表面エネルギー
[Wikipedia|▼Menu]

表面張力,水面張力,水表面張力
surface tension
量記号γ
次元T-2 M
SI単位キログラム毎秒二乗 (kg/s^2)
CGS単位ダイン毎センチメートル(dyn/cm)
テンプレートを表示
表面張力によって球体になろうとする水滴表面張力によって水面の上で静止しているアメンボ

表面張力(ひょうめんちょうりょく、英語: surface tension)(水面張力,水表面張力)は、液体や固体が、表面をできるだけ小さくしようとする性質のことで、界面張力の一種である[1]。定量的には単位面積当たりの表面自由エネルギーを表し、単位はmJ/m2または、 dyn/cm 、mN/mを用いる。記号にはγ, σが用いられることが多い。

ここで[界面]とは、ある液体や固体の相が他の相と接している境界のことである。このうち、一方が液体や固体で、もう一方が気体の場合にその界面を表面という。

歴史的にはトマス・ヤングによる1805年の報告「An Essay on the Cohesion of Fluids」がその研究の始まりである[2]
定義マクスウェルの枠

表面張力の定義には、よく用いられる3つの説明がある[3]
マクスウェルの枠(コの字形の枠と可動する棒の間に張られた液体の膜)を考える。可動する棒には表面に平行に、膜を収縮させる向きに力が働く。単位長さあたりのこの収縮力を表面張力という。トマス・ヤングを始まりとする考え方。

同様にマクスウェルの枠の可動棒を動かし、表面を単位面積だけ増大させるときに必要となる仕事量。この考え方はA. デュプレ(英語版)(1869)が最初であるとされる。

熱力学においては自由エネルギーを用いて定義される。この考え方は19世紀末からW. D. ハーキンス(英語版)(1917)の間に出されたと考えられている。この場合表面張力は次式[4]で表される: γ = ( ∂ G ∂ A ) T , P e q . {\displaystyle \gamma =\left({\frac {\partial G}{\partial A}}\right)_{T,P\,eq.}} ここでGはギブスの自由エネルギー、Aは表面積、添え字は温度T、圧力P一定の熱平衡状態を表す。固体表面についての γ は、新しい表面を作り出すのに必要なエネルギーを表し、表面エネルギーとも呼ばれる[5]。ヘルムホルツの自由エネルギーFを用いても表される: γ = ( ∂ F ∂ A ) T , V e q . {\displaystyle \gamma =\left({\frac {\partial F}{\partial A}}\right)_{T,V\,eq.}} ここで添え字は温度T、体積V一定の熱平衡状態を表す。

井本はこれらの定義のうち、3.のみが適切であると論じている。
原因と理論的導出表面分子と内部分子

分子と分子の間には、分子間力と呼ばれる引力が作用している。液体中の分子は、あらゆる方向から他の分子からの分子間力の作用を受けて自由エネルギーが低い状態にある。一方、表面上にある分子は内部の分子からは作用を受けるが、気体の分子からはほとんど作用を受けない。すなわち、表面上にある分子は内部の分子と比べて大きな自由エネルギーを持つことになり、より不安定な状態にあると言える。その結果、表面をできるだけ小さくしようとする傾向が現れる。表面張力は、その界面が不安定であればあるほど大きくなるため、界面活性剤などの影響により変化する。

表面張力を理論的に求めようとする各種の式がある。

トマス・ヤングによれば表面張力はファンデルワールスの状態方程式における内部圧[注釈 1]と関係があるとされる[6]

S. SugdenはパラコールPという因子を導入し、次式で表面張力を計算できるとした[7]: γ 1 4 M D − d = P {\displaystyle \gamma ^{\frac {1}{4}}{\frac {M}{D-d}}=P} ここでDは液体密度、dは気体密度、Mは分子量である。ただしOH基をもち会合する物質は適用外である。

野瀬は分配関数Zと表面張力の関係を求めた[8]。ここでkTはボルツマン定数と温度の積、Aは表面積。 γ = − k T ( ∂ ln ⁡ Z ∂ A ) T , V e q . {\displaystyle \gamma =-kT\left({\frac {\partial \ln Z}{\partial A}}\right)_{T,V\,eq.}}

井本は1モル当たりの蒸発熱Qvから表面張力を計算できるとした[9]。 γ = 0.25 α ϵ n s {\displaystyle \gamma =0.25\alpha \epsilon n_{s}} ここでε = Qv/NA、NAはアボガドロ定数、nsは単位面積の表面に存在する分子数、αは化合物により0.25-0.6の値をとる補正係数(たとえば水などOH基を持つ物質ではα = 0.4)。

性質
温度依存性

表面張力は、温度が上がれば低くなる。これは温度が上がることで、分子の運動が活発となり、分子間の斥力となるからである。温度依存性についてはエトヴェシュの法則: γ V 2 / 3 = k ( T c − T ) , {\displaystyle \gamma V^{2/3}=k(T_{c}-T),}

または片山・グッゲンハイムによる式[10]: γ ( T ) = γ 0 ( 1 − T T c ) 11 9 {\displaystyle \gamma (T)=\gamma _{0}\left(1-{\frac {T}{T_{c}}}\right)^{\frac {11}{9}}}

が提案されている。ここで V はモル体積、k は定数、Tcは臨界温度であり、温度T = Tcにおいて表面張力は 0 となる。また表面張力の温度変化は、マクスウェルの関係式などを用いて変形することで、単位面積当たりのエントロピーSに等しいことが分かる[11]: ( ∂ γ ∂ T ) P e q . = ( ∂ S ∂ A ) P e q . {\displaystyle \left({\frac {\partial \gamma }{\partial T}}\right)_{P\,eq.}=\left({\frac {\partial S}{\partial A}}\right)_{P\,eq.}}
その他の要因による変化

表面張力は不純物によっても影響を受ける。界面活性剤などの表面を活性化させる物質によって、極端に表面張力を減らすことも可能である。

また、接している2つの相に電位差があると表面張力は変化する(電気毛管現象)。
具体例

液体の中では水銀は特に表面張力が高く、も多くの液体よりも高い部類に入る。固体では金属や金属酸化物は高い値を示すが、実際には空気中のガス分子が吸着しこの値は低下する。

各種物質の常温の表面張力物質相表面張力(単位 mN/m)備考
アセトン液体23.3020°C
ベンゼン液体28.9020°C
エタノール液体22.5520°C
n-ヘキサン液体18.4020°C
メタノール液体22.6020°C
n-ペンタン液体16.0020°C
水銀液体476.0020°C
液体72.7520°C
石英固体410 - 1030[12]
ガラス固体500 - 1200[12]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:39 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef