蚊遣り具(蚊遣具:かやりぐ)とは、山仕事や農作業、草刈りの際に蚊や虻、ブヨなどから身を守るための携帯型又は定置型の防虫道具である[1][2]。現代では使われない日本独特の道具とされる[1]。また、蚊取線香などの灰皿(受け皿)である蚊遣器(かやりき)とは異なるものである[3][4]。
ブヨなどの害虫が身体に寄ってくるのを防ぐ目的に、木綿、ヨモギ、スベ(わらしべ[注釈 1])、わらびのほどろ[注釈 2]、粟がら[注釈 3]、ボロ布、ヒエぬか、毛髪[8]などを藁苞(わらづと[注釈 4])の中に入れ、腰に下げ、先端に火をつけ、煙で虫を寄せ付けない道具である[2]。蚊遣り具の形状には苞状[注釈 5]、棒状、縄状などがある[8]。蚊遣り具の使用法には定置と携帯があり、定置の場合は、棒などに吊り畑の畔などに立てておく[8]。また、携帯する際は、服に火がつかないように、服と蚊遣り具の間に木や竹を挟むなどの工夫をしていたという[1]。
蚊遣り具は日本全国の山村地方に分布した[8]。全国的には「かび(蚊火)」、「カベ」と呼ばれることが多かった[注釈 6][2]。
18世紀(江戸時代)に描かれた『富山藩領山方絵巻』には、農民が田植えにて“蚊遣り具”を用いている様子が描かれている[10]。
なお、蚊火や蚊遣火(かやりび)は夏の季語である[11]。
注釈^ 稲わらの芯、わらのくず[5]。
^ わらびの伸びすぎてほうけた穂[6]。
^ 粟の茎[7]。
^ 藁を編み、物を包むようにしたもの[9]。
^ 納豆の袋のような形をしている[8]。
^ 富山県の方言では、蚊遣り具を「シカブ」、「スカブ」という[2]。富山ではシカブは「尻下火」がなまったものという説がある[2]。「スカブ」は「火蚊火」や「火株」を意味する[2]。他の地方にも「カスベ」(富山県魚津市)、「ブテ」(富山県南砺市臼中)、「ブトくすべ」(大阪府貝塚市蕎原)などの呼び方がなされていた[2]。
脚注^ a b c ⇒蚊遣り具『みんぱく e-news』、2006年8月16日刊行、加藤謙一、国立民族学博物館
^ a b c d e f g ⇒第1回 絵から見えてくるもの-シカブ(シカビ)・田植- 富山市民俗民芸村|民俗資料館|民俗資料館だより
^ ⇒収蔵庫I - 壁面ケース(ランプ形土器) 金沢市立埋蔵文化財収蔵庫ホームページ
^ ⇒館所蔵のシカブ 富山市民俗民芸村|民俗資料館|民俗資料館だより
^ 藁? とは - コトバンク