衛生管理者
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

船員法による「衛生管理者」とは異なります。

衛生管理者(えいせいかんりしゃ、: Health Supervisor)とは、労働安全衛生法において定められている、労働環境の衛生的改善と疾病の予防処置等を担当し、事業場の衛生全般の管理をする者、またはその資格(国家資格)である。一定規模以上の事業場については、衛生管理者免許等の資格を有する者からの選任が義務付けられている。
歴史

事業場の衛生管理においては医師だけで全ての業務を行うことは困難であり、指導員のような者が必要と考えられ、日本独自の制度として発足した。1947年制定の労働基準法、旧・労働安全衛生規則に規定された。

以降、伝染病の流行、職業性疾患への取り組み、特殊健康診断作業環境測定法の制定、女子労働基準規則の制定、喫煙対策、過重労働による健康障害防止などの時代背景をもとに、何度か規定が改定され、現在に至っている。

1966年:旧・労働安全衛生規則の改正が行われ、衛生工学衛生管理者が創設された。また、一定の事業場において、衛生管理者の少なくとも1人を専任とすべきとされ、現在でも踏襲されている。

1972年:労働安全衛生法、新・労働安全衛生規則、衛生管理者規程の制定により、法的な位置付けや職務が明確化された。免許試験制度の規定、受験資格の引上げなどが行われた。「医師である衛生管理者」について、新たに「産業医」として法定化した。

1988年:労働安全衛生法の一部改正が行われ、免許の業種別区分の新設などが行われた。また、職務に関する能力を向上するための教育、講習などの実施が盛り込まれた。

1989年:衛生管理者免許が第一種衛生管理者免許と第二種衛生管理者免許に分化された。衛生管理者免許を取得していた者は、第一種衛生管理者免許を受けたものとみなされた。

1997年:衛生工学衛生管理者免許を受けられる者の範囲の拡大、労働衛生コンサルタント等への講習科目の一部免除などが規定された。

選任要件

この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。


労働安全衛生法について、以下では条数のみ記す。

衛生管理者は以下のいずれかの資格を有する者の中から選任しなければならない(第12条、規則第10条)。
医師または歯科医師

第一種衛生管理者免許

第二種衛生管理者免許

衛生工学衛生管理者免許

労働衛生コンサルタント(試験の区分は、コンサルタントとしての活動分野を制限するものではない)

その他厚生労働大臣の定める者[1]

教育職員免許法第4条の規定に基づく保健体育の免許所持者、保健体育・保健の教科の教諭の免許又は養護教諭の免許をもって、学校教育法第1条に定める学校に常勤している者

学校教育法による大学高等専門学校において保健体育を担当する常勤の教授・准教授・講師

衛生管理者は原則としてその事業場に専属することとされる。ただし、2人以上の衛生管理者を選任する場合において、当該衛生管理者の中に労働衛生コンサルタントがいるときは、当該労働衛生コンサルタントのうちの1人については専属の者である必要はない(規則第7条1項2号、昭和61年6月6日基発第333号)。

事業者は、衛生管理者を選任すべき事由が発生した日から[2]14日以内に衛生管理者を選任しなければならず(規則第7条1項1号)、選任したときは、遅滞なく所定の様式により所轄労働基準監督署長に届出なければならない(規則第7条2項)。所轄労働基準監督署長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、事業者に対し、衛生管理者の増員または解任を命ずることができる(第12条2項)。

事業者は、衛生管理者を選任できないことについてやむをえない事由があり所轄都道府県労働局長の許可を得たときは、規則第7条1項各号の規定によらずして衛生管理者を選任することができるが(規則第8条)、許可の実績は年数件程度である[3]。都道府県労働局長は、必要であると認めるときは、地方労働審議会の議を経て、衛生管理者を選任することを要しない2以上の事業場で、同一の地域にあるものについて、共同して衛生管理者を選任すべきことを勧告することができる(規則第9条)。

なお派遣労働者等、「専属」には当たらない者であっても、「その者が職務を遂行しようとする事業場に専ら常駐し、一定期間継続して職務に当たることが明らかにされている」「衛生管理者として行わせる具体的業務及び必要な権限の付与並びに労働者の個人情報の保護に関する事項を契約において明記する」ことを要件に衛生管理者として選任することができる(平成18年3月31日基発第0331004号。ただし、下記「第二種衛生管理者免許保有者を選任出来ない職種」を除く)。
事業場要件

すべての業種において、常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任が義務付けられている(第12条、施行令第4条)。同様に、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場においては、安全衛生推進者もしくは衛生推進者の選任が必要である(第12条の2)。

常時使用する労働者数が50人以上200人以下の場合は、衛生管理者は1人以上選任しなければならない。200人を超え500人以下では衛生管理者は2人以上、以降、500人を超えると3人、1000人を超えると4人、2000人を超えると5人、3000人を超えると6人以上の衛生管理者を選任しなければならない(規則第7条1項4号)[4]

但し、労働安全衛生法は、船員法の適用を受ける船員については、適用除外となっているため(第115条)、船員のみを使用する事業場においては衛生管理者を置く義務はない(その代わりに船員法による「船舶衛生管理者」の資格が存在する)。なお、同条において、鉱山保安法第2条第2項及び第4項の規定による鉱山における保安に関しては労働安全衛生法が適用されないが、衛生に関する部分は鉱山における保安には含まれないため、衛生管理者の選任については当然に適用がある。

また、国家公務員の事業場(つまり、国の官公署)については、国家公務員法附則第16条において、労働安全衛生法の適用を除外しているため、衛生管理者を置く義務はない(ただし、地方公務員の事業場においては、地方公務員法に適用除外の規定がないため、衛生管理者を置かなければならないので注意)。
特別の事業場に関する要件

一種・二種・衛生工学衛生管理者の違い業種衛生工学第一種第二種
一定規模以上の有害業務事業場○△
[5]×
工業的職種の事業場○○×
上記以外の事業場○○○

農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業(物の加工業を含む)、電気・ガス・水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業、清掃業(いわゆる工業的職種)については、第二種衛生管理者免許保有者を選任できない(規則第7条1項3号)。

以下のいずれかの事業場については、複数の衛生管理者のうち少なくとも1人は衛生管理者の業務に専任する者を置かなければならない(規則第7条1項5号)。また有害業務事業場のうち太字文の業務を行う事業場については、複数の衛生管理者のうち少なくとも1人は衛生工学衛生管理者免許を持つ者の中から選任しなければならない(規則第7条1項6号)。

常時1000人を超える労働者を使用する事業場

常時500人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務に常時30人以上の労働者を従事させる事業場(一般に「有害業務事業場」という[6]) - 「厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務」とは、労働基準法施行規則第18条に掲げる各業務(下記の1~10)のことであり、これらの業務を行う事業場では時間外労働が1日2時間を超えてはならないとされている(労働基準法第36条6項1号)。次の1~8のそれぞれに掲げる作業を主たる作業とする業務及び9に掲げる業務は、通常労働基準法施行規則第18条に規定する業務に該当する。ただし、当該有害要因の発散源が密閉されている場合又は当該業務を遠隔操作によつて隔離室において行なう場合等であつて、有害要因の影響を受けない業務は、この限りでない(昭和43年7月24日基発472号)。

多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務

鉱物又は金属を精錬する平炉、転炉、電気炉、溶鉱炉等について、原料を装入し、鉱さい若しくは溶融金属を取り出し、又は炉の状況を監視する作業

鉱物、ガラス又は金属を溶解するキューポラるつぼ電気炉等について、原料を装入し、溶融物を取り出し、若しくは撹拌し、又は炉の状況を監視する作業

鉱物、ガラス又は金属を加熱する焼鈍炉、均熱炉、焼入炉、加熱炉等について、被加熱物を装入し、取り出し、又は炉の状況を監視する作業

陶磁器レンガ等を焼成する窯について、被焼成物を取り出し、又は炉の状況を監視する作業

鉱物の焙焼、焼結等を行なう装置について、原料を装入し、処理物を取り出し、又は反応状況を監視する作業

加熱された金属について、これを運搬し、又は圧延、鍛造、焼入、伸線等の加工を行なう作業

溶融金属を運搬し、又は鋳込みする作業

溶融ガラスからガラス製品を成型する作業

ゴムを加硫缶により加熱加硫する作業

熱源を用いる乾燥室について、被乾燥物を装入し、又は乾燥物を取り出す作業


多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務

多量の液体空気、ドライアイス等を取扱う場合にこれらのものが皮膚にふれ、又はふれるおそれのある作業

冷蔵倉庫業、製氷業、冷凍食品製造業における冷蔵庫、製氷庫、貯氷庫、冷蔵庫等の内部に出入して行なう作業


ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務

電離放射線障害防止規則第3条に規定する管理区域内において行なう同規則第2条3項各号に掲げる作業


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:96 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef