衛星攻撃兵器
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衛星攻撃兵器のイメージ

衛星攻撃兵器(えいせいこうげきへいき、英語: anti-satellite weapon, ASAT[1])は、地球周回軌道上の人工衛星を攻撃する兵器である。対衛星兵器と呼ぶこともある。
概要

1950年代に初期の写真偵察衛星が実用化されるとすぐに、敵の軍事衛星を攻撃する衛星攻撃兵器の開発が始まっている。人工衛星は打ち上げロケットペイロードの制約があるうえ精密機械であり衝突・衝撃への耐性は乏しく、軌道は詳細にコントロールされており攻撃の回避も困難である。そこでアメリカ合衆国では地上から打ち上げたミサイル人工衛星に直接体当たりさせる直接上昇方式(direct ascent)の兵器が主に開発された。一方、ソビエト連邦では、地上から打ち上げたロケットで誘導体を目標となる人工衛星と同じ軌道に遷移させ、接近させて自爆し、破片によって目標を破壊する共通軌道方式(co-orbital)の兵器、いわゆるキラー衛星が研究された。

核弾頭による衛星破壊も考案されたが、1967年宇宙条約において、大気圏外における核兵器利用が制限されたため、核による衛星攻撃兵器は進められなかった。

衛星攻撃兵器の目標は敵側の人工衛星である。人工衛星の役割は偵察のほか通信衛星など多岐にわたっており、衛星誘導装置やグローバル・ポジショニング・システム(GPS)などもある。冷戦期においては、特に偵察衛星が主攻撃目標とされていた。
衛星破壊実験とスペースデブリ発生問題

衛星攻撃兵器の開発と実験は後述するように、アメリカ合衆国のほか、ソビエト連邦の宇宙開発を継承したロシア連邦中華人民共和国インドが行なっている[1]。実験で標的とされた人工衛星や攻撃用ミサイル・衛星が破壊されると多数のスペースデブリが発生して他の人工衛星や有人宇宙船宇宙ステーションを脅かすという問題があり、2021年のロシアによる実験では約1600個のデブリが発生し、中国による2007年の実験では2022年時点でも約2800個のデブリが軌道上に残っている[1]。このためアメリカ合衆国は2022年4月18日にASAT実験を今後行なわないと発表し[2]日本国政府も同年9月12日に国際連合の作業部会で同様の方針を表明した[1]

スペースデブリの危険性は、軍事目的以外を含む人工衛星や宇宙ロケットが相次ぎ打ち上げられた20世紀後半に認識され、衛星破壊実験は長らく行われておらず、2007年の中国による実験は国際宇宙ステーション(ISS)などの有人宇宙開発の新たな懸念となる可能性があるとして欧米諸国を中心とする各国から抗議がなされた。これに対して2008年2月、中国とロシアは共同でジュネーブ軍縮会議に「宇宙空間における兵器配置、宇宙空間の物体に対する武力行使または武力行使の威嚇を防止する条約」草案を提出し、衛星攻撃兵器の実験を自粛する方向に転じた[3]

なお、中国は2001年に、ジュネーブ軍縮会議にて、宇宙の軍事化防止を進める提案を行っている[4]。この提案の禁止対象にはASATも含まれているが、アメリカの反対にあったためこれを口実としてASATの開発を始めた。

2011年4月5日、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、2007年に破壊した風雲一号C型の破片と見られるスペースデブリがISSとの距離6.07kmまで接近したことを発表した[5][6][7]。万が一の場合に備えISSに滞在中の宇宙飛行士に、ロシアのソユーズ宇宙船への退避を検討するよう命令が下ったが、軌道の再計算の結果、ISS至近を通過するものの退避が必要ないことが分かり警報は解除された。2007年4月6日 Orbcomm FM 36衛星が、2007年6月22日にNASAの地球観測衛星Terra(テラ)が衝突を避けるためにデブリ回避マヌーバを実施した[8]

2010年10月のNASAの報告によれば、衛星破壊実験から3年半が経過した時点でも97%の破片は軌道上に残ったままであり、2010年9月の時点でこの破壊実験で生じたデブリは3,037個が確認されている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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