複写機
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PPC複写機(富士フイルムビジネスイノベーションのDocuCentre 505

複写機(ふくしゃき)は、原稿等を複写する装置である。一般には、コピー機とも呼ばれる。
概要ワットが発明した複写機(ジェームズ・ワット・アンド・カンパニー社製、1815年製造)

初めて事務機として幅広く使われた複写機は、ジェームズ・ワットによって1779年に発明されたものである。ワットは、インクが裏まで染み込みやすい薄い紙を使い、それに別の紙を重ねて圧力を掛けることによって、紙から別の紙に内容を転写する手法を考案した。ワットの複写機は商業的成功を収め、20世紀まで利用されていた[1][2]

現在使われている複写機の種類には、大きく分けてジアゾ複写機(ジアゾ式複写機)とPPC複写機(plain paper copier、普通紙複写機)がある。現在ではほとんどがPPC複写機であるが、ジアゾ複写機も設計図面用(特にA2判以上の大判用紙)に根強い需要がある。

現在使われているPPC複写機には拡大や縮小機能を持つものも多く、用紙も様々なサイズのものを用いることができる。乾式と湿式があり、乾式がよく使われる。また、カラーコピーも可能な複写機も多い。用紙は一般には普通紙(コピー用紙)が用いられるが、OHPシートなど特殊な素材にも印刷できる機種もある。大量の用紙をストックする用紙カセットと、一時的に特別な用紙を挿入するための手差しトレイを備えているものが一般的である。また、複写機という名称からも解るように、少数の複写を作成することを意図しており、簡易に複写を作成することが出来る反面、コスト面、速度面から大量印刷には向かない。通常、大量印刷にはオフセット印刷機が用いられる。オフセット印刷機と複写機の中間に位置する機械として簡易印刷機があり、孔版印刷を用いた理想科学工業リソグラフなどが学校・官公庁などで普及している。

2000年代に入り、ビジネス向け複写機は、ほとんどがデジタル式である。また、パーソナルコンピュータLANの普及に伴って複写機・プリンターファクシミリイメージスキャナなどの各種機能が統合されたデジタル複合機が使用されるようになった。これらの複合機には、LAN経由で操作が行えるものも多い。

日本では、メーカーとしてはリコーキヤノン富士フイルムビジネスイノベーションなどが高いシェアを持つ。販売は、メーカー系、独立系あわせて多くのOA機器販社が行っている。そのほかに、いくつかのメーカーがデジタル式の複合機を作っている。

数は少ないが、家庭用の複写機も発売されていた[注 1]。一般家庭においては、インクジェットプリンターにイメージスキャナを組み合わせた複合機やファクシミリを複写機として使用することが多い。イメージスキャナとプリンターを同一のパソコンに接続し、スキャナに付属のユーティリティソフトで複写機能を持たせることもある。
ジアゾ複写機

ドイツで開発され、1951年にコピア[注 2] が、世界初の小型事務用湿式ジアゾ複写機「M型」の販売を開始した。

湿式、乾式、熱式の3種類があり[3]、どの複写工程も、原稿と複写紙(感光紙)を密着させ、複写機内を通過させながら紫外線を照射する。この感光過程で、原稿の地肌部分に当たる複写紙上のジアゾ化合物を分解させる事により潜像を形成させる。次の現像工程で、ジアゾ化合物が残された「文字・線」部分で化学反応により色素が生じ、発色する。現像後の複写紙の発色には青色、黒色等があるが、青色が主流だったため、青焼と呼ばれた。また、ジアゾ複写機は青焼き複写機、青焼き機と呼ばれることがある[3]

複写機市場が確立した1960年代当時、米国を中心に世界的には「Thermofax」(3M)などの感熱複写機がもっとも普及していたが、日本では、「リコピー」(リコー)などのジアゾ複写機がシェアの大半を占めるという、独特の現象が見られた[4]

湿式は旧式の小型機に多く、液体の現像剤を塗布し発色させる。一方乾式は、業務用大型・高速・高価格なタイプで使われ、現像の工程でアンモニアガスを用いる(大判の紙を湿らせると、しわが生じ易いため)。現像後は紙が湿っているため乾かす必要があったが、それでも青写真よりは感光後の耐久性も高く、手間が掛からなかった。

後には現像液を必要としない感光紙を用いる熱式が普及し、さらに使いやすくなった。熱式では顕色剤を内包したマイクロカプセル紫外線で露光して露光部のジアゾニウム塩を分解する。その後、熱で現像することによりマイクロカプセル内の顕色剤が放出される事で未露光部が発色する。

ジアゾ複写機は透過光を使うため、原稿は透過性の高い用紙が望ましく、トレーシングペーパーや第二原紙と呼ばれる半透明の専用用紙が製図分野で使われた。

メリット

PPC複写機と異なり光学的プロセスを持たないため、原稿との相違(光学的な収差など)が極めて少ない。

機械の構造的にも単純であり大判(A0、A1)の複写も容易である。

ランニングコストが、PPC複写機よりかなり低かった。


デメリット

感光紙は、光線不透過(販売時に、袋詰めされている)の袋に入れて保管する必要がある。

現像後の複写紙も光線下では退色が激しいので、保管には注意を払わなければならない。

光透過性が低い本のような厚い物や、両面刷り原稿の複写はできない。

乾燥前、あるいは乾燥後も長時間感熱紙と接触させると、感熱紙を黒変させてしまうことがある。

原稿と感光紙を間違えると複写できないだけでなく、湿式では原稿を濡らしてしまうリスクを伴う。

巻込みにより原稿を破損させる恐れがある。


PPC複写機

PPC複写機(普通紙複写機)は、1938年アメリカチェスター・F・カールソンによって、後にゼログラフィと呼ばれる基本技術が発明された。その特許を米ハロイド社(現在のゼロックス)が買い取って製品の開発を進め、1959年に世界初の事務用PPC複写機が開発された。その後、リコー、キヤノンなどからも製品が開発され、現在に至っている。ジアゾ複写機のことを青焼き複写機と呼ぶのに対して、PPC複写機のことを白焼き複写機、白焼き機と呼ぶことがある[3]。PPC複写機の一種であるカラーコピー機は、1970年にアメリカのスリーエム社が初めて発売。1972年には日立製作所が国産初の製品を発売した[5]

メリット

薬品を塗布していない、普通の紙を利用できる。

複写物を長期保管しても劣化が少ない。

厚い物や、両面刷り原稿の複写もできる。

複写時の拡大、縮小ができる。

デジタル式の場合、大量コピーの時間が短い。


デメリット

光学的な収差が出る場合がある(図面関係の読み取りで問題になる場合が出る)。

A2以上の大判用紙への複写が可能な機種は、大型かつ高価(数百?数千万円)となり、一般には導入されていない。

PPC複写機は、大きく分けて作像部・用紙搬送部・スキャナ部に分けられる。
作像部
現像剤(デベロッパー)
感光体(後述)上の潜像を可視化するための材料。一般にはトナーとキャリアで構成される。トナーのみのものは1成分現像剤、キャリアと混成されたものを2成分現像剤と呼ぶ。用途に応じて湿式(液体)と乾式(粉体)とがあり、また1成分現像剤には磁性と非磁性とがある。
トナー
帯電性を持ったプラスチック粒子に炭素等の色粒子を付着させた微粒子。マイナスかプラスの電気性質を持つ。トナーのみで使用する場合と、キャリア(搬送体)と混合して使用する場合とがある。製造法により、粉砕法(材料を混練・粉砕して製造)と重合法(液体中の化学作用により生成)とに分類される。
キャリア
磁性体をエポキシ樹脂等でコーティングした微粒子でトナーと混合され使用される。トナーと撹拌する事でトナーに電荷を持たせ、静電効果を利用して感光体に付着させるための触媒及び搬送体。一般には感光体と同じ程度の寿命なのでセットで交換される事が多い。トナーの消費と同期して補充、回収され、現像剤の定期交換が必要ない方式が一般化している。
感光体(感光ドラム・感光フィルム)
半導体を用いており、暗中では絶縁体の性質を持ち、明るい場所では導体の性質を持つ為、暗中でプラスまたはマイナスに帯電させることで、トナーを付着させる電荷を持たせる事ができる。光が当たった部位は導体となり電荷を失う。感光体上で行なわれるプロセスを以下に示す。
一次帯電
前露光による残留電荷が除去されて電荷を持たない感光体に対して、プラスまたはマイナスの電荷を持たせる。 帯電器の方式としてまず、非接触型放電方式のコロトロン型およびスコロトロン型がある。また、最近は接触方式の帯電ローラや帯電ブラシを用いる製品も多い。
露光
電荷を持った感光体表面に原稿からの反射光、もしくはレーザー光を照射する事で静電潜像を作像する。レーザー露光方式ではトナーを乗せる部分へ光を当てる。反射光(従来形式のアナログ機)方式では、トナーを乗せたくない部分に光を当てる(一部機種では逆)。尚、レーザー露光方式の物でもトナーを乗せたくない部分に光を当てるものもある。デジタル機の露光方式として、レーザを用いるものや、LEDとグラスファイバアレイの集合体などがある。
現像
露光によって電荷が失われなかった部分へ、感光体とは逆の電荷を持ったトナーを乗せる方式と、電荷が失われた部分へトナーを押し込む方式がある。ここで、感光体上にはトナーによる原稿の鏡像が作られる。
転写
感光体上のトナーによる鏡像を転写紙へ移す。転写紙の裏側からトナーと逆の電荷(転写バイアス)をかけ、感光体へ転写紙を吸着させる。
分離
吸着した転写紙を引きはがすため、転写と逆の電荷を含ませた交流放電をかける「電位分離」と、転写紙を曲げて分離する「曲率分離」がある。このとき、転写対象物の電荷を逃がす分離除電針や分離帯電器も用いて、感光ドラムからの分離を補助する機構がある。
除電
感光体上に残った電荷をできる限り0にするため、感光体表面へ均一に光を当てたり(前露光)、交流放電をかける。


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