「ホタル」「蛍」「螢」のその他の用法については「ホタル (曖昧さ回避)」をご覧ください。
ホタル科 Lampyridae
ゲンジボタル Nipponoluciola cruciata
分類
ホタル(蛍、螢、?燿[1]、?[2])は、コウチュウ目(鞘翅目)・ホタル科 Lampyridae に分類される昆虫の総称[3]。発光することで知られる昆虫であり、ホタルという名もその様から「火(ホ)を垂(ル)」として呼ばれるようになったが、ほとんど光らない種が多い[3]。 極地や砂漠などの乾燥地を除いた全世界に分布していており、2000種以上が生息しているとされる[4]。幼虫時代を水中で過ごす水生ホタルと、陸上の湿地で過ごす陸生ホタルがいる[5][6]。ただし水生ホタルは世界で10種類ほどしか知られておらず、そのうち日本にはゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタルの3種類が生息している[4]。 日本で「ホタル」といえば一般的にはゲンジボタル Nipponoluciola cruciata を指すことが多い[7]。本州、四国、九州に分布し、九州地方では5月上旬から、東北では7月頃から羽化する[8]。 日本では50種ほどのホタルが確認されているがほとんどは南西諸島に分布しており、本州、四国、九州では、ゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタル、クロマドボタル
概要
南に下った台湾では60種以上が生息しており、初夏にホタルを鑑賞する観光行事も行われている[10]。
ゲンジボタルの成虫が初夏に発生するため、日本ではホタルは夏の風物詩と捉えられており、夜の蛍の発光を鑑賞する「蛍狩り」が行われる[注釈 1]。日本を含む東アジアにおいて、蛍の成虫は必ずしも夏だけに出現するものではない。例えば朝鮮半島、中国、対馬に分布するアキマドボタル Pyrocoelia rufa は和名通りに秋に成虫が発生する。西表島で発見されたイリオモテボタル Rhagophthalmus ohbai は真冬に発光する。 成虫の体長は数mmから30mmほどで、甲虫としては小型から中型である。体型は前後に細長く、腹背に平たい。特に前胸は平らで、頭部を被うことが多い。よくある色合いは全体に黒っぽく、前胸だけが赤いというものである。その体は甲虫としては柔らかい。オスとメスを比べるとメスのほうが大きい。メスは翅が退化して飛べない種類があり、さらには幼虫のままのような外見をした種類もいる。光でコミュニケーションする種では触角は糸状で細いが、フェロモンを使う種では鋸歯状だったり、クシ状だったりするものもいる。成虫期間は約1-2週間。 幼虫はやや扁平で細長い。頭部は胸部に引っ込めることができる。胸部に短い三対の歩脚があり、腹部の後端に吸盤があって、シャクトリムシのように移動する。 多くの種類の幼虫は湿潤な森林の林床で生活し、種類によってマイマイやキセルガイなどの陸生巻貝類やミミズ、ヤスデなどといった土壌動物の捕食者として分化している。日本に棲むゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタルの3種の幼虫は淡水中に生息し、モノアラガイやカワニナ、タニシやミヤイリガイなどの淡水生巻貝類を捕食するが、これはホタル全体で見るとむしろ少数派である(実際、『ファーブル昆虫記』に登場するホタルは陸棲で、カタツムリを捕食する)。また、スジグロボタル 多くの種類の成虫は、口器が退化しているため、口器はかろうじて水分を摂取するぐらいしか機能を有していない。このため、ほぼ1-2週間の間に、幼虫時代に蓄えた栄養素のみで繁殖活動を行うことになる。海外には、成虫となっても他の昆虫などを捕食する種がいる。 ホタルのうち尾部などに発光器官を持つ種は、酵素のルシフェラーゼと、ルシフェリンの化学反応で光を発する(後述「発光のメカニズム」参照)。日本の基礎生物学研究所と中部大学はヘイケボタルの、両者に米国マサチューセッツ工科大学を加えた研究チームは米国産ホタル「フォティヌス・ピラリス」のゲノムを2018年に解読。発光しない生物にもある脂肪酸代謝酵素(アシルCoA合成酵素)が、ホタルの祖先が進化する過程で重複を起こして、1億年以上前に発光能力を得たと推測されるとの研究結果を発表した(ホタルとは近縁のヒカリコメツキの発光原理も同様であるが、進化の過程は別)[11]。 ホタルが発光する能力を獲得したのは「敵をおどかすため」という説や「食べるとまずいことを警告する警戒色である」という説がある。事実ホタル科の昆虫は毒を有しており、よく似た姿や配色(ベーツ擬態、ミューラー擬態)をした昆虫も存在する。ただし、それらは体色が蛍に似るものであり、発光するわけではない。 卵や幼虫の時代にはほとんどの種類が発光する。成虫が発光する種は夜行性の種が大半を占め、昼行性の種の成虫では強く発光する種も存在するが、多くの種はまず発光しない。夜行性の種類では主に配偶行動の交信に発光を用いており、光を放つリズムやその際の飛び方などに種ごとの特徴がある。このため、「交尾のために発光能力を獲得した」と言う説も有力である。一般的には雄の方が運動性に優れ、飛び回りながら雌を探し、雌はあまり動かない。
形態
食性
発光