覚醒剤
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メタンフェタミン

覚醒剤(かくせいざい、覚醒アミンとも[1][2])とは、薬用植物マオウに含まれるアルカロイドの成分を利用して精製した医薬品であり、アンフェタミン類の精神刺激薬である[3][1][2][4][5][6][7]脳神経系に作用して心身の働きを一時的に活性化させる(ドーパミン作動性に作用する)。乱用により依存を誘発することや、覚醒剤精神病と呼ばれる中毒症状を起こすことがある。本項では主に、日本の覚醒剤取締法の定義にて説明する。ほかの定義として、広義には精神刺激薬を指したり、狭義には覚せい剤取締法で規制されているうちメタンフェタミンだけを指すこともある。俗にシャブなどと呼ばれる。医師の指導で使われる疾病治療薬として、商品名ヒロポンとして、住友ファーマで製造されている。

日本の覚醒剤取締法で管理される薬物には、フェニルアミノプロパンすなわちアンフェタミン、フェニルメチルアミノプロパンすなわちメタンフェタミン、およびその類やそれらを含有するものがある。反復的な使用によって薬物依存症となることがある。法律上、他の麻薬と別であり、所持、製造、摂取が厳しく規制されている。フェニル酢酸から合成する手法が一般的であるが、アミノ酸のフェニルアラニンを出発物質として合成することもできる。

覚醒剤を意味する氷の絵文字や対面で取引をするとの意味で「手押し」などの隠語がある[8]
定義
常用漢字の問題

覚醒の「醒」が「せい」と表記されるのは、2010年まで常用漢字ではなかったためである[9]。現在では法令を含め公用文においては「覚醒剤」と表記するのが原則であり、覚せい剤取締法は2020年(令和2年)4月1日をもって題名を覚醒剤取締法に改正された[10]
日本の法律

日本では、第二次世界大戦後に、アンフェタミンと特にメタンフェタミンの注射剤の乱用が問題となった。このため、1951年(昭和26年)6月30日に覚せい剤取締法が公布される。「日本の法律上の覚醒剤」が規定されている。

第二条 この法律で「覚醒剤」とは、次に掲げる物をいう。
一 フエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及び各その塩類
二 前号に掲げる物と同種の覚醒作用を有する物であつて政令で指定するもの
三 前二号に掲げる物のいずれかを含有する物 ? 
覚醒剤取締法

第二条で指定されている薬物は、「フェニルアミノプロパン」すなわちアンフェタミン、「フェニルメチルアミノプロパン」すなわちメタンフェタミン、またその塩類である。第三条に規定されるように、医療および研究上の使用は認められている。

日本の法律における規制対象としての、麻薬及び向精神薬取締法(麻薬取締法)における法律上の麻薬とは異なる。法律に関しては後述の法規制の項にも詳しく記載する。
訳語の問題

1957年の厚生省麻薬課の国連薬物犯罪事務所(UNODC)における報告では、「覚醒剤」(awakening drugs)として知られる「精神刺激薬」(stimulant)の乱用を規制する「アンフェタミン類取締法」(Amphetamines Control Law)と報告し[3][4]、UNODCの他の外国の研究者やユネスコでの厚生省麻薬課の報告では「覚醒剤取締法」(Awakening Drug Control Law)である[5][6]

1995年の法務省刑事局の『法律用語対訳集』では、覚せい剤取締法を、Stimulant Control Law[11] と訳している。

2009年の日本睡眠学会による『睡眠学』の「精神刺激薬」の項では、精神刺激薬は一般に覚醒剤とも称されると説明されている[12]

『心理学辞典』では、覚醒剤とは中枢神経系に覚醒作用を及ぼすアミンであり、アンフェタミン・メタンフェタミンなど眠気を抑え覚醒水準を高める薬物だとしている[2]。2011年の『現代精神医学事典』では、覚醒剤の英語をメタンフェタミン、アンフェタミンとし、覚醒剤取締法にて指定されている薬物の総称だとしている[7]

なお、世界保健機関の『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第10版(ICD-10)では、分類のstimulantに精神刺激薬の語を用い、アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版DSM-5においては、上位分類に精神刺激薬関連障害群(Stimulant?Related Disorders)である。
私的研究会の定義

覚醒剤研究会による覚醒剤の定義は、広義にはカフェインコカインも含む脳内を刺激する中枢神経刺激薬であり、狭義には覚せい剤取締法の規制対象のアンフェタミンやメタンフェタミンなどである[13]。しかし、アンフェタミンは日本ではあまり使用されていないため、日本における覚醒剤の歴史解説では便宜的に狭義の覚醒剤をメタンフェタミンに限定している[13]。ドイツ語の覚醒アミン (Weckamine) に由来する[13]。英語の Stimulant では、もっと広義であり興奮剤なども含むとしている[13]
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覚醒剤という名称は、元々は「除倦覚醒剤」などの名称で販売されていたものが略されたものである。この「除倦覚醒剤」という言葉は戦前戦中に、メタンフェタミン製剤であるヒロポンなどの医薬品の雑誌広告などに見受けられる。健康面への問題が認識され社会問題化し規制が敷かれる以前は、取締法において指定されている成分を含んだ薬品は、疲労倦怠の状態から回復させ眠気を覚ますための薬品として販売されていた。

闇市場で流通する覚醒剤では、アンフェタミン、メタンフェタミン、また粗悪なものではカフェインなどだけのものがある[14]
日本

覚醒剤の俗称は、日本ではシャブ[13]、スピード、スピードの頭文字であるS(エス)、アイス、白い粉(単に「粉(コナ)」ともいう)などがある。比較的大きい単一の結晶状のものはガンコロと呼ばれ、乱用者や密売人に特に好まれる。シャブの由来は、「アンプルの水溶液を振るとシャブシャブという音がしたから」という説や、英語で「削る、薄くそぐ」を意味する shave を由来とする説、「骨までシャブる」を由来とする説や、「静脈内に投与すると冷感を覚え、寒い、しゃぶい、となることから」という説もある。「人生をしゃぶられてしまうからである」と発言した裁判官もいる[15]

覚醒剤を小分けにするビニール製の小袋は「パケ(英語: package)」と呼ばれる。静脈注射で摂取する方法は「突き」と呼ばれ、使用される注射器は「ポンプ」「キー」などと呼ばれる。第二次覚醒剤乱用期までは「ガラポン」と呼ばれるガラス製注射器も多く使用されていたが、第三次覚醒剤乱用期ではインスリン注射用の使い捨てタイプを使用するのが主流となっている。覚醒剤をライターで炙って煙を吸引する摂取方法は「炙り」と呼ばれ、近年はこの摂取方法での乱用が増えている。乱用者はヒロポン中毒を意味する「ポン中」や「シャブ中」などと呼ばれている。
アジア

東アジアでは、syabu (shabu、シャブ)、speed(スピード)、ice(アイス)などの俗称がある。中国では「冰毒」(ビンドゥ)、北朝鮮では「?」(ピン)などとも呼ばれる。韓国では、日本の商品名「ヒロポン」(???(???))の名で知られる。

東南アジアマレーシアでは batu Kilat (バトゥ・キラット)、フィリピンでは batak (バタク)、タイでは yaaba (yama、ヤーバー、ヤーマ)などと呼ばれる。覚醒剤は、コカインよりも強い向精神作用が長時間続き末端価格も安いため、フィリピンなどでは「貧乏人のコカイン」という意味の poor man's cocaine との俗称もある。
欧米

メス、アイス、ティナ、ガラスなどと呼ばれる。バイク乗りたちが覚醒剤の隠し場所にバイクのクランクケースを利用したことが由来とされる crank(クランク)や、結晶が鉱物のクリスタルと似ていることから crystal(クリスタル)との俗称もある。乱用者はtweakers(tweekers、トゥイーカー)などと呼ばれる。

覚醒剤は粉末状では白色、結晶状では無色透明になるが、他の興奮・覚醒薬などを混ぜたことにより着色されたものも乱用されており、赤色は strawberry quick(ストロベリー・クイック)、ピンク色は pink panther(ピンクパンサー)などと呼ばれている。これらは、その色合いと名称から抵抗感が少なく、10代や20代の若い世代も遊び感覚で手を出しやすい。日本の乱用者は白色粉末や透明結晶状の高純度の覚醒剤を好むため、着色されたものが日本に密輸されることは少ないが、MDMAやカフェインなどと覚醒剤との混合錠剤(ヤーバーなど)の多くは着色されており、これらの日本への密輸は近年増加している。

不純物が取り除かれた高純度のものは nazi dope(ナチ・ドープ)と呼ばれる。これは、アンフェタミンがドイツ帝国の科学者によって開発され、第二次世界大戦時にナチス・ドイツの兵士が使用していたことに由来するもので、覚醒剤本来の形、非常に純粋で純度が高いという意味で使われる。

米国では、覚醒剤の原料になる鼻炎薬や風邪薬が薬局で手に入るため、自宅などで密造する乱用者が多いが、隣国メキシコの麻薬カルテルによって製造された覚醒剤も大量に密輸されており、これらはメキシカン・アイス (mexican ice) というブランド名で流通する。メキシコの麻薬カルテルは麻薬製造のために巨額の投資を行い、高度な技術と設備を有しているため、メキシコから密輸される覚醒剤は、個人や小規模の密造グループが製造するものよりも純度が高く乱用者の間で人気が高い。

原料になる鼻炎薬や風邪薬を買い集める犯罪者は smurfers (スマーファー)と呼ばれ、スマーファーが買い集めたこれらの薬は、papa smurf(パパスマーフ)と呼ばれる密造者の下に集められる。スマーファーは覚醒剤乱用者が多いため、報酬として覚醒剤を受け取るケースが多い。「パパスマーフ」との俗称は人気アニメ「スマーフ」が語源とされる。
薬理作用

アンフェタミン、メタンフェタミン(また同じく精神刺激薬であるコカイン、メチルフェニデート)は、血液脳関門を通り越して脳内報酬系としても知られる、腹側被蓋野から大脳皮質辺縁系に投射するドパミン作動性神経のシナプス前終末からのドパミン放出を促進しながら再取り込みを阻害することで、特に側座核内のA10神経付近にドパミンの過剰な充溢を起こし、当該部位のドパミン受容体に大量のドパミンが曝露することで覚醒作用や快感の気分を生じさせる。

メタンフェタミンの反復使用は、ドーパミントランスポーター(英語版)(DAT)[16]ドーパミンD1受容体を減少させる。ミノサイクリンの前投与と併用によって、DATの減少やD1受容体の減少を抑えることができる[17]

最近の研究では、非定型抗精神病薬との併用試験において、快の気分が生じなくても心拍数血圧の上昇が起こることがあり、薬物への依存性にほとんど変化がなかったとの結果が示された。これらの研究では、非定型抗精神病薬を併用した方が心拍数や血圧の上昇を増強しているようであり、依存の治療にはむしろ有害である可能性が示された[18][19]
副作用覚醒剤依存症患者(1950年代)

血圧上昇、散瞳など交感神経刺激症状が出現する。発汗が活発になり、喉が異常に渇く。内臓の働きは不活発になり多くは便秘状態となる。性的気分は容易に増幅されるが、反面、男性の場合は薬効が強く作用している間は勃起不全となる。常同行為が見られ、不自然な筋肉の緊張、キョロキョロと落ち着きのない動作を示すことが多い。さらに、主に過剰摂取によって死亡することもある。食欲は低下し、過覚醒により不眠となるが、これらは往々にして使用目的でもある。

中脳辺縁系のドパミン過活動は、統合失調症において推定されている幻聴の発生機序とほぼ同じであるため、覚醒剤使用により幻聴などの症状が生じることがある。まれであるが、長期連用の結果、覚醒剤後遺症として統合失調症と区別がつかないような、慢性の幻覚妄想状態や、意欲低下や引きこもりといった、統合失調症の陰性症状の様な症状を呈し、精神科病院への入院が必要となる場合もある。

アンフェタミン誘発性精神病は、統合失調症の精神障害のモデルであり、急性症状は区別がつかないが、アンフェタミンによるものは早く回復することで鑑別診断が可能である[20]。しかし、日本の研究者はこれに反して、精神病の軽快後の自発的な精神病の再発をフラッシュバックと呼んでいる[20]


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