血小板
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血小板(けっしょうばん、: platelet または thrombocyte)は、血液に含まれる細胞成分の一種である。血栓の形成に中心的な役割を果たし、血管壁が損傷した時に傷を治す役割がある。(血小板凝集)[1]
概要

血小板は、血液に含まれる細胞で、赤血球白血球と並ぶ第三の血球系である[2]骨髄中の巨核球(巨大核細胞)の細胞質から産生されるため、を持たない[1]。大きさは約2μmであり[3]、赤血球や白血球の細胞よりも小さい。正常状態の血中には15万?40万個/μL程度含まれている[4]。血小板は、何種類かの血液凝固因子を含んでおり、これらは血小板のα顆粒や濃染顆粒内に含まれている[5][6]。出血などで血管内皮細胞が傷害を受けると、血小板内の細胞骨格系が変化すると同時に、新たに細胞膜上に細胞接着因子の受容体(糖タンパク質のGPIbαやGPIIb/IIIaなど)が発現する。これを血小板の活性化と呼ぶ。これらの糖タンパク受容体やその他の接着因子などを介して血小板は血管内皮に接着し、血小板どうしが凝集し傷口を塞いで血栓を形成する。これを一次止血と呼ぶ[7]。その後、ここから各種凝固因子が放出されることによって、血液中にあるフィブリンが凝固し、さらに血小板や赤血球が捕らわれて、強固な止血栓が完成する。これを二次止血と呼ぶ[7]。体外で固まった血小板とフィブリンおよびそれに捕らわれた赤血球の塊が乾燥したものは「かさぶた」と呼ばれる[8]。(凝固・線溶系も参照)

形態は、非活性状態では円盤状の形態であるが[1]、出血などで血管内皮細胞が傷害を受けると活性化し、偽足(あるいは仮足)とよばれるアメーバ状の突起を伸ばして胞体を伸展させ、最終的には扁平状あるいは球状に変化する[9]。さらに内皮細胞への粘着後には、血小板内部の顆粒が細胞骨格の成分の一つであるアクチンフィラメントによって中央にたぐり寄せられ、目玉焼きのような形態となる[10]。(これは顆粒などの細胞小器官が中央部へと集まるからである[10]。)

血小板は、血管内皮細胞や血漿中に存在する凝固因子と協調し、止血を行う作用を担っているほか、血管内皮細胞を正常に維持するための物質を供給している[11]。血小板はそのほかにも、炎症反応、免疫反応、感染防御、動脈硬化、癌転移や発育などの生体反応に深くかかわっているとされる[3]。平均寿命は8?12日で、老化した血小板は主に脾臓で破壊され、一部は流血中でも破壊される[11]。血小板の約1/3が脾臓に分布している[12]
歴史

血小板が初めて文献に登場したのは1842年であり、アルフレッド・ドネ(英語版)とウィリアム・アディソン(英語版)がほぼ同時期に報告している[2]。1864年にはシャルル=フィリップ・ロバン(英語版)によって血小板のもととなる巨核球が初めて文献に記載され、1891年にウィリアム・ヘンリー・ハウエル(英語版)によって「巨核球」の名称が提案された[13]。1874年には、ウイリアム・オスラーによって血小板の形態と機能が初めて記載された[2]。それまでは、血小板は白血球または赤血球の前駆体と考えられていた[2]。1906年にはジェイムズ・ホーマー・ライト(英語版)が血小板は巨核球から生成されることを突き止め、このころから白血球、赤血球とは異なる第三の血球系の存在が認識された[2]。20世紀に入ると、血小板の構造、血小板膜の発見、アデノシン二リン酸の役割などが明らかにされた[2]。1962年には、グスタヴ・ヴィクター・ルドルフ・ボーン(英語版)が血小板凝集計とよばれる検査機器を考案し、病態解析はさらに進んだ[2]

血小板などの血球を産生を制御する因子は、1936年に小宮悦造によってその存在が指摘され、これを「poetin」と命名し[14]、「ロイコポエチン[15]」「エリスロポエチン[16]」そして血小板を産生する「トロンボポエチン[17]」との名称を提唱した[14]。現在ではこのトロンボポエチンは血小板産生制御因子として中心的な役割を果たしていることが分かっているが[18]、この時点では血小板産生制御因子として名称が付けられたのみで、具体的な内容をもったものではない[14][注 1]。1980年代には、血小板の産生制御因子としての役割ももつ顆粒球コロニー刺激因子や、赤血球の産生を促すサイトカインで血小板にもかかわるエリスロポエチンが同定された[13]。トロンボポエチンの単離・同定は長年にわたり成功せず[13]、1994年になってからようやく発見された[19]
構造血小板の赤道面断面像

血小板は、骨髄中の巨核球にある細胞突起[注 2]がちぎれて血管内に放出されることによって生まれるため、細胞質に核は存在しない[1]。しかし、ミトコンドリアゴルジ体、細胞骨格、グリコーゲンリソソームなどの細胞小器官および成分は存在する[20][5]。このほかに血小板固有の細胞小器官として、開放小管系、α顆粒、濃染顆粒、暗調小管系などが存在する[20]。細胞膜の厚さは約10nmで、他の細胞とほぼ変わらない[21]。容積は5?10fL[22]。周辺部は硝子様域とよばれ透明状になっており、中心部は顆粒質とよばれアズール色素に染まる[22]。そのため核がないのにもかかわらず、この顆粒質が核のように見えることもある[22]
特徴的な細胞小器官

以下は、血小板に特有の細胞小器官である。

活性化していない血小板の表面は円盤状であるが、必ずしも平滑ではなく、表面に開放小管系(OCS[23])と呼ばれる穴が開いている[20]。細胞膜の一部が陥入し、顆粒を放出するときの通路として機能する小管である[24]。血小板表面に複数存在し[20]、細胞質中に複雑に入り組んでいる[21]。血小板の細胞膜は通常の細胞と同じく脂質二重層構造であり、そこには糖タンパク質(GP)が埋没あるいは貫通している[21]。GPIIb/IIIa複合体(αIIbβ3インテグリン)やGPIb/V/IX複合体などと呼ばれる糖タンパク質は、血小板の粘着・凝集に関与する受容体としてはたらく[21]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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