角質細胞(かくしつさいぼう)またはコルネオサイト(英: corneocyte)は終末分化したケラチノサイトであり、表皮の最外層である角質層の大部分を構成する。角質細胞は落屑と下部の表皮層からの更新によって定期的に置き替わっており、皮膚のバリア機能に必要不可欠な役割を果たしている。 角質細胞は、核や細胞質のオルガネラを持たないケラチノサイトである[1]。その周囲にはきわめて不溶性のコーニファイドエンベロープ(cornified envelope)や表皮内の層板顆粒
構造
角質層の下部の角質細胞は、コルネオデスモソーム(corneodesmosome)と呼ばれる特殊な細胞結合によって連結されている。角質細胞が皮膚の表面へ向かって上方へ移動するにつれてこうした結合は解体され、落屑が引き起こされる。それと同時に、緩んだ結合部ではより多くの水和が生じ、膨張して連結されることで、微生物が侵入する可能性のあるポアが形成される[2]。
角質層は自身の重量の3倍の水分を吸収することができるが、水分量が10%を下回ると柔軟性を失い、ひびが生じる[3]。 角質細胞は、分化の最終段階のケラチノサイトである。表皮の基底層
形成
角質細胞は無核細胞であり、その直径は30?50 μm、厚さは約1 μmである。角質細胞が皮膚表面で占める平均面積は約1000 μm2であるが、解剖学的部位や年齢のほか、紫外線などの外部環境要因によっても変動する可能性がある[5][6]。角質細胞の主要な構成要素はケラチン中間径フィラメントであり、平行に並んだ束へと組織化されてマトリックスを形成することで皮膚の全体構造に剛性をもたらしている[7]。 角質細胞の層は高い機械的強度を生み出し、表皮の物理的、化学的、そして免疫学的バリアとしての機能の発揮を可能にしている。一例として、角質細胞は紫外線散乱光を反射する紫外線バリアとして作用し、体内の細胞のアポトーシスやDNA損傷を防いでいる[8]。角質細胞は本質的には死細胞であるためウイルスによる攻撃を受けることはない。また、角質層は2?4週間で完全にターンオーバーし、皮膚内での病原体のコロニー形成は防がれている[9]。また、角質細胞は少量の水分を吸収して貯蔵することができ、皮膚を水和してその柔軟性を維持している[10]。 角質細胞には天然保湿因子(natural moisturizing factor)と呼ばれる低分子が含まれている。これらの分子は少量の水分を角質細胞内に吸収し、皮膚を水和している。天然保湿因子は、フィラグリンと呼ばれるヒスチジンに富むタンパク質の分解によって産生される一連の水溶性化合物である。フィラグリンはケラチン線維の凝集によるケラチン束の形成を担っており、角質層の細胞の剛性を維持している[11]。フィラグリンの分解によって、尿素、ピロリドンカルボン酸、グルタミン酸やその他のアミノ酸が生成される[12]。これらの分子をまとめて天然保湿因子と呼ぶ。天然保湿因子は空気中から水分を吸収し、角質層の表層が常に水和した状態となるよう保証している[13]。これらの分子は水溶性であるため、水との過剰な接触によって浸出し、その正常な機能が阻害される可能性がある。水との長期間の接触によって皮膚の乾燥が引き起こされるのは、このことが原因となっている[14]。細胞間の脂質層は各角質細胞の外側を密封し、天然保湿因子の喪失防止に役立っている[12]。 角質層は大部分が角質細胞から構成されるが、細胞外マトリックスには次のような支持構造が存在し、角質層の機能を補助している[15]。 層板顆粒は、有棘層上部のケラチノサイトのゴルジ体に由来する管状または卵型の分泌オルガネラである[16]。層板顆粒は産生部位から顆粒層上部へ移動し、その後角質層の細胞間領域で主に脂質からなる内容物を押し出す。この脂質は最終的には角質細胞を取り囲む脂質二重層を形成し、また角質層の透過性バリアの恒常性にも寄与する[12]。恒常性機能は表皮内のカルシウム勾配によって調節されている[17]。通常、角質層のカルシウム濃度は非常に低いが、顆粒層では高い。透過性バリアが破綻して角質層への水の流入が生じると、角質層ではカルシウム濃度が上昇し、顆粒層では低下する。こうした変動によって層板顆粒のエキソサイトーシスやグリコシルセラミド、コレステロール、リン脂質の分泌が誘導され、角質層の透過性バリア機能は回復する[8]。
機能
天然保湿因子
細胞外構造
層板顆粒
細胞間脂質
角化肥厚膜
コルネオデスモソーム
層板顆粒