血清
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血清を準備するアメリカ海軍軍医

血清(けっせい、英語: serum)は、血液凝固した時、上澄みにできる淡黄色の液体成分のことである。血漿が凝固成分を含むのに対して、凝固成分をほとんど含まない、あるいは含んだとしても少量のものをさす。
概要

主成分はアルブミングロブリンで、特定の病気に罹患した時にその数値に変化が表れる。また感染症腫瘍内分泌甲状腺血液型などの検査に幅広く用いられる。分離の際に血小板の細胞組織や代謝物が残ることがあるため、場合によっては血清でなく血漿を検査に用いることもある。

血清中には脂質が含まれる。これらの脂質は人体にとって有益なものだが、度を越すと有害になる恐れがある。また、動物の血清を医療に利用するのを抗血清(血清療法)と呼ぶ。かつては馬の抗血清を用いた病気予防や治療が行われていたが、血清病と呼ばれる副作用が激しいため、現在は用いられなくなっている。
血漿と血清ビリルビンの増加により黄疸症状を呈している血清
両者の違い

血液は、血漿成分(血液中52?64%)と血球成分(血液中36?48%)に大別される。血球成分は赤血球白血球血小板から成る。

血漿成分は水分(90%)、タンパク質(約7?8%)、陽イオン陰イオンなどの無機質(0.9%)、糖質脂質尿素尿酸アミノ酸など(2%)で成り立っており全血液量の55%を占める。血漿中のタンパク質にはアルブミングロブリンαグロブリンβグロブリン、Φフィブリノーゲンγ?グロブリン)などがある[1]。血液を試験管に入れ放置しておくと、凝固した沈殿物(血餅)と液体(血清)に分かれる[2]。血餅は赤血球白血球血小板の血球成分とフィブリン(線維素)からなる。これをさらに遠心分離すると、血漿と、血餅を含む血球成分を完全に分離できる。

血漿は、抗凝固剤入り採血管で採血して放置[1]または遠心分離した場合に、血球成分の沈殿によりできる上澄みである。この血漿は凝固因子を含む。一方で、抗凝固剤の入らない採血管で採血して放置した場合、抗凝固剤が入らないため、血球成分が凝固因子により凝血する。その場合の上澄みが血清であり、血清は凝固因子を欠く。つまり、抗凝固剤を使った場合は血漿と血球成分とに分かれ、使わなかった場合は血餅と血清とに分かれる[1]

またアルブミンは腎臓病肝疾患で減少する[3]。他に血清ビリルビン溶血性貧血胆石肝臓がん肝炎などで胆汁の流出ができなくなった場合に、血液中に逆流して血清中で増える。ビリルビンは赤血球が壊れて胆汁に再生されたもので、この物質が血清中に増えると、2ミリグラム以上で黄疸の症状を呈する[4]
血清学的検査

血清を用いて行う検査は、血液を遠心分離して残った血漿や血清を検体とした血液生化学検査があり、内臓、特に肝臓や腎臓の機能の検査に用いられる[5]また、抗体の有無を調べるためにも用いられ、これを血清学的検査という。血清学的検査の対象となる検査は次のとおりである。
感染症検査(ウイルスマーカー)
HBs抗原HBs抗体(いずれもB型肝炎ウイルス)、HCV抗体C型肝炎ウイルス)、HIV抗体、ATLなど。
腫瘍マーカー検査
AFP肝細胞癌のマーカー)、CEACA19-9膵癌のマーカー)、PSAなど
内分泌・甲状腺検査
甲状腺ホルモン、FT3(遊離トリニヨードチロニン)、FT4(遊離チロキシン)など。
その他
梅毒検査、マイコプラズマ抗体検査寒冷凝集反応検査[注釈 1]

また血液型検査、RA反応(リウマチ)、CRP(C反応性タンパク質)、ASO(レンサ球菌感染)などの検査に血清が使われる。[6]
血漿推奨される場合冷凍保存された血漿

血清には凝固成分は少なくなるが、血小板の細胞成分や代謝物が増加するため、カリウム、無機リン酸乳酸アンモニアなどの値が高くなる。こういった成分が血小板などの細胞成分に含まれていて、凝固反応中の血清中へ流出するためである。従って、測定に血清を用いた時と、血漿を用いた時とでは、一部の検査項目で違いが出る。 酸性ホスファターゼ、ニューロン特異性エノラーゼドーパミンセロトニンなど、血小板に多く含まれている物質は血清では正確な値が出ないことがあるため、このような時には血漿が用いられる。また、以下のような点でも血漿を使うメリットがある。

凝血を待たずとも、遠心分離することで直ちに検体が得られる。(凝結は通常、室温で30分かかる)

血漿の方が血清より約15パーセントから20パーセント検体を多く採取することができる。

血清の場合は分離した後も凝固反応が続くケースがある。

血漿の方が、血清よりもより生体内の状態を把握しやすい。

溶血または血小板破損の度合いが血清より少ない。健常な人の場合、血漿の遊離ヘモグロビン濃度は血清の約10分の1で、それだけ血漿には溶血が少ないと言うことである。血漿では、血小板の破壊による異常な高カリウム値というのはまずありえない。一方、血清では偽高カリウム血症が認められることがある。
電気泳動による血清総タンパクの図、上は健康時、下は感染症の時のもので、アルブミン(オレンジ)の値が低く、グロブリン(濃いピンク)の値が高くなっている。

その一方で、血漿が血清よりも検査に不都合なこともある。

タンパク質の電気泳動分画像が変化し、フィブリノゲンのピークがγ-グロブリン領域に表れるため、M-タンパク血症の診断ができにくくなる。

血漿と血球成分を分けるための抗凝固剤により、正しい測定ができないことがある。抗凝固剤はキレート剤で、アルカリホスファターゼなどの酵素を不活性化させる可能性が生じるためである。従って、検査で用いる測定方法にEDTAクエン酸ヘパリンなどの抗凝固剤がどのような形で影響するのかを、前もって調査しておく必要がある。

血清総タンパクとアルブミン・グロブリン比

総タンパクの主成分は、60%を占めるアルブミン(ALB)と20%のグロブリンである。病原菌などの抗原が体内にある場合、それらを攻撃するグロブリンの値が高くなる一方で、アルブミンの値は下がるものの、総タンパク量はあまり変化しない。グロブリンが高値となるのは、慢性の炎症肝硬変悪性リンパ腫などの場合である。多発性骨髄腫脱水症状では特に値が高くなる[3]。血清タンパクは血漿の約8%を占める、何種類ものタンパク質成分を総合したものである。これらのタンパク成分は総タンパク(TP=Total Protein)と呼ばれる[7][信頼性要検証]。


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