が広くなり、その部分だけに吸盤があるが[3]、この部分を触腕掌部[5](しょくわんしょうぶ、tentacle club)または触腕頭[6](しょくわんとう、腕頭部[4])という。またそれを繋ぐ伸縮自在の部分を触腕柄(しょくわんへい、tentacle stalk[2]、柄部[4])と呼び、しばしば吸盤を欠く[2]。タコの吸盤と違い、イカ類(十腕形類)の吸盤は基部が柄のように細くなっており、吸盤の内部には角質環(かくしつかん、chitinous ring, horny ring)と呼ばれる硬い有機質のリングがある[7]。触腕掌部に沿って1または2の筋肉質の膜が拡がった泳膜 keel を持つものもいる[2]。先端部のものは反口襞 (aboral web)、基部のものは基部襞 (carpal flap) と呼ばれる[5]
コウイカ類の触腕イカ・タコの吸盤(左)とコウイカ類の触腕掌部(右)。

コウイカ類の吸盤では、触腕掌部の吸盤が微小等大 (uniform) のものと、顕著に不等大 (unequal) のものがみられ、分類形質として用いられる[8]。普通触腕は他の腕より長いが、トサウデボソコウイカ Sepia subtenuipes Okutani & Horikawa, 1987 の成熟雄では第1腕の方が触腕より長く伸びる[9]
開眼類の触腕触腕を持たないタコイカ Gonatopsis borealis。Abraliopsis morisii (Verany, 1839) の触腕。中央部の吸盤は鉤に変化している。

開眼類では触腕掌部の吸盤に機能による形態分化が見られ、基部 (carpus)、掌部(manus、または中央部[5])および先端部 (dactylus) の3群に分かれる[4]。基部にある小さな吸盤は carpal suckers と呼ばれ、反対側の触腕掌部の中央部の carpal knobs に引っ付き、触腕掌部を固定する[2]。carpal suckers と carpal knobs の明瞭な塊を carpal cluster (carpal pad) と呼び、固着器[10](こちゃくき、club-fixing apparatus)として働く[2]。掌部は先端部と基部の間にあり、触腕掌部の中央または「手」に当たる部分である[2]。中央部にはキチン質の鉤爪状の鉤(かぎ、hooks)を持つことがあり、これは発生学的には吸盤に由来する[2]。先端部は触腕の最も遠位端にあり、吸盤のサイズが減少することで特徴づけられる[2]

ユウレイイカ Chiroteuthis picteti Joubin, 1894 の触腕柄は紐のように細長く、大きな発光器が十数個ついている[11]。触腕掌部には吸盤がびっしりと並び、その先端には大きい発光器がある[11]。これは誘蛾灯擬似餌の役割をしているとも考えられている[11]

ヤツデイカ科に属する種およびテカギイカ科のタコイカ Gonatopsis borealis Sasaki1920 は成長に伴って両方の触腕が失われ、イカ類でありながら8本腕となる[7][1]
内部構造「腕 (頭足類)#内部構造」も参照

触腕には硬い骨格がなく、筋肉包骨格[12][注釈 1](muscular hydrostat)と呼ばれる骨格支持機構による筋繊維の三次元的な配列な構造を持つ[15][16][13]。これは、多くの無脊椎動物が持つ水力学的骨格(hydrostatic skeleton)[注釈 2]として働く完全に液体に満たされた体腔を持たず、古典的な水力学的骨格の概念とは異なった仕組みで支えられている[16][13][15]。そのため支持、力の伝達、筋肉の拮抗、そして力の増幅や置換は典型的な硬い骨格や水力学的骨格からもたらされるのではなく、筋肉が運動の効果器や骨格の支持に働いている[16]。触腕の支持と運動は筋組織が体積変化に抵抗することにより行われる[16]。「付属肢の体積は基本的に一定であるため、ある面が縮小すると他の面が拡大する」という非常に単純な原理によって、腕の変形が起こっている[16]

筋繊維は互いに垂直な3方向に配列しているため、三次元方向に全て能動的に制御され、顕著に多様な運動と変形ができる[16]。鞘形類の触腕では以下の3つの主要な筋肉の配向が観察されている[16]

横走筋繊維 (transverse muscle fiber) - 前後軸に垂直な面に配列される

縦走筋繊維 (longitudinal muscle fiber) - 典型的に前後軸に平行な束で配列される

螺旋状または斜めに配列される筋繊維 - 右巻き螺旋、左巻き螺旋両方の配列がある

これらの筋肉のグループが選択的に活動することで、伸長、短縮、屈曲、ねじれおよび硬直が起こる[16]。最も多い筋繊維の種類は斜紋筋 (obliquely striated muscle) である[16]横紋筋繊維は獲物を捕捉するイカの触腕の横走筋塊でのみ見られる[16]。これらの繊維は普通短いミオフィラメントおよびサルコメアを持ち、触腕の急速な伸長に必要な高い収縮速度を生み出す[16]。鞘形類は収縮速度を調節するために組織特異的なミオシンアイソフォームではなく超微細構造の修飾 (ultrastructural modifications) を用いると考えられている[16]
筋肉組織の形態と構造


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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