衣服
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この項目では、製品としての被服について説明しています。複数の製品を組み合わせた特定の装いについては「服飾」をご覧ください。
服の歴史を描いた絵。(上から)古代エジプト人、古代ギリシア人、ローマ人ビザンチン人フランク人、そして13世紀から15世紀の中世ヨーロッパ人。

被服(ひふく)とは、身体に着用するものである。人体保護装飾、社会的地位の表象等のために発展してきたもので、人間の文化の主要構成要素の一つである。最も典型的には、(布帛)を縫合して着用に適した形状に仕立てた繊維製品である。また物品の元の目的が着用にない場合でも、これを身につけることで被服と捉えられる場合がある。

被服と類似の用語として、衣服(いふく)、衣(ころも・きぬ)、服(ふく)、衣類(いるい)、衣料・衣料品(いりょうひん)、着物(きもの)等がある。被服と衣料・衣料品は同義で、身体を包む物の総称。衣服、服、衣類は、被服からかぶりものや履物装身具を除いた物。着物は古典的な意味は衣服と同義だが、現代では主に和服と同義。衣は主に上半身を包む物を指す。

また、服飾、服装、衣装(衣裳)などの語も存在する。これらの用語は意味範囲が重複するものであるが、繊維等製品の製造や機能面に関する学術研究や教育行政分野等では「被服」の語が用いられ(陸軍被服本廠被服学など)、衣服文化を取り扱う分野においては服飾の用語が用いられる傾向がある(服飾史等[要出典])。本項では便宜上、製品としての被服について扱う。
被服の目的ヘッドバンド帽子毛皮付きコートショールセーターなど用被服を着込んだ乳児

被服着用の目的は多様であるが、主には、体表付近の温湿度を調節する環境制御、身体や皮膚の保護・防御、身体の一部の秘匿や強調、装飾、また、性別・身分・職業等の表示がある。被服は単一の目的(機能)のために用いられることは稀で、大抵は複数の機能を同時に担っている。例えば制服礼服は、社会的機能を担うと同時に体温調整の機能も考慮されている。スポーツウェアは動きやすさ・体温調整・怪我防止の役割を同時に果たすように考慮されている一方で、日常使用を考慮したファッション性の高いものも存在している[1]。実用的な役割の衣類と社会的・シンボリックな役割の衣類に分類されることもあるが、それらが絡み合っている場合もあり、いつもすんなりと分けられるわけでもない。例えば白衣は、実用的には汚れ防止のために衣類の上に重ね着するものであるが、特定の印象づけを行うことで見る人の心理を操作するためにも用いられていることが知られている[注 1]医師らが着用する白衣のシンボリックな意味については「白衣授与式」「白衣高血圧」といった例が挙げられる。
体温調節と身体保護

体毛の乏しい人類にとって、被服は基本的に体温調節を補助する役割(衣服気候または被服気候、または衣服内気候という[3][4][5])を担っている。衣服は比較的簡便な体温調節機能の一つであり、気温が高くなれば衣服を脱いで体温を下げ、また気温が低くなれば衣服を着ることで体温を上げようとする。季節によって激しい気温差がある場合、には薄着になり、には厚着になる。夏服と冬服など、季節の推移に応じて衣服を替えることは衣替えと呼ばれる。

体温調節のなかでも防寒は被服の起源の一つとされるように[6] 非常に重要であり、寒い場所では身体が冷えすぎないように防寒着を着用する。保温を重視する場合、静止した空気の層を身体周辺に作り出すことが重要であるため、空気をよく含む生地の服を重ね着し、戸外に出る場合は通気性が低い素材の服をその上に重ねて外部の冷気を遮断し身体周辺の暖気を保護する[7]。同様の理由から皮膚の露出を減らし暖気を逃がさないよう、首回りやなどの開口部を狭くし、フードや手袋などで露出部を保護する[8]

人間は寒冷よりも暑熱に強く、気温が28から31℃程度の場合は衣服がなくとも快適に過ごせることが判明している[9]。このため、熱帯アフリカ南太平洋の諸島などの湿潤暑熱地域ではかつては一部に裸族も存在し、また伝統服では、腰布のみで上半身が裸体であり、全身を覆う衣服は儀礼用の存在にとどまった場合も多かった[10]。ただし直射日光や熱風などで身体に気温以上の熱の侵入がある場合はこれに該当しないため、砂漠地帯など乾燥暑熱地域の伝統服ではむしろ外部熱を遮断するべく全身を衣服で覆うのが一般的である[11]。また社会的規範や身体保護のためほとんどの地域では高温時にも何らかの衣服を着用することが必要である。高温に対処する場合、吸湿性と通気性のよい綿や麻を素材に用い、服の被覆面積を少なくして体温の放熱を促進することが多い[12]。ただし戸外に出る場合は直射日光を避けるためむしろ露出を減らす方が体温の上昇を防ぐことができる[13]下着類を中心としての吸収と発散を助けることも重要である。

衣服は体表を保護し、傷つけないための役割も担っている。また、様々な活動を補助する役割も持つため、それぞれの用途に特化した専門服や特殊服が存在する。作業着、防護服などは、怪我や汚れを防止する目的に特化した衣服であり、また身体を激しく動かす場合には、活動性の高い被服が用いられる。寝間着睡眠時使用に特化した衣服であり、体を締め付けないようなゆったりとしたデザインで肌触りがよく伸縮性・吸湿性に長けた生地が多く用いられる[14]
社会的地位の表象

衣服は多くの社会において社会的地位の表象手段として用いられており、年齢、身分、職業等に応じた被服によって、組織の一員であることを示したり、集団内の役割を表現したりする[15]。古代より衣服はステータスシンボルや地位を表すための一手段として用いられることがあった。ある種の衣服について地位の高いもの以外の着用を禁じることは多くの文明に見られたが、現代の民主社会においてはおおむねこうした制限は廃止されている。ただし、21世紀に入っても制服を定める企業や学校も多く、その所属や職業を示している[16]性別による衣服の区別もほとんどの社会で存在しており、異性装はかなり明確な批判の対象となってきたが、21世紀に入り服装の性差の撤廃を目指す動きも現れ始めている[17]

多くの宗教において聖職者は独特の衣装を身にまとう[16]。それとは別に、イスラム圏の女性の服装などのように宗教上の戒律によってまとう衣服に制限が加えられる場合がある[18]。イスラームの女性は「髪も男性に見せてはいけない」と考えられているので、頭を覆うヒジャブが必要となり、「顔以外の素肌は見せてはいけない」とされているため袖口も狭いものが選ばれる[要出典]。

特定の場面に応じた被服の選択が求められる場合もあり、冠婚葬祭など各種の儀式典礼においては礼服が着用され、ドレスコードが指定される場合も多い[19]。男性のビジネスシーンにおいては、19世紀以降スーツの着用が全世界で一般的となっている[20]。また衣服は着る人の思想信条、ライフスタイル、文化背景、経済力等を表現する手段ともなる。例えば高価で高級な衣服をまとうことで財力や地位を誇示することは広く見られる[21]
身体装飾

衣服を身体装飾として用いることは、防寒と同じく衣服使用の最初期から行われており[22]、重要な用途の1つである。衣類は基本的に身体(の一部)を隠したり、強調したりするためにも用いられる。被服によって自らの性的魅力を強調し対象を魅了することはしばしば見られるが、逆に局部を中心に身体を覆い隠すことによって慎みを表わすこともまた一般的である[23]。衣服に関する価値観は同一文化内においてしばしば共有され[24]、ある衣服のパターンが多くの人々に受け入れられた場合しばしば流行を引き起こす。こうしたファッションは短期間に変動を繰り返すが、中には完全に一つのスタイルとして定着するものもある[25]

一方で、衣服は着用者の美意識をそのままあらわすものであり、個性を示す手段ともなっている[26]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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