衆議院解散
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衆議院解散(しゅうぎいんかいさん)とは、大日本帝国憲法下の帝国議会および日本国憲法下の国会において、衆議院解散すること。解散によりすべての衆議院議員は、任期満了前に議員としての地位を失う。解散に伴う衆議院議員総選挙を総称して解散総選挙と呼ぶ。
日本国憲法下の衆議院解散
概要

日本国憲法において衆議院の解散は、内閣の助言と承認により、天皇が行う国事行為の一つと定められている(日本国憲法第7条3号[注 1]

衆議院が解散されたときは、解散の日から40日以内に衆議院議員総選挙を行い、その選挙の日から30日以内に国会特別国会)を召集しなければならない(同第54条第1項公職選挙法第31条3項)。そして、日本国憲法は衆議院議員総選挙後に初めて国会の召集があったときには当然に内閣は総辞職するものとしている(日本国憲法第70条)。「現在の内閣総理大臣を指名した衆議院が解散により存在しなくなり、衆議院議員総選挙によって新たに衆議院が構成されることになった以上、たとえ同一の者が内閣総理大臣に指名されるとしても、内閣は新たにその信任の基礎を得るべきである」との趣旨である[2]。内閣総辞職を受けて国会は新たに内閣総理大臣を指名し(内閣総理大臣指名選挙)、その指名に基づき天皇は内閣総理大臣を任命する(同第6条第1項)。そして、新たに任命された内閣総理大臣は旧内閣(職務執行内閣)から職務を引き継ぎ(同第71条)、国務大臣を任命する組閣を行うことになる(同第68条第1項)。

なお、憲法解釈上は解散権はあくまでも内閣に存するが、事実上、内閣総理大臣の専権事項となる(後述の「解散権の行使」を参照)。そのため、「首相の大権」或いは「伝家の宝刀」とも呼ばれる[3]
解散権の帰属
解散権の帰属を巡る議論

日本国憲法において直接的に衆議院解散について規定した条文としては第7条第69条がある[4](憲法上は憲法第69条によって内閣不信任決議案が可決あるいは内閣信任決議案が否決された場合も含め、すべて衆議院解散は憲法第7条により天皇の国事行為として詔書をもって行われる[5][6][注 2])。

このうち日本国憲法第7条第3号は衆議院の解散を天皇国事行為として定める。ただ、天皇は国政に関する権能を有しないとされており(日本国憲法第4条第1項)、憲法第7条第3号の天皇の権能は衆議院解散を形式的に外部へ公示する形式的宣示権ということになる[7]。また、日本国憲法第69条は衆議院で内閣不信任決議が可決あるいは内閣信任決議が否決された場合の内閣の進退を定めた規定で[7]、その条文の文言も「内閣は……衆議院を解散しない限り」とはなっておらず「内閣は……衆議院が解散されない限り」となっており衆議院解散の実質的決定権について定めているわけではない(この点は衆議院解散は憲法第69条の場合に限定されるとみる後述の69条説に対する批判としても挙げられている)[7][8]

そこで、いずれの国家機関が衆議院解散に関する実質的決定権を持つかが問題となるが、憲法学者・先例ともに内閣に衆議院解散の実質的決定権があることについてはほぼ見解が固まっている(内閣説)。一方、内閣の意思によらない衆議院による自主解散権(自律的解散)を認める見解(自律的解散説)も存在するが、従来より議院の多数派により少数派の議員の地位を失わせることを可能とするためには法律上明文の根拠が必要であるとして否定的な見解が多い。衆議院解散要求決議案が衆議院本会議で採決に至った例はあるが、可決されたことはなく、仮に可決されても、法的拘束力のない国会決議の一つにとどまるものとされる。今日の学説においては、衆議院における多数派が内閣との関係において、対立関係になく解散を望むのであれば内閣に解散を求めることで足り、対立関係にあり内閣が応じなければ不信任すればよく、憲法もこのような運用を予定しているとされ[9]、また、衆議院解散は憲法第69条の場合に限定されるとみる後述の69条説をとらない限りは実益のある議論ではないと考えられている[10]

以上のように、衆議院解散の実質的な権限を持つのは内閣とする見解にほぼ固まっている。日本国憲法第69条の解釈上、衆議院で内閣不信任決議案が可決されるか信任決議案が否決された場合に、内閣はそれに対抗する手段として衆議院解散が可能であることに争いはない(対抗的解散)。しかし、日本国憲法第69条に規定する場合以外にも衆議院解散が認められるか(裁量的解散)、また、裁量的解散が認められるとするならば解散権の根拠をどこに求めるかについて見解は分かれている。学説には衆議院解散は日本国憲法第69条の場合に限られるとする69条限定説(後述の69条説が属する)と、日本国憲法第69条に規定する場合以外にも衆議院解散は認められるとみる69条非限定説(解散権の法的根拠により後述の7条説、制度説、行政説に分かれる)がある。もっとも、69条説と行政説はほとんど支持されておらず、7条説と制度説が対立しているのが実情である。

実務上は、天皇の国事行為に責任を負う内閣(日本国憲法第3条参照)が実質的決定権を有するとされ7条説によっているとされる(1978年:昭和53年衆議院先例集27)[11]。判例では、苫米地事件における東京地方裁判所及び東京高等裁判所の判決が7条説をとったものとみられている(東京地判昭和26年10月19日判決、東京高判昭和29年9月22日判決)[12]。なお、憲法第7条による解散が憲法慣習となっているとみる学説もある[10]

解散権と学説学説概要根拠批判
69条説衆議院解散は日本国憲法第69条の場合(対抗的解散)に限られ、内閣による裁量的解散は認められないとする見解日本国憲法69条は衆議院による内閣不信任決議の効果について定めている。同条中の「衆議院が解散されない限り」という文言は、不信任決議に対する内閣の対抗手段としての解散のみを認めたものである。解散権の民主的機能の見地から内閣の解散権を制限すべきでない[13]。国政が国民の意思に従って行われることを原則とするのであれば国民の意思を問うことにつき限定すべき理由はない[7]。憲法69条は衆議院で内閣不信任決議が可決あるいは内閣信任決議が否決された場合の内閣の進退を定めた規定で、内閣を衆議院解散の実質的決定権の主体と定めた規定でもなければ解散を制限した規定でもない[7]
7条説日本国憲法第7条に規定する「内閣の助言と承認」を解散権の実質的決定権の根拠として内閣による裁量的解散も認める見解国事行為とされている事項のうち実質的決定権の帰属が憲法上明示されていないものについては、国事行為に対する内閣の「助言と承認」を根拠として内閣に実質的な権限があるとみるべきである。内閣の助言と承認は形式的な宣示行為に対するものである[7]
制度説日本国憲法は議院内閣制を採用していることを解散権の実質的決定権の根拠として内閣による裁量的解散も認める見解議院内閣制においては内閣に議会の解散権を認めるのが通例である。議院内閣制において内閣に解散権を認めるのが通例であるとしても、日本国憲法がそのような制度を採用しているか否かは、内閣の自由な解散権が根拠づけられたうえで言えることで論理が逆転しておりトートロジーである[7][14]。また、政府の解散権が制約されている制度も生じてきており、そもそも前提として議院内閣制は自由な解散権をもつものとの根拠を示す必要がある[14]
行政説
(65条説)日本国憲法第65条の「行政権」に解散権の実質的決定権を含むとみて内閣による裁量的解散も認める見解行政の定義を「国家の権能のうち、立法と司法を除いた残余の権能」とする考え方(控除説)を基に、衆議院解散権は立法でも司法でもないから行政に属し、日本国憲法第65条により内閣に帰属するとする控除説の前提とする国家作用は国民支配作用でありそもそも解散権は含まれていないはずである[15]


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