蠅蛆症
ヒトの首の皮膚の蝿蛆症
概要
診療科感染症
蝿蛆症(ようそしょう[1]、英: myiasis, 独: Myiasis, 仏: myiase, 羅: myiasis)は、ハエの幼虫(蛆)が生きた哺乳類の体内に侵入したことによって発生する感染症(寄生虫性疾患)[2]である。つまり、何らかのハエの幼虫である蛆が寄生虫となった状態とも説明できる。蛆は宿主の生体組織を食べて成長する。ハエは開放創や尿、便に汚染された毛皮を好むが、一部の種(よく知られている蝿蛆症を引き起こす蝿、ヒツジバエ、クロバエ、ラセンウジバエなど)は傷のない皮膚であっても侵入することができ、蛆の媒介者として湿った土や蝿蛆症を引き起こさないハエ(イエバエなど)を利用することが知られている。ヒトに寄生したものを真性ハエ症(obligate myiasis)として区別することもある[3]。
蝿蛆症は、口語では「ハエウジ症、ハエ幼虫症(flystrike、blowflystrike)」などと呼ばれることがあり、患者またはその罹患組織は「うじがわいた(fly-blown)」と称される。このような状態を表す名称は古代ギリシャ語のμυ?α (myia、意味はハエ)に由来する。『南山堂医学大辞典』は「ハエ症」を主な見出し語に採用、「ハエ蛆症」を別名としている[3]。『ステッドマン医学大辞典』はmyiasisの訳語として「ハエウジ病・ハエ幼虫症」を挙げる[2]。『医科学大事典』は「ハエ幼虫症」を主な見出し語に採用、「ハエ症・ハエうじ症」を別名としている[4]。その他、「皮膚ハエ症」という用語を使用する文献もある[5]。
ヒト以外の動物(とくに家畜)はヒトほど上手く蝿蛆症の原因や症状に対処できないため、このような寄生は、畜産業において非常に重篤で長引く問題となる。すなわち、ヒトの行動によって緩和されない限り、重大な経済的損失をもたらす[6]。
典型的には動物においてより重大な問題となるものの、蝿蛆症を引き起こすハエが生息するような熱帯地域に住むヒトにとっても、蝿蛆症は比較的よくみられ、しばしば寄生した蛆を取り除くために外科的な処置を必要とする[7]。
蝿蛆症は様々な病態をとり、患者への作用もさまざまである。このような相違は、ハエの種類と蛆が寄生した部位によって生じる。一部のハエは開放創に産卵し、一部の蛆は健康な皮膚を侵襲する。鼻や耳を通じて体内に侵入することもある。さらに、唇の周囲に産卵された卵や、食べ物に付着した卵を飲み込むことが原因となる場合もある[7]。 蝿蛆症とその症状にはいくつかの種類がある。蝿蛆症の人体への影響は、蛆の寄生部位によって決まる。蛆は様々な部位の死んだ、壊死した、あるいは生きている組織を侵す。寄生部位には皮膚、目、耳、胃、腸管、あるいは泌尿器・生殖器などがある[8]。蛆は開放創や健康な(=破綻のない)皮膚にも侵入する。一部は鼻や目を介して体内へ侵入する。蛆あるいは卵は、食物とともに飲み込まれた場合、胃腸に到達して消化器蝿蛆症を引き起こす場合がある[7]。 症候群症状 院内で起こる蝿蛆症も報告されている。ハエが存在する場合、開放創や炎症を伴う患者ではきわめて頻繁にみられる。院内での蝿蛆症を防ぐために、入院患者のいる部屋にはハエが入り込まないようにすべきである。 創傷部位の蝿蛆症は、開放創にハエの幼虫が寄生した場合に生じる。熱帯地域での戦争による受傷に伴う重大な合併症であり、戦争がなくとも世界の大部分の地域で傷口が放置された場合にもみられる。ハイリスク群としては、認知症などの精神的な問題のほか、一人暮らし・路上生活・家族の無関心などの社会的・経済的状況が悪いこと[1]、高齢、寝たきり[9]、肥満、糖尿病[9]、悪い衛生状態[9]、免疫力低下[9]、血管塞栓性疾患などがある。その他、アタマジラミによる咬傷もリスクを高めるという報告がある[10]。 ヒトの眼で起こる蝿蛆症、すなわち眼蝿蛆症は、 Hypoderma tarandi(トナカイヒフバエ 家畜で最もよく感染がみられるのはヒツジであり、ヒツジのハエウジ症 このような問題はオーストラリアやニュージーランドに特有のものではない。特に家畜、とりわけヒツジが高温多湿な環境に置かれるアフリカの大部分や、アメリカを含む世界中(北半球の温帯地域から、対応する緯度の南の地域まで)で発生する。蝿蛆症はヒツジだけの病気というわけでもなく[13]、Cochliomyia属のハエ(特にラセンウジバエ)は家畜の牛やヤギで最大1億米ドルもの損害を生み出している[14]。 不妊虫放飼などの対策により、1972年以降は被害は軽減されてきている[15]。 ヒツジにおける生活環は典型的である。雌のハエはヒツジの体表で湿っていて卵が保護されやすく、尿や便で汚染された部分(主に臀部)に卵を産む。卵が孵化するまでには天候などによるが約8時間?1日かかる。ひとたび孵化すると、幼虫は口器により皮膚を傷つけ、開放創を作る。皮膚が破られると、幼虫は宿主の皮下組織 主に次の3種類の科に属するハエが、経済的に重要な家畜の蝿蛆症の原因となる。また、しばしばヒトにおいても問題となる。 日本にはこうした真正寄生を示すハエは生息していないが[16]、外国から帰国したのち蝿蛆症と診断された症例は存在する[17]。 その他の科の関与もしばしば認められる。たとえば 幼虫の発育に特異的な宿主が必要なハエである。
兆候と症状
皮膚蝿蛆症疼痛を伴い、徐々に進行する潰瘍あるいは「?」のような病変で、長期間にわたり腫れが続く。
鼻蝿蛆症鼻腔の閉塞、重度の痒み。一部の症例では顔面の浮腫、発熱。死亡例は少ない。
耳蝿蛆症這い回るような刺激と耳鳴り。嫌な匂いの滲出物がみられることがある。中耳に蛆が侵入した場合、脳へと移行する場合がある。
眼蝿蛆症一般的な病態であり、ひどい炎症、水腫、痛みを引き起こす。
院内感染
創傷部位
眼
疫学と経済的打撃
生活環
ヒトにおける媒介動物
クロバエ科(クロバエ)
ヒツジバエ科(ヒツジバエ)
ニクバエ科(ニクバエ)
カバエ科
チーズバエ科
ミズアブ科
ハナアブ科など。
品種特異的な蝿蛆症
Dermatobia hominis (ヒトヒフバエ)
Cordylobia anthropophaga
Oestrus ovis (ヒツジバエ)
Hypoderma spp. (ウシバエ属)
Gasterophilus spp. (ウマバエ属)
Cochliomyia hominivorax (新世界ラセンウジバエ)
Chrysomya bezziana (旧世界ラセンウジバエ)
Auchmeromyia senegalensis (コンゴの床バエ)