観光
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観光(かんこう、: sightseeingあるいはleisure travel、: tourisme、: Fremdenverkehr)は、一般的には楽しみを目的とする旅行全般[1](観光旅行)を指し、狭義には他の国や地方を訪ね、風景史跡・風物などを見聞したり体験することを指す(この意味に限定する際は「観光行動」という)[2][3]。広義には、人々による観光行動および、関連する事象を含めた社会現象を指す場合もある(この意味に限定する際は「観光現象」という)[3][1]
概説
概念の変遷、用語(狭義・広義)パリエッフェル塔を訪れる人々(2007年)

観光の定義は時代とともに変遷し、識者の間でも見解が異なっている[4][5]

もともとは「日常の生活では見ることのできない風景風俗習慣などを見て回る旅行」を意味したが、旅行が安全性になり快適になるにつれて「楽しみのための旅」全般を指す言葉として広く使用されるようになっている[1]

現在、ごく一般的な意味の「観光」(つまり「(人々による)観光行動」を指す言葉としての「観光」)は、「人々が気晴らしや休息ならびに見聞を広めるために(※)、日常生活では体験不可能な文化や自然に接する余暇行動である」と規定することができる[1]。(※)「?のために」は目的を示している表現であり、一般的な定義文としてはこれが妥当、無難ではある。ただし補足説明をしておくと、観光のなかには、一部ではあるが、ダークツーリズムのように「悲しみ」の感情に焦点をあて動機になっているような、つまり単純な娯楽が目的ではない場合もある[6]。また、昔は単に「見るだけ」「聞くだけ」というタイプの観光が多かったが、ここ数十年ではニューツーリズムという用語・概念が用いられるようになっており、(ただ何かを「見る」「聞く」だけの旅ではなく)体験を重視した旅などが模索されている[7][8]。つまり自分の身体を動かして実際に何かを行うような観光も広まってきている。

また「観光」という用語は広義には(まれには)、「人々の観光行動」によって生起する社会現象[1]も指す。つまり人々による「観光行動」に加えてそれに関連する諸事象を含めて社会現象としての「観光現象」まで指すこともある[3]。(このような特殊な意味だとはっきりさせる場合は、最初から「観光現象」という。)

日本国政府諮問機関による公式な定義は、#日本の観光政策を参照のこと。
サイトシーイングとツーリズム

関連性が高い英語としては、サイトシーイング(: sightseeing)とツーリズム(: tourism)があるが、後述するとおり日本語の「観光」とは語源が異なるため完全には対応しない[1]
サイトシーイング

サイトシーイングは「現地の名所を訪れる活動[9]」などと定義される。日本での観光概念と親和性が高いとされるが[3]、ごく狭義のものを指しているにすぎず[10][11]、単なる物見遊山にとどまらなくなった今日の観光形態[7]を網羅しているとは言い難い。
ツーリズム

英語のツーリズム(: tourism)は「関心を持たれる場所を訪れるための商業的な組織や運営[12]」などと定義される。英語tourは、轆轤を意味するラテン語のターナス(: tornus)を語源としており、各地を旅行して回ること(巡回旅行)を指す用語として生まれた語であることからも、内容や目的ではなく旅行の態様を重視する側面があり、商業主義の彩色が強いとされる[1][10][13]。したがって英語のtourismは日本語の「観光」とは別概念なので、日本語の「観光」を英語に翻訳する場合はtoursimを用いず、leisure travelなどと訳すことが多い。

一方、フランス語の: tourisme(カタカナ表記はトゥリスム[14]やツーリスム[15]など)の定義は「楽しみのために旅をしたり場所を訪れること[16]」とされ、日本での観光の概念に近いといえる。

(日本語には英語もフランス語も流入し、どちら起源の言葉も外来語として使われているので、外来語の「ツーリスム」が本当は英語由来の意味で使っているのか、フランス語由来の意味で使っているのか、人によって異なり、混乱している。また英語圏でフランス語を借用することも行われるので、そうした深い次元でも意味が錯綜する。)

ツーリズムを観光の上位概念とする解説もあり[4]、目的地での永住や営利を目的としない日常生活圏を一時的に離れる旅行全般及びそれに関連する事象とするものや[17]、通勤・通学以外のすべての旅行がツーリズムであるとするものもある[10]。(フランス語の定義に近いことをいっている)

ツーリズムの定義については日本国外でも意見が分かれており、ビジネス目的も含む旅行全般を指すとするものと[注釈 1]レクリエーション[注釈 2]の一形態であるとするものに大別される[10]

国連専門機関である世界観光機関(UNWTO)などの国際機関は、ツーリスト(: tourist)を「個人が普段生活している環境、訪問地における雇用を除く、一年未満のビジネス、レジャー及びその他のあらゆる目的で訪問地を一泊以上滞在した者[18]」などと定義している[13][19]
歴史第8代ハミルトン公爵グランドツアー旅行」も参照

古代において、苦痛で危険なものであった旅は、必要に迫られて行うものが大部分で、楽しみや好奇心を満たすためだけの旅は殆ど行われていなかったと考えられる。しかしながら、エジプトのジェセル王のピラミッド付近の小神殿からは紀元前1244年に相当する日付とともに書紀の兄弟が観光旅行をしていたことを記した落書きが発見されているなど、観光を主たる目的とする旅が既にこの頃から存在していたことが伺われる[20]古代ギリシャローマにおいても、古代オリンピックの観戦、神々を祀る神殿への参詣や名所旧跡を訪ねる旅が行われていたが、それらの担い手は裕福な特権階級に限られていた[21]

古来から行われていた観光の形態の一つとしては聖地への巡礼の旅が挙げられる[20]。例えば、スペインでは世界各国からサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者を1000年以上にわたって受け入れてきた歴史がある[21][22]

近世に入ると、ヨーロッパ各地を周遊する教育の旅(グランドツアー)を師弟にさせることがイギリスの貴族・ジェントリ層で流行した。当時は治安が悪く道中には海賊強盗が跋扈していたうえに、国際紛争が頻発しており、現地の売春賭博で身を持ち崩す者も多数いたが、旅によって得られる経験とその後のキャリアは危険を補って余りあるものであった[21][23][24]。また産業革命による経済成長に合わせて温泉地や海浜での夏季滞在も行われるようになり、格別の用務のない自発的な旅行が上流社会で定着していった。


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