虐殺器官
[Wikipedia|▼Menu]

虐殺器官
著者
伊藤計劃
発行日2007年6月
発行元早川書房
ジャンルSF
日本
言語日本語
ページ数282
コードISBN 9784152088314
ISBN 9784150309848(文庫版)
ISBN 9784150311650(新装版)

ウィキポータル 文学

[ ウィキデータ項目を編集 ]

テンプレートを表示

『虐殺器官』(ぎゃくさつきかん、Genocidal Organ)は、日本の長編SF小説伊藤計劃のデビュー作品である。2006年、第7回小松左京賞最終候補。2007年発表。「ベストSF2007」国内篇第1位。「ゼロ年代SFベスト」国内篇第1位。2010年にハヤカワ文庫から文庫版が刊行された。

フジテレビノイタミナムービー」第2弾「Project Itoh」の一環として『ハーモニー』『屍者の帝国』と共に劇場版アニメ化された[1]

また、月刊ニュータイプにてコミカライズが連載されている[2]

2016年にはアメリカで実写映画化されることが報じられた[3]
ストーリー

サラエボで発生した核爆弾テロによって世界中で戦争・テロが激化した結果、アメリカをはじめとする先進諸国は厳格な個人情報管理体制を構築しテロの脅威に対抗していた。十数年後、先進諸国からテロの脅威が除かれた一方、後進国では内戦と民族対立により虐殺が横行するようになっていた。事態を重く見たアメリカは新たに情報軍を創設し、各国の情報収集と戦争犯罪人の暗殺を行うようになった。

アメリカ情報軍に所属するクラヴィス・シェパード大尉は、後進国で虐殺を扇動しているとされるアメリカ人ジョン・ポールの暗殺を命令され、相棒のウィリアムズら特殊検索群i分遣隊と共にジョン・ポールの目撃情報のあるチェコプラハに潜入する。プラハに潜入したクラヴィスは、ジョン・ポールと交際関係にあったルツィア・シュクロウプの監視を行うが、次第に彼女に好意を抱くようになる。ある日、クラヴィスはルツィアにクラブに誘われ、そこで政府の情報管理から外れた生活を送るルーシャスたちと出会った。その帰路で、クラヴィスはジョン・ポールに協力するルーシャスら「計数されざる者」に襲撃され拘束されてしまう。拘束されたクラヴィスはジョン・ポールと対面し、彼から「人間には虐殺を司る器官が存在し、器官を活性化させる“虐殺文法”が存在する」と聞かされる。ルツィアを監視していたことを暴露されたクラヴィスはルーシャスに殺されそうになるが、ウィリアムズら特殊検索群i分遣隊の奇襲によって救出される。しかし、ジョン・ポールとルツィアは行方不明になってしまう。

プラハでの遭遇後、核戦争で荒廃したインドで虐殺を行っている武装勢力「ヒンドゥー・インディア共和国暫定陸軍」にジョン・ポールが関わっていることを知ったアメリカ情報軍は再びクラヴィスらに出撃を命令するが、「虐殺文法」の話をクラヴィスから聞かされたロックウェル大佐は、ジョン・ポールを生かしたままアメリカに連行するように命令した。「ヒンドゥー・インディア共和国暫定陸軍」の本拠地に潜入したクラヴィスらはジョン・ポールの拘束に成功しアメリカに連行しようとするが、ジョン・ポールに情報を漏らしていた上院院内総務の派遣した部隊に護送列車を襲撃され、リーランドら多くの隊員を喪った挙句、再びジョン・ポールに逃げられてしまう。

情報軍との取引により院内総務が政界を引退した後、アフリカの「ヴィクトリア湖沿岸産業者連盟」政府にジョン・ポールが招待されたという情報を得たアメリカ情報軍は、クラヴィスらにジョン・ポール暗殺指令を出し、クラヴィスはルツィアに会うため「ヴィクトリア湖沿岸産業者連盟」領内に潜入する。「ヴィクトリア湖沿岸産業者連盟」軍の攻撃を受けた特殊検索群i分遣隊は散り散りになり、クラヴィスは単身ジョン・ポールの住む邸宅に向かい、彼と再会する。そこでジョン・ポールは、クラヴィスに「個人情報管理はテロ撲滅に何の意味も成さなかった」と語り、「アメリカを守るために後進国で“虐殺文法”を活用して内戦を引き起こし、アメリカに憎悪が向かないようにしていた」と真意を伝えた。ジョン・ポールの真意を聞いたルツィアは「アメリカの法廷で“虐殺文法”のことを公開し、犠牲者の生命を全ての人々が背負うべき」と訴え、ジョン・ポールは投降を決意する。しかし、そこにウィリアムズが現れてルツィアを射殺し、「個人情報管理によって得た“平和”を失うべきではない」としてジョン・ポールの暗殺を強行しようとする。クラヴィスはウィリアムズを爆殺してジョン・ポールと共に邸宅を脱出し、合流地点のタンザニア国境に到着するが、直後にジョン・ポールは射殺され、作戦は終了する。

3カ月後、何者かによって情報軍の行った暗殺作戦がリークされ、クラヴィスや情報軍関係者は公聴会に召喚される。公聴会の場で、クラヴィスはジョン・ポールに渡された「虐殺文法」を使用し、英語圏の「虐殺器官」を活性化させ、アメリカを中心とした内戦を引き起こす。
登場人物

声の項は劇場アニメ版の声優
クラヴィス・シェパード
声 - 中村悠一アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊大尉。数々の特殊任務を経ていくうちに、ジョン・ポールと交錯する。父の銃自殺、そして交通事故により脳死状態に陥った母の生命維持装置を止めた過去を持つ。映画と文学に明るい。言葉が好きであり、母親から「ことばにフェティッシュがある」と評されたこともある。無神論者で、カトリックを信仰するアレックスとは対照的であるが、神学について語らったことはある。だが、アレックスの「冒涜的なジョーク」を聞いた事が無いため、クラヴィスはアレックスのことを厳格なカトリックだと思っていた。
ジョン・ポール
声 - 櫻井孝宏数々の虐殺の影にあり、幾度となく暗殺対象となるも、その都度逃亡を果たす謎のアメリカ人男性。元MITの言語学者。ルツィアとは不倫関係にあったが、妻子をサラエボの核爆弾テロで喪い、その関係は終わる。J・G・バラードの小説をよく読んでいた。
ルツィア・シュクロウプ
声 - 小林沙苗ジョン・ポールの愛人とされる女性。プラハチェコ語の教師をしている。MITにて言語学を学び、そこでジョン・ポールと知り合った。ジョン・ポールの追跡任務に就いたクラヴィスの接近を受ける。なお、本来チェコ語では「シュクロウプ(?kroup)」は男性の姓、語尾に「ova」が付く「シュクロウポヴァ(?kroupova)」が女性の姓である。そのため劇場版では「ルツィア・シュクロウポヴァ」に名前が変更されている。
ウィリアムズ
声 - 三上哲クラヴィスの相棒であるi分遣隊隊員。クラヴィスとは任務以外でも交友関係にある。ゴシップ話とモンティ・パイソンのコントが好きで、常に軽口を絶やさない。妻子がいる。本作のスピンオフ作品『The Indifference Engine』にも登場。
アレックス
声 - 梶裕貴i分遣隊隊員(劇場版では少尉)。ウィリアムズ、リーランドと違い、クラヴィスに対して敬語で話す。カトリックを深く信仰しており、修士号を所持している。また、「地獄」を信じており「地獄は頭、脳みそのなかにある」という考えを持つ。東欧での任務から2年後、車内にて自殺する。葬儀はカトリックの礼式に則って執り行われた。グルジア語を話せる。劇場版では感情調整の数値ミスによってグルジアでの任務中にPTSDを誘発。標的Aを射殺した後にクラヴィスにも銃を向けるが、クラヴィスの判断で射殺、遺体は爆弾で破棄された。
リーランド
声 - 石川界人i分遣隊隊員。クラヴィスの部下。
ルーシャス
声 - 桐本拓哉チェコのクラブのオーナーで、ジョン・ポールに協力する団体「計数されざる者」のメンバー。スパイ活動をするクラヴィスを確保するが、突入したi分遣隊に射殺もしくは確保される(劇場版では射殺された描写がある)。彼の名前「ルーシャス」は、本作のプロトタイプ『HeavenScape』(小島秀夫のゲーム『スナッチャー』の二次創作小説、未完)における主人公の名前である。
ロックウェル
声 - 大塚明夫アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊指揮官。階級は大佐デルタフォースの出身者で、過去にはイーグルクロー作戦に従事していた。
用語
アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊
アメリカ全軍特殊部隊において唯一、要人暗殺を実行している部隊。特殊作戦コマンドの指揮下にある。特殊作戦任務のみならず諜報活動などの作戦にも投入され、クラヴィス曰く「スパイと特殊部隊のハイブリッド」。作品世界においてはアメリカ軍は9.11テロの影響で陸軍、海軍、空軍、海兵隊に情報軍(インフォメーションズ)が追加された五軍で構成されている。
サラエボ
劇中ではイスラム原理主義者の手製核爆弾により消滅した町。国家に対するテロの脅威度を増大させ、資本主義先進諸国の厳重な情報管理体制構築を引き起こした。また世界中で「核兵器は実戦に投入可能で効果的な兵器」という意識が持たれ始め、後にインド・パキスタン核戦争の遠因ともなった。
ID
個人情報認証のこと。サラエボの核爆発テロによって先進諸国では人々が網膜や指紋といった個人情報のデータが情報セキュリティ会社によって登録され、管理する体制が敷かれている。また、作中のゲリラ勢力も旧式のID技術を兵士の管理に使用しており、i分遣隊は東欧の作戦でこれを利用することによって敵の本部に潜入していった。
侵入鞘(イントルード・ポッド)
i分遣隊が使用する降下装備で、HALO降下に代わって使用されている。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:56 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef