ウエストナイルウイルス
ウエストナイルウイルスの電子顕微鏡像
分類
レルム:リボウィリア Riboviria
ウエストナイルウイルス(West Nile virus、WNV)とは、フラビウイルス科フラビウイルス属に属するRNAウイルスの一種である。ウエストナイル熱の病原体であり、主にイエカを媒介とする。西ナイルウイルス[1]、ウエストナイル熱ウイルス[2]と呼称されることもある。血清学的には、日本脳炎ウイルスと同じ血清型群に分類される[2][3]。
構造ウエストナイルウイルスのNS2B-NS3プロテアーゼのリボン図
他のフラビウイルスと同様に、ウエストナイルウイルスは正二十面体対称のエンベロープを持つウイルスである[4]。低温電子顕微鏡法と三次元再構成により、フラビウイルス属の1種であるデングウイルス同様、表面が比較的滑らかなタンパク質の殻によって覆われた、45 - 50 nm程の大きさのビリオンであることが判明している[4]。このタンパク質の殻は糖タンパク質であるEと、小さい膜タンパク質であるMという2種類のタンパク質から構成されている[5]。このうちEには、受容体の結合やウイルスの付着、膜の融合による細胞への侵入などといった役割がある[5]。
RNAゲノムは、105アミノ酸残基からなるカプシド(C)タンパク質と結合し、ヌクレオカプシドを形成する[6]。このカプシドタンパク質は、感染した細胞で最初に合成されるタンパク質であり[6]、ゲノムRNAをウイルスに詰め込むことを主な目的とした構造タンパク質である[7]。また、カプシドはPI3K/Akt経路を活性化させることで、アポトーシスを防ぐ働きを持つことも判明している[6]。
ヌクレオカプシドは、エンベロープとも呼ばれる宿主由来の膜で覆われている[6]。この膜には、デングウイルスの解析結果から、コレステロールとホスファチジルセリンの成分が含まれていることが判明しているものの[8][9]、その他の構成成分は現在も判明していない。この膜はシグナル伝達分子として働くため、ウイルス感染において重要な役割を果たしている[10]。特にコレステロールは、宿主の細胞に侵入する際に必要不可欠な役割を果たすことが判明している[11]。最外層の殻を構成しているタンパク質E、Mは、この膜に挿入されている[6]。
ゲノムウエストナイルウイルスのゲノム
ウエストナイルウイルスは、一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。ゲノムは約1万1000塩基の単一のオープンリーディングフレームから構成され、その5'末端と3'末端には隣接してノンコーディングステムループ構造が存在している[12]。それぞれ5'末端側が約100塩基長、3'末端側が約600塩基長である[13]。ゲノムのコーディング領域は、3種類の構造タンパク質をコードする遺伝子と、7種類の非構造タンパク質をコードする遺伝子で構成されている[12][13][14]。