この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。
この記事には民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による変更点(2020年(令和2年)4月1日施行予定)が含まれています
行為能力(こういのうりょく)とは、契約などの法律行為を単独で確定的に有効に行うことができる能力[1][2]。
行為能力を制限された者のことを「制限行為能力者」という。具体的には、未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法第17条第1項の審判(同意権付与の審判)を受けた被補助人[注釈 1]を指す(民法20条
第1項参照)。私法上の法律関係は、権利義務の主体が、その意思に基づいてのみ発生・変更させるという原則(私的自治の原則)を基本として構成される。したがって、法律関係が有効に成立するには、法律行為をなすときに、各人が権利義務の主体となるに足る意思を持ちうること、すなわち意思能力が必要とされる。
もしも法律行為のときに、この意思能力を欠いていた場合には、その法律行為は無効となる[注釈 2]。そして、法律行為のときに意思能力を欠いていたことを理由として法律行為の無効を主張するには、その法律行為がなされた時点において、自らに意思能力が無かったことを証明しなければならない。しかし、これは容易ではないため、意思能力という実質的な基準だけでは、判断能力が不十分な社会的弱者の保護を図ることができないおそれがある。また、意思能力がなかったことが証明された場合には、当該法律行為は無効となるので、相手方に不測の損害を与えるおそれもある。
そこで民法は、意思能力の有無が法律行為ごとに個別的に判断されることから生じる不都合を回避し、判断能力が不十分と考えられる者を保護するため、あらかじめ年齢や審判の有無という形式的基準により行為能力の有無を定めた。この行為能力が制限された者を制限行為能力者といい、個別の事情により未成年者、成年被後見人、被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人に類型化される(20条
)。各類型の制限行為能力者は、それぞれ一定の法律行為につき、単に制限行為能力者であることを理由として、法律行為を取り消すことができるものとした。これにより、判断能力の不十分な者を意思能力の証明の問題から解放して保護を図り、併せて、制限行為能力者の取引の相手方に注意を促して、不測の損害を被ることのないようにした。自然人であれば当然に行為能力が認められるのが近代法の原則であることから、行為能力の論点は結局「どのような者の行為能力を制限すべきか」という点に行き着く。なお法人の行為能力については法人#法人の能力を参照のこと。婚姻や養子縁組、遺言など、身分行為には制限行為能力制度の適用はない。身分行為を行う能力については個別に要件が定められている(未成年者の婚姻について定めた民法731条、民法737条等)。
人(権利能力者)自然人行為能力者 1896年(明治29年)施行の民法(いわゆる「明治民法」)では、無能力者(行為能力が制限される者)として、以下の4種類を規定していた。 このうち、未成年者は明治民法の時点ですでに現行法とほぼ同趣旨の規定が置かれていた。禁治産者は現行法の成年被後見人、準禁治産者は被保佐人にそれぞれ相当するとされ[注釈 3]、後述の成年後見制度の開始まで制度が続けられた。妻については第14条で以下のように規定していた。 第14条 おおむね準禁治産者に近い行為能力の制限が定められ、また営業に関しては未成年者に類似した規定(夫の許可を要する旨の第6条及び許可を受けた旨の登記(妻登記)を定めた商法第5条)が設けられた。 一部歴史学者は妻の行為無能力を独法系の明治民法特有の特徴として挙げる[3]が、起草者説明によると、明治23年旧民法を継承したもので(人事編第68条、第一草案第104条)、妻の行為能力原則肯定・例外否定の英・独法系を退け、原則否定・例外肯定の仏法系(正確にはイタリア民法[4])を採用したものと説明[5]されている。また夫の同意無き行為が不可能なわけではなく、取消事由になるに留まる(同2項、16条)[6]。つまり実際上大きな支障が無いばかりか、不都合な契約がなされた場合に同意の不存在を理由に取り消しうるという意味で、現代的な男女平等理念にこそ反するものの、消費者保護の観点からはむしろ妻に有利な規定であった[7]。
制限行為能力者未成年者
成年被後見人
被保佐人
被補助人
法人
沿革
明治民法~戦後の民法改正
未成年者
禁治産者
準禁治産者
妻
妻カ左ニ掲ケタル行為ヲ為スニハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第十二条第一項一号乃至第六号ニ掲ゲタル行為ヲ為スコト[注釈 4]
贈与若クハ遺贈ヲ受諾シ又ハ之ヲ拒絶スルコト
身体ニ羈絆ヲ受クヘキ契約ヲ為スコト
前項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得