解雇
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解雇(かいこ)とは、使用者の一方的な意思表示による労働契約の解除である[1]。解雇の理由は、主に会社側の経済的事情によるもの(余剰人員など)と、労働者個別の理由によるもの(能力不足・不祥事など)に大別される[2]

一般的に解雇は労働者に大きな不利益をもたらす[1]。そのため特に先進諸国では雇用保護規制の対象となっており、各国の法で何が不公正解雇(Unfair Dismiss)とされるかが規制されている[3][2]。労働に関する制度は、政府による法的な規制や個人や企業間で定着し存続している行動様式(慣行)によるものがあり、解雇に関しても各国で異なる[4]

雇用慣行の面では、米国では比較的解雇が容易とされており、不況時に解雇(レイオフ)、景気拡大期に雇用の増加がみられる[4]。日本では米国ほど解雇は容易でなく、不況時には人員削減を可能な限り避けつつ、景気拡大期には雇用の増加ではなく残業の増加で対応する雇用慣行がみられた[4]。雇用慣行の違いは統計などによる国際比較で留意点とされている[4]

俗称については「俗称」の節を参照。
国際労働機関条約

国際労働機関(ILO)の1982年の雇用終了条約(第158号)においては、会社都合による解雇の際には、解雇予告期間もしくはその期間に準する解雇手当を与えるよう規制している。さらに第5-6条では具体的な不公正解雇ケースを挙げている。

第4条労働者の雇用は、当該労働者の能力若しくは行為に関連する妥当な理由又は企業、事業所若しくは施設の運営上の必要に基づく妥当な理由がない限り、終了させてはならない。

第11条雇用が終了されることとなる労働者は、合理的な予告期間を与えられ又は予告期間に代わる補償を受ける権利を有する。ただし、当該労働者が、重大な非行、すなわち、当該労働者を当該予告期間中引き続き雇用することを使用者に要求することが合理的でないような性質の非行を犯したとされる場合は、この限りでない。

第12条1.雇用を終了された労働者は、国内の法令及び慣行に従つて次のいずれかのものを受ける権利を有する。(a) 使用者により直接支払われ又は使用者の拠出により設立された基金により支払われる離職手当その他の離職給付(その額は、特に勤務期間及び賃金水準に基づくものでなければならない。)(b) 失業保険若しくは失業扶助又は他の形式の社会保障からの給付(例えば、老齢給付、疾病給付)。ただし、これらの給付は、当該給付の通常の条件に従う。(c) (a)及び(b)に規定する手当又は給付の組合せ ?  1982年の雇用終了条約(第158号)

なお以下の者は、この158号条約より除外することが可能である(第2条2)。

特定の期間又は特定の仕事のための雇用契約に基づいて雇用されている労働者

試用期間中の労働者又は雇用に係る資格の取得期間中の労働者。ただし、これらの期間は、あらかじめ決定された合理的なものでなければならない。

短期間臨時的に雇用されている者

欧州連合

欧州社会憲章においては、解雇予告期間を設けることを人権条約の一つとして定めている。さらに解雇においては、労働者個人の能力・行為に関連する正当な理由、もしくは会社都合解雇においては、雇用主の事業、施設、サービス運営上の必要性に基づく必要があると定めている。
第4条 公平な賃金の権利
4. to recognise the right of all workers to a reasonable period of notice for termination of employment
すべての労働者が雇用の終了について合理的な通知期間を持つ権利を認めること。
第24条 雇用終了についての保護を受ける権利
雇用終了におる労働者の権利保護について、実効性確保のため、締結国は以下を認めることを約す。

a. the right of all workers not to have their employment terminated without valid reasons for such termination connected with their capacity or conduct or based on the operational requirements of the undertaking, establishment or service;
すべての労働者が、労働者個人の能力または行為に関連する正当な理由、もしくは事業、施設、サービス運営上の必要性に基づくことなく、雇用を終了させられない権利

b. the right of workers whose employment is terminated without a valid reason to adequate compensation or other appropriate relief.
正当な理由なく雇用を終了させられた労働者が、適切な補償、またはその他の適切な救済を受ける権利。
?  欧州社会憲章
日本における解雇.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。


本項で労働基準法について、以下では条数のみを挙げる。

雇用の解除については、労働基準法の制定以前より民法で規定されていたが、民法における雇用契約は当事者の交渉力や社会的地位が対等であることを前提としており、例えば期間の定めの無い雇用契約(定年まで働くような契約のこと)では、当事者のどちらからでも一方的に解除を申し入れることができる(民法627条)。しかし使用者の方が労働者よりも強い立場にあるのが通常であるから、労働者が解雇されるに当たっては、民法による保護では十分ではない。そこで、1947年(昭和22年)、労働基準法により、解雇する場合の最低基準が制定され、さらに現在では労働契約法など各種の労働法や判例法理によって、民法の原則が全面的に修正されている。
種類退職事由に係るモデル退職証明書

日本においては判例上、解雇の原因によって、普通解雇整理解雇懲戒解雇に分けられる[1]。法務上、従業員を解雇するためには少なくとも就業規則に解雇条件を明示する必要がある。
集団的解雇
整理解雇は、経営不振による合理化など、経営上の事由に基づく人員整理として行われる解雇[1]。解雇の人数が一定数を超える場合、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律に基づき届け出を要する。
個別的解雇

普通解雇
普通解雇は単に解雇と呼ぶ場合もあり、労働能力の低下等、労働者の個別的事由に基づいて行なわれる解雇。会社都合退職となる。
懲戒解雇
会社の規律や秩序に反した社員に対して懲戒として行なわれる解雇[1]。会社の懲戒事由としては、犯罪行為、職場規律違反、経歴詐称、業務命令違反、機密漏洩・営業上の秘密漏洩、背信行為(競業避止義務・職務専念義務違反)などがある。これに対する懲戒処分としては、懲戒解雇の他に戒告譴責減給停職、諭旨解雇などがあり[5]、懲戒解雇は会社の懲戒処分のうち最も重いものとなる[6]。 実務上は、他の従業員の懲戒事例との釣り合い(平等取り扱いの原則)、社会通念上の相当性、手続き上は事前弁明の機会の付与が必要という考え方がある。さらに、上記のような刑事犯罪等に該当しない場合には、継続的な指摘すなわち指導や注意、警告、段階的懲戒が必要という考え方がある。 本人都合退職とされることがあり、退職金不払いの根拠となる点が普通解雇との明らかな相違点である。解雇時点で解雇事由を全て明かす必要があるとされ事後的追加が認められない場合がある。
重責解雇
雇用保険法上にて定められた、労働者本人の責めに帰すべき重大な理由による解雇。本人都合退職となる。
諭旨解雇[6]
諭旨解雇とは、懲戒解雇事由が認められる場合に、会社側から本人へ自発的退職を促すもの。形式上は本人の自発的な退職いわば普通の本人都合退職となる。
その他解雇に類似した概念

公務員が職を解かれることは「免職」という。

芸能人や外交員、プロスポーツ選手によく見られる、委任請負契約や業務委託契約に基づく専属契約の解消は、契約自体が実態として雇用契約に該当するとみなされない場合には、解雇とはならない[注 1]

日本の解雇規制

解雇は、使用者の一方的意思表示で行うものであるが、解雇は労働者の生活の糧を得る手段を失わせるものであるから、不意打ちのような形で行われることがないよう、各種の法制で規制が設けられている(解雇規制)。

期間の定めのない労働契約(無期雇用)では、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となる(労働契約法16条)[注 2]

期間の定めのある労働契約(有期雇用)では、使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、その労働期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない(労働契約法17条)[注 3]
労働条件通知書

退職に関する事項(解雇の事由を含む)は、就業規則の絶対的必要記載事項とされていて(89条)、使用者は解雇の事由を就業規則に記載しなければならない。また労働条件の絶対的明示事項ともされていて(15条)、使用者は労働契約締結に際して労働者に対して解雇の事由を書面で明示しなければならない。

しかし裁判所は、たとえ労働者に就業規則違反などの落ち度があった場合であっても具体的な事情から考えて「解雇権の濫用」であるといえるならばその解雇は無効として、使用者による解雇権の行使を制限してきた。これが解雇権濫用法理と呼ばれるものである。つまり、紛争になっている解雇について具体的事情に照らして考えると、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないという場合には解雇権の濫用として解雇の意思表示は無効になる。この法理は、2004年(平成16年)1月の改正法施行により18条の2に明記され、さらに2008年(平成20年)3月に施行された労働契約法により同法16条に移された。

就業規則や労働協約に定める解雇事由が限定列挙であるか例示列挙であるかは個別の判断によるが、一般的には就業規則等の趣旨から限定列挙と解し、そこに挙げられていない事由による解雇は無効となる。もっとも限定列挙と解釈すると、就業規則等の規定が十分に整備されていない場合に、客観的に不可避と考えられる解雇さえ無効になるという問題がある(例示列挙と解した裁判例として、大阪地判平成元年6月29日、東京地決平成12年1月21日等)。実務上は就業規則に具体的自由を列挙したのちに「その他前各号に準ずるやむを得ない事情があったとき」というような包括的規定が設けられていることが多く、限定列挙と例示列挙のいずれであるかはさほど大きな相違をもたらすわけではない[7]

労働者の能力不足解雇について、能力不足を理由に直ちに解雇することは認められるわけではなく、高度な専門性を伴わない職務限定では、改善の機会を与えるための警告に加え、教育訓練、配置転換、降格等が必要とされる傾向がみられる(平成26年7月30日基発0730第1号)。

労働協約上「組合員を解雇しようとするときは組合の同意を要する」旨の所謂同意約款が存する場合、使用者が組合員を解雇しようとするときは、組合の同意を得なければならないことは当然であり、これに違反してなされた解雇は、特別の事由のない限り、無効と解すべきである。しかしながら、当該約款は、本来解雇に関する使用者の恣意を排除せんとする趣旨のものであって、労使が相互に信義則に基き、約款本来の趣旨を尊重して事の処理に当るべきであるから、使用者側において、企業の必要上解雇するにつきやむを得ない事情があり、組合の同意を得るべく相当の努力を傾倒しているにも拘らず、組合側において正当な理由なくしてこれを拒否し続けている場合は、組合側の「同意拒絶権の濫用」と見得る場合があり、かかる場合は組合側の最終的了解を得ずして解雇を行っても同意約款違反とはならないとするのが一般的な考え方である。しかしながら「同意拒絶権の濫用」と目されるのは、使用者側が相当の努力を傾倒していて然も組合の拒絶が信義則上甚だ妥当を欠く場合であって、形式的な交渉、協議によつて組合の同意が得られなかったという事実のみを以てしては、未だ必ずしも「同意拒絶権濫用」とはいえない場合が多い。従って、解雇が同意約款違反を構成するか否かは、ひとえに当該人員整理の必要性及びその緊急性並びにこれを実施するに当って採られた労使の協議の度合及び協議態度等の事実関係の如何に懸ってくることになる(昭和31年12月3日労収第2775号)。

解雇の制限不当解雇とみなされる条項の一覧については「不当解雇#日本」を参照

(解雇制限)

第19条  
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

解雇が具体的に制限されている場合として、労働基準法では次の2つを定めている。労働者の責めに帰す事由があっても、この解雇制限は解除されないが、天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合には、行政官庁(所轄労働基準監督署長。以下同じ)の認定を受けた上で解雇制限が解除される(施行規則7条)。
業務上災害により療養のため休業する期間とその後の30日間の解雇

産前産後休業期間とその後の30日間の解雇

「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった」として、認定申請がなされた場合には、申請理由が「天災事変その他やむを得ない事由」と解されるだけでは充分でなく、そのために「事業の継続が不可能」になることが必要であり、また逆に「事業の継続が不可能」になってもそれが「やむを得ない事由」に起因するものでない場合には認定すべき限りでない(昭和63年3月14日基発150号)。

「やむを得ない事由」とは、天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づきかつ突発的な事由の意であり、事業の経営者として社会通念上採るべき必要な措置を以てしても通常如何ともなし難い状況にある場合をいう。以下の場合は該当する(昭和63年3月14日基発150号)。

事業場が火災により焼失した場合(事業主の故意重過失に基づく場合を除く)

震災に伴う工場事業場の倒壊・類焼等により事業の継続が不可能となった場合

震災により一工場は被害は全然ないが本社並びに他の三工場が震災により倒潰或いは焼失したため、再建資金面に行き詰まりをきたし被害を受けなかった同工場も事業の継続不可能となった場合は、「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった」場合に該当する(昭和23年8月4日基収2697号)。



一方、以下の場合は「やむを得ない事由」に該当しない。

事業主が経済法令違反のため強制収容され、または購入した諸機械・資材等を没収された場合

税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合

事業経営上の見通しの齟齬の如き事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材入手難、金融難に陥った場合

従来の取引先が休業状態となり、発注品無く、ゆえに事業難に陥った場合

親会社からのみ資材資金の供給を受けて事業を営む下請工場において現下の経済情勢から親会社自体が経営困難のために資材資金の獲得に支障をきたし、下請工場が所要の供給を受けることができず事業の継続が不可能となった場合、法律的には「やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合」には該当しないが、事業廃止の後、該当労働者について引き続き労働契約を継続させる実益がない場合には運用上然るべく認定せられたい(昭和23年6月11日基収1899号)。



「事業の継続が不可能になる」とは、事業の全部または大部分の継続が不可能になった場合をいう。事業がなおその主たる部分を保持して継続しうる場合、または一時的に操業中止のやむなきに至ったが近く再開復旧の見込みが明らかである場合は含まれない(昭和63年3月14日基発150号)。

派遣労働者については、「事業の継続が不可能」であるかどうかの判断は、派遣元の事業について行われる(昭和61年6月6日基発333号)。

業務上の傷病により使用者から補償を受ける労働者が、療養を開始して3年を経過してもその傷病が治らない場合、平均賃金の1200日分の打切補償を支払えば解雇の制限は解除される(19条1項但書、81条)。この場合は行政官庁の認定は不要である。もっとも、当該傷病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において、打切補償を支払ったものとみなされて解雇制限が解除されるので(労働者災害補償保険法19条)、打切補償を支払って解雇制限を解除することは極めてまれなケースに限られる。


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