蘆屋道満大内鑑
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葛の葉安倍晴明、安倍 保名、芦屋道満

『芦屋道満大内鑑』(あしやどうまんおおうちかがみ)は江戸時代中期初演の浄瑠璃作品。翻刻本・校注本によっては『蘆屋道満大内鑑』と表記される場合もある[注釈 1]。また読み方も「あしやのどうまんおおうちかがみ」とされる場合もある[注釈 2]

作者は初代竹田出雲安倍晴明伝説を題材に、親子の情愛をテーマとした作品。浄瑠璃初演の翌年には丸本物として歌舞伎化されたが、こちらの評価も高く、現在でも人気の演目となっている。
概要

初演は享保19年(1734年)、大阪竹本座。親子の情愛というテーマが二代目義太夫の芸風と馴染んだこともあり、人気作となる[1]

系譜としては、古浄瑠璃『しのだづま』の派生作品の中の一つとなるが、後発ゆえに先行作品[注釈 3]との差別化のため、従来悪役であった芦屋道満を「善人」として描く大胆な翻案により、物語に変化と深みを与えている。

全5段構成だが、明治以降は全段省略なしの通し上演が行われた記録がなく、通し上演でも3段目全部とそこへつながる2段目の岩倉館、親王御所北門、御菩薩池の3つおよび5段目全部が省かれるのが一般的である[1]。近年は4段目の前半部「狐(子)別れの段」と「蘭菊の段」(「道行信太の二人妻」の前半部)のみの上演となることも多い。

安倍晴明の出生譚である安倍保名と葛の葉の物語と、忠孝の士である芦屋道満が父殺しの悲劇を経て法師陰陽師となる経緯が並行して語られる。テーマに即して言えば、葛の葉の物語が母子、道満の物語が父子の情愛を描く、対称的な構造となっている。しかし、道満が主役となる3段目の上演が稀であり、上演機会の多い4段目における道満は「通りがかりの良い人」的な端役であるため[注釈 4][注釈 5]、なぜ本作の題名が『芦屋道満大内鑑』[注釈 6]なのか、理解しにくくなっている。このため、4段目以外の上演が皆無に近い歌舞伎では『葛の葉』という通称を用いることが多い。

時代設定は平安時代中期だが、公家社会が江戸時代の武家社会そのままに描写されるなど、端々に江戸時代の習俗が覗く架空の「平安ワールド」が舞台。
あらすじ

(以下の表記は『新日本古典文学大系 93』に依る)
第1段

東宮御所の段
朱雀天皇の御代、月を白虹が貫き、暗くなるという天変が発生する。勅命により東宮である桜木親王の御所において、親王の后「御息所」の父である橘元方、もう一人の后である「六の君」の父である小野好古をはじめとした諸官を集めて評議が行われることとなる。急死した天文博士、加茂保憲の代理で出席した娘の榊が見立てたところでは、今般の天変は凶事であり、東宮周辺の女性の嫉妬に原因があるという。この災いを避ける方法は加茂の家に伝えられている陰陽道の秘伝書『
金烏玉兎集』に書かれているが、これを受け継ぐ後継者が決まっていないと言う。候補は2名、安倍保名と芦屋道満だが、いずれかを選ぶ前に保憲が亡くなったので、『金烏玉兎集』の伝承者がいないと告げた。これを聞きつけた六の君と御息所が、両人とも尼となって凶事の原因を取り除くと訴え出る。これに慌てた桜木親王はとりあえず后2人を下がらせ、評議に参加した一同に安倍保名と芦屋道満はどのような人物かと問う。それに応えて橘元方が、芦屋道満は自分の家来であり、保憲の一番弟子であると主張。一方小野好古も、安倍保名は自分の家来であり、師匠である加茂保憲から「保」の字を名乗ることを許された一番弟子であるという。后2人に出家されては困る桜木親王は、神意=くじで天文博士の後継者を決めるよう指示し、元方側は執権(補佐官)の岩倉治部に、好古側は同じく執権の左近太郎が立ち会うよう命じた。

間の町の段
東宮御所からの帰路、榊は安倍保名の使用人である与勘平から手紙を受け取る。榊と安倍保名は加茂保憲も認めた恋仲であり、手紙は逢瀬を求める内容であった。榊は返事をしたため、保名からの手紙とともに与勘平へ渡そうとするが、風に飛ばされてしまう。榊は手紙が他人に読まれることを恐れつつ、屋敷へと戻る。

加茂館の段
加茂保憲の妻、榊の養母(榊は養子)は保憲の死後に出家して「後室」様と呼ばれている。後室は、橘元方側執権である岩倉治部の妹でもある。その後室のもとに刻限より早く治部が到着し、「偶然入手した」と、榊が失くした保名の手紙を見せる。さらに加茂保憲の後継者をくじで決めることになった顛末を語り、「くじでは保名が後継者になってしまうかもしれないので、何か良い方策はないか」と、加茂家の執権乾平馬を加えて相談する。後室は、自分の持つ鍵と榊の持つ鍵の両方がなければ取り出すことができないはずの『金烏玉兎集』を治部に見せ、「こっそり作った合鍵で取り出した」と告げる。治部は狂喜し、この『金烏玉兎集』を隠して、榊と保名が『金烏玉兎集』を盗んだことにする算段を巡らせる。そこへ何も知らない榊が帰宅、さらに逢瀬を楽しむべく保名も訪れてくる。榊と保名の仲は加茂の者以外には秘密なので、榊は保名を自室に隠す。そうこうしている間に左近太郎が到着。一同揃ったのでくじを行おうとするが、治部が「神前に『金烏玉兎集』を供えよう」と言い出し、これに同意した榊と後室がそれぞれの鍵で保管庫を開けると『金烏玉兎集』がない。治部と後室は事前の打ち合わせ通り素知らぬ顔で「榊が盗んだ」厳しく問い質し、そこへ平馬が榊の部屋に隠れていた保名を引き立ててくる。榊は「保名には罪はない」と弁明するが、保名は師匠の妻に手向かうわけにもいかず、脇差しで自害を試みる。その刀を榊が奪い取り、「身の潔白は神仏が明らかにしてくれる」と自刃して果てた。保名は榊の遺骸にすがりついて嘆いていたが、生真面目な性格が災いして正気を失い、哄笑とともにどこへともなく歩み去る。事が済んだので、平馬は左近太郎を帰らせようとするが、左近太郎はこれを投げ飛ばす。これを見た後室が左近太郎の狼藉を咎めるが、袖から合鍵がこぼれ落ちてしまい、逃げ出そうとする。これで真相を悟った左近太郎は平馬を斬首。逃げようとした後室は、駆け付けた与勘平が注連縄で梁から吊るして成敗。左近太郎は「事の詳細知れば保名も正気に戻るだろう」と与勘平に後を追わせた。
第2段

岩倉館の段
岩倉治部は加茂館の騒動をうまく抜け出し、その際『金烏玉兎集』も持ち出していた。治部は河内の郷士である石川悪右衛門と自分の娘婿にあたる芦屋道満を呼び出し、後室成敗の真相を明かさないまま加茂館の顛末を語り、『金烏玉兎集』の利用法に関して密議を行う。治部は『金烏玉兎集』を道満に与え、「これで陰陽道の大家となり、主人である橘元方の望みを叶えよ」と命ずる。道満は感謝してこれを受け取る。なんとか橘元方を東宮の外戚に地位に付けたいと考える治部は、道満に対して、陰陽道の術で橘元方の娘である御息所を懐妊させることが可能かを問う。道満は、御息所の懐妊については荼枳尼の法を用いればよく、そのためにはメスの白狐の生き血が必要と答えた。狐に関しては、悪右衛門の故郷石川郡で難なく手に入るという。さらに治部は六の君の拉致を計画しており、すでに試みたが東宮御所の警備が厳しく断念したことを明かした後、道満に人を誘い出すような術が『金烏玉兎集』に書かれていないかと聞く。道満は舅の本意が単なる拉致ではなく、六の君の殺害であることを見抜き、教え渋る。しかし治部は、道満の妹が敵方の左近太郎に嫁いでいることを持ち出し、妹のために己が主を裏切るのかと厳しく詰問し、挙句の果てに娘と離縁させて、舅・婿の縁を切るとまで言い出す。これに負けて道満は人をおびき出す術式を治部たちに教え、「どこで殺すのか」と問うた。治部は「御菩薩池(みぞろがいけ)に沈める」と答え、さらに悪右衛門が実行役を買って出た。悪右衛門は、事が成った暁には、自分の伯父の所領である信太の庄と、伯父の娘「葛の葉」を貰い受けられるよう、橘元方に口添えして欲しいと治部に頼み込み、治部はこれを承知した。

親王御所北門の段
東宮御所内の六の君の住居に近い北門で、石川悪右衛門は道満の指示したとおり、神符を所定の位置に貼る。


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