複素環式化合物(ふくそかんしきかごうぶつ、(heterocyclic compound)は、環の中に少なくとも2種類の異なる元素を含む環式化合物である[1]。複素環化学(Heterocyclic chemistry)は、有機化学の1分野で、複素環式化合物の合成、特性、応用等を扱う[2]。
複素環式化合物の例としては、全ての核酸、薬品の大部分、バイオマス(セルロースや関連化合物)の大部分、多くの天然や合成染料がある。アメリカ食品医薬品局の認証する薬品の59%は窒素複素環を含んでいる[3]。 複素環式化合物が有機化合物であっても無機化合物であっても、ほとんどは少なくとも1つの炭素原子を含んでいる。炭素でも水素でもない原子は、通常、炭素骨格に対してヘテロ原子と呼ばれる。しかし、ボラジン等の炭素原子を含まない化合物も複素環式化合物と呼ばれる。IUPACは、複素環式化合物の命名に、ハンチュ-ウィドマン命名法の利用を勧告している。 複素環式化合物は、その電子構造を基に分類することができる。飽和複素環式化合物は、非環式誘導体のように振る舞う。そのため、ピペリジンとテトラヒドロフランは、立体構造に改変の加わったアミンやエーテルとして扱われる。そのため、複素環化学は、主に不飽和の誘導体を対象にし、研究や応用の多くは、ひずみのない五員環や六員環に関するものである。これには、ピリジン、チオフェン、ピロール、フラン等がある。別の大きな分類は、ベンゼン環に融合した複素環である。ピリジン、チオフェン、ピロール、フランが融合すると、各々キノリン、ベンゾチオフェン、インドール、ベンゾフランとなる。2つのベンゼン環が融合したものは3つ目の大きな分類で、各々アクリジン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、ジベンゾフランとなる。不飽和環は、共役系に参加するヘテロ原子によって分類することができる。 3つの原子からなる複素環は、環ひずみのため反応性が高い。1つのヘテロ原子を含むものは一般に安定である。2つのヘテロ原子を含むものは反応中間体として生成しやすい。 ヘテロ原子飽和不飽和 ヘテロ原子飽和不飽和 ヘテロ原子飽和不飽和 2つのヘテロ原子を含む五員環のうち、少なくとも1つが窒素原子のものは、総称してアゾールと呼ばれる。チアゾール、イソチアゾールは、環の中に硫黄原子と窒素原子を含む。ジチオランは2つの硫黄原子を含む。 ヘテロ原子飽和不飽和(部分不飽和) 3つのヘテロ原子を含む五員環も大きなグループである。例として、2つの硫黄原子と1つの窒素原子を含むジチアゾールがある。 ヘテロ原子飽和不飽和(部分不飽和)
分類
三員環
1つのヘテロ原子を含む三員環
窒素アジリジンアジリン
酸素オキシラン(エチレンオキシド、エポキシド)オキシレン
リンホスフィランホスフィレン
硫黄チイラン(エピスルフィド)チイレン
2つのヘテロ原子を含む三員環
酸素ジオキシラン
四員環
1つのヘテロ原子を含む四員環
窒素アゼチジンアゼト
酸素オキセタンオキセト
硫黄チエタンチエット
2つのヘテロ原子を含む四員環
窒素ジアゼチジン
酸素ジオキセタンジオキセト
硫黄ジチエタンジチエト
五員環
1つのヘテロ原子を含む五員環
アンチモンスチボラン
ヒ素アルソラン
ビスマスビスモランビスモール
ホウ素ボロランボロール
窒素ピロリジン ("アゾリジン"は使われない)ピロール ("アゾール"は使われない)
酸素テトラヒドロフランフラン
リンホスホランホスホール
セレンセレノランセレノフェン
ケイ素シラシクロペンタンシロール
硫黄テトラヒドロチオフェンチオフェン
テルルテルロフェン
スズスタノランスタノール
2つのヘテロ原子を含む五員環
窒素/窒素イミダゾリジン
ピラゾリジンイミダゾール(イミダゾリン)
ピラゾール(ピラゾリン)
窒素/酸素オキサゾリジン
イソキサゾリジン
イソキサゾール
窒素/硫黄チアゾリジン
イソチアゾリジンチアゾール(チアゾリン)
イソチアゾール
酸素/酸素ジオキソラン
硫黄/硫黄ジチオラン
3つ以上のヘテロ原子を含む五員環
3 × 窒素トリアゾール
2 × 窒素 / 1 × 酸素フラザン
オキサジアゾール
2 × 窒素 / 1 × 硫黄チアジアゾール
1 × 窒素 / 2 × 酸素ジオキサゾール
1 × 窒素 / 2 × 硫黄ジチアゾール