蠅蛆症
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蠅蛆症

ヒトの首の皮膚の蝿蛆症
概要
診療科感染症
分類および外部参照情報
ICD-10B87
ICD-9-CM134.0
DiseasesDB29588
MeSHD009198
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雌の鶏の臀部に発生した重度の蝿蛆症。画像右下に3-4cm大のぽっかりと開いた傷口があり、蝿の幼虫が肉を食べている。

蝿蛆症(ようそしょう[1]: myiasis, : Myiasis, : myiase, : myiasis)は、ハエの幼虫(蛆)が生きた哺乳類の体内に侵入したことによって発生する感染症(寄生虫性疾患)[2]である。つまり、何らかのハエの幼虫である蛆が寄生虫となった状態とも説明できる。蛆は宿主の生体組織を食べて成長する。ハエは開放創や尿、便に汚染された毛皮を好むが、一部の種(よく知られている蝿蛆症を引き起こす蝿、ヒツジバエクロバエラセンウジバエなど)は傷のない皮膚であっても侵入することができ、蛆の媒介者として湿った土や蝿蛆症を引き起こさないハエ(イエバエなど)を利用することが知られている。ヒトに寄生したものを真性ハエ症(obligate myiasis)として区別することもある[3]

蝿蛆症は、口語では「ハエウジ症、ハエ幼虫症(flystrike、blowflystrike)」などと呼ばれることがあり、患者またはその罹患組織は「うじがわいた(fly-blown)」と称される。このような状態を表す名称は古代ギリシャ語のμυ?α (myia、意味はハエ)に由来する。『南山堂医学大辞典』は「ハエ症」を主な見出し語に採用、「ハエ蛆症」を別名としている[3]。『ステッドマン医学大辞典』はmyiasisの訳語として「ハエウジ病・ハエ幼虫症」を挙げる[2]。『医科学大事典』は「ハエ幼虫症」を主な見出し語に採用、「ハエ症・ハエうじ症」を別名としている[4]。その他、「皮膚ハエ症」という用語を使用する文献もある[5]

ヒト以外の動物(とくに家畜)はヒトほど上手く蝿蛆症の原因や症状に対処できないため、このような寄生は、畜産業において非常に重篤で長引く問題となる。すなわち、ヒトの行動によって緩和されない限り、重大な経済的損失をもたらす[6]

典型的には動物においてより重大な問題となるものの、蝿蛆症を引き起こすハエが生息するような熱帯地域に住むヒトにとっても、蝿蛆症は比較的よくみられ、しばしば寄生した蛆を取り除くために外科的な処置を必要とする[7]

蝿蛆症は様々な病態をとり、患者への作用もさまざまである。このような相違は、ハエの種類と蛆が寄生した部位によって生じる。一部のハエは開放創に産卵し、一部の蛆は健康な皮膚を侵襲する。鼻や耳を通じて体内に侵入することもある。さらに、唇の周囲に産卵された卵や、食べ物に付着した卵を飲み込むことが原因となる場合もある[7]
兆候と症状

蝿蛆症とその症状にはいくつかの種類がある。蝿蛆症の人体への影響は、蛆の寄生部位によって決まる。蛆は様々な部位の死んだ、壊死した、あるいは生きている組織を侵す。寄生部位には皮膚、目、耳、胃、腸管、あるいは泌尿器・生殖器などがある[8]。蛆は開放創や健康な(=破綻のない)皮膚にも侵入する。一部は鼻や目を介して体内へ侵入する。蛆あるいは卵は、食物とともに飲み込まれた場合、胃腸に到達して消化器蝿蛆症を引き起こす場合がある[7]

症候群症状
皮膚蝿蛆症疼痛を伴い、徐々に進行する潰瘍あるいは「?」のような病変で、長期間にわたり腫れが続く。
鼻蝿蛆症鼻腔の閉塞、重度の痒み。一部の症例では顔面の浮腫、発熱。死亡例は少ない。
耳蝿蛆症這い回るような刺激と耳鳴り。嫌な匂いの滲出物がみられることがある。中耳に蛆が侵入した場合、脳へと移行する場合がある。
眼蝿蛆症一般的な病態であり、ひどい炎症、水腫、痛みを引き起こす。

院内感染

院内で起こる蝿蛆症も報告されている。ハエが存在する場合、開放創や炎症を伴う患者ではきわめて頻繁にみられる。院内での蝿蛆症を防ぐために、入院患者のいる部屋にはハエが入り込まないようにすべきである。
創傷部位

創傷部位の蝿蛆症は、開放創にハエの幼虫が寄生した場合に生じる。熱帯地域での戦争による受傷に伴う重大な合併症であり、戦争がなくとも世界の大部分の地域で傷口が放置された場合にもみられる。ハイリスク群としては、認知症などの精神的な問題のほか、一人暮らし・路上生活・家族の無関心などの社会的・経済的状況が悪いこと[1]、高齢、寝たきり[9]、肥満、糖尿病[9]、悪い衛生状態[9]、免疫力低下[9]、血管塞栓性疾患などがある。その他、アタマジラミによる咬傷もリスクを高めるという報告がある[10]

ヒトの眼で起こる蝿蛆症、すなわち眼蝿蛆症は、 Hypoderma tarandi(トナカイヒフバエカリブーに寄生)、ヒツジバエが原因となる。眼の蝿蛆症に続発して、ぶどう膜炎緑内障網膜剥離が引き起こされる。これら眼の表面あるいは内部で発生するいずれの病態も、ハエの幼虫により引き起こされる[11]
疫学と経済的打撃

家畜で最もよく感染がみられるのはヒツジであり、ヒツジのハエウジ症の項目でより詳細に解説されている。この病態はクロバエ科のハエによって、特に高温多湿な環境の場合、よくみられる。クロバエによる蝿蛆症は、オーストラリアのヒツジ産業において年間1億7000万豪ドル以上の損失を引き起こしており、これは世界でも最も甚大な損害である。この深刻なリスクに対処するため、オーストラリアのヒツジ農家はミュールシングと呼ばれるハエの寄生部位を除去する処置を行い、寄生を予防するのが一般的である。またヒツジの尾(頻繁に汚染され、ハエの標的となりやすい)のドッキング(短く切り落とす)も世界中のヒツジ農家の間では一般的に行われている。蛆はまれに外陰部に寄生し、外陰部蝿蛆症と呼ばれる病態を引き起こす[12]

このような問題はオーストラリアやニュージーランドに特有のものではない。特に家畜、とりわけヒツジが高温多湿な環境に置かれるアフリカの大部分や、アメリカを含む世界中(北半球の温帯地域から、対応する緯度の南の地域まで)で発生する。蝿蛆症はヒツジだけの病気というわけでもなく[13]、Cochliomyia属のハエ(特にラセンウジバエ)は家畜の牛やヤギで最大1億米ドルもの損害を生み出している[14]不妊虫放飼などの対策により、1972年以降は被害は軽減されてきている[15]
生活環

ヒツジにおける生活環は典型的である。雌のハエはヒツジの体表で湿っていて卵が保護されやすく、尿や便で汚染された部分(主に臀部)に卵を産む。卵が孵化するまでには天候などによるが約8時間?1日かかる。ひとたび孵化すると、幼虫は口器により皮膚を傷つけ、開放創を作る。皮膚が破られると、幼虫は宿主の皮下組織まで穴を開けながら進み、深刻な炎症を伴う病変を作り、その部位は感染の可能性が高くなる。およそ2日後、細菌感染が起こり、未治療のまま放置すると菌血症ないし敗血症を引き起こす。この結果食欲不振や虚弱が起こり、治療をしなければ一般的に致死的な経過をたどる。Chrysomya myiasis skin
ヒトにおける媒介動物

主に次の3種類の科に属するハエが、経済的に重要な家畜の蝿蛆症の原因となる。また、しばしばヒトにおいても問題となる。

クロバエ科(クロバエ)

ヒツジバエ科(ヒツジバエ)

ニクバエ科(ニクバエ)

日本にはこうした真正寄生を示すハエは生息していないが[16]、外国から帰国したのち蝿蛆症と診断された症例は存在する[17]

その他の科の関与もしばしば認められる。たとえば

カバエ科

チーズバエ科

ミズアブ科

ハナアブ科など。

品種特異的な蝿蛆症

幼虫の発育に特異的な宿主が必要なハエである。

Dermatobia hominis (
ヒトヒフバエ)

Cordylobia anthropophaga (ヒトクイバエ)

Oestrus ovis (ヒツジバエ)

Hypoderma spp. (ウシバエ属)

Gasterophilus spp. (ウマバエ属)

Cochliomyia hominivorax (新世界ラセンウジバエ)

Chrysomya bezziana (旧世界ラセンウジバエ)

Auchmeromyia senegalensis (コンゴの床バエ)


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